アナと雪の女王:日本版で声を担当 松たか子と神田沙也加に聞く ヒットの理由は「大人向けだから」

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 ディズニーの劇場版アニメーション「アナと雪の女王」が興行収入120億円を突破、動員1000万人目前と記録的なヒットを続けている。映画は運命に引き裂かれた王家の美しい姉妹・アナとエルサを主人公に、凍った世界を救う“真実の愛”を描いたファンタジーで、日本版では神田沙也加さんがアナ役、松たか子さんがエルサ役、ピエール瀧さんがオラフ役の吹き替えを担当している。大ヒットを記録している中、松さんと神田さんに改めて話を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇意志を持った自立心のあるヒロイン

 映画のヒットの理由を「ディズニーが何を作るのかということに世界中が注目していて、それにディズニーが応えたという結果にほかならないと思います」と松さん。「新たなチャレンジをした結果が『アナと雪の女王』で、それを楽しんでもらえたのかなと。本当に(エルサを)やってよかったなと思います」と今作に出演できた喜びとともに語る。

 一方、神田さんに国境を超えて支持を集めたことについて感想を聞くと、「意外と大人向けだからだと思います」と切り出し、「ビジュアルだけ見ていると可愛らしい姉妹に見えるし、アニメーションが始まってからも可愛らしいというのは魅力としてはもちろんありますが、意外と、言っていることやとっている行動が結構自分の意志があったり、ヒロインは自立心があってというふうに描かれることが多いんですけど、それが希望にだけ向かっていくだけではなくて、割と奥底のネガティブな部分というのも描かれていて、人間らしい、より完璧ではないヒロインの形というのがあると思います。もちろん王国と現代と舞台は違いますが、現代を生きる女性だったり、妹を持つ方、お姉さんを持つ方だったりという方々に年齢に関係なく受け入れられているからではないかなと思います」と持論を展開する。

 今作はディズニー長編初のダブルヒロインで、これまでディズニーが描いてきたラブロマンスとはまた違った、ある意味、予想外の展開が続く。ストーリーの印象について、松さんは「2人が離れている時間があって『久しぶり』というぎこちない感じとか、可愛らしいんだけれどもちょっと切ない姉妹の関係はドラマチックな感じがしてすてきだなと思いました。一緒に育つはずの2人がいなかった時間がぽっかり空いていて、再会でお話がスタートしていくので、想像してそれぞれの時間があったんだなと。一緒じゃなかった時間や、会えたときに『キャー!』となるわけでもなく、『どうも。久しぶり』という感じになるにはいろいろ想像しながらできたので、すごく興味深く読みました」と語る。

 製作総指揮のジョン・ラセターさんのインタビューを読み込んだという神田さんは「『雪の女王』はアンデルセンの童話を想像すると思うのですが、焦点を女性に持ってきてそれを姉妹というものに置き換えて描いたときに、ドラマチックミュージカルというだけあって、久しぶりの会話や説得するところが歌になっていたりするので、姉妹の間に起きていることだけでもドラマチックなのに、歌になることによってより心情というものが伝わってきて、松さんもおっしゃっていたように、お客様に関係性というのがより切なくよりお互いを思い合う心というのが強く伝わってくるのが全編に見え隠れしている」と分析。

 続けて神田さんは「新しいと思ったのがすごく悪者という人がいなくて、“善対悪”という形ではなく“愛対おそれ”というものになっていること。愛というのはエルサとアナの両方持っていて、おそれというのはエルサの持つ力だったり、アナとエルサが生きていくのを阻む何か能力や人だったりというものを描いているそうで、絶対的に姉妹を取り巻く環境として描いていることから感情移入しやすいんだなと思います」と語った。

 ◇今回の役はきっと自分の分身になる

 共演するのが初めてだという松さんと神田さんだが、アフレコは別々に行われた。「私は神田さんが(声を)入れたあとに入れたのですごく助かりました」と松さんが笑うと、「私は誰かいるっていいなと思いました」と神田さんもしみじみとしながらも笑顔を見せる。互いの声の印象を松さんは、「本当にぴったり。私がいうのもなんですけど、何の違和感もなくアナがしゃべって歌っていると思えました。アナは独り言とか妄想をしてずっと一人でキャッキャッいっている面白い子なのですが、とてもチャーミングに吹き込んであったので、自分もすんなりエルサになっていけたと思っています。初めて(神田さんと)お仕事をご一緒して、面と向かってやってはいないけれど、一緒に姉妹をやっている実感を生き生きと感じながらできて、すごくうれしかったです」と神田さんの声を絶賛する。

 松さんより先に収録を行った神田さんは「字幕版の方と会話していました」と笑い、続けて「最初にエルサは松さんということを聞いていたので、勝手なイメージですけど、すごくぴったりだと思いました。いつかご一緒したいなと思っていた女優の先輩ですし、(共演は)舞台かなと思っていたのですが、こういう形で姉妹になれたことがとてもうれしくて、試写で初めて声を聞いて『会話している!』と思いました(笑い)。アナもエルサのことを恋しく思っているんですけど、一人で(声を)入れていたというのもありますし、インタビューなども別々に受けることが多かったので、アナの気持ちに自分を投影して、(松さんに)会えた瞬間にちょっと泣きそうになるんです。今も結構、感動していて、一人じゃないってすごくいいなって思っています……」と収録時の心境を振り返る。

 ディズニーはよほどのことがない限り、キャラクターの配役を変えない。松さんはエルサ、神田さんはアナをこれからも機会があれば演じていくことになるが、松さんは「そんなに大きいことだという実感がまだないのかもしれません」といい、「舞台の再演や当たり役に出合うこともめったにあることじゃないし、むしろ出合ってしまうことは素晴らしいことであると同時に、私なんかはまだ怖いことだとも思っています。でも、ディズニーのヒロインは一生に一度だと思いますし、すごく(歌うのに)大変なナンバーもありましたが、頑張ってみようと気持ちが動いたのでお受けしました」とエルサ役に挑戦したときの心境を明かす。

 神田さんは「どこの国でもオリジナルのアナやエルサが生まれ、日本版では自分になったというのがすごくうれしい」と喜ぶ。ずっと同じ役と付き合っていくことについては、「派生物が楽しみでしょうがない。『アナと雪の女王』という映画としては完結していますけど、そこから派生していくものはこれからもあって、例えば短編だったり、もしかしたらゲームだったりするかもしれないんですが、もっと(アナとして)しゃべりたいです。ちょっと(自分の)分身みたいな感じになるんでしょうね」と今後について期待に胸をふくらませる。

 ◇これから見る人におすすめポイント解説

 公開中ということで、松さんと神田さんに映画を初めて見る人とリピーターそれぞれにオススメの鑑賞ポイントを聞くと、神田さんは「最初は何も考えずに見ていただいても映像美というのが何も説明しなくてもすごいというところが一つ。また、私も覚えるときにそうでしたが、音楽は一回聴いただけでも口ずさめるぐらいキャッチーな部分があるのでそこを楽しんでもらったら、声を入れている側もそうですが、曲が頭から離れなくなると思います。離れなくなったところでもう一回見てもらったら、今度は字幕版や日本版など見ていないほうに興味を移してもらって、各言語の美しさや口の動きにぴったり合っていて違和感がないという翻訳のすごさやパワーを楽しんでもらいたい」とコメント。

 一方、松さんは「自分の興味が向くままに見てもらえれば。私を含め誰が何回見てもどこを見ても、パーフェクトな世界だなと思う。何回も見て、今回は背景に目がいったなとか、今回は曲が気になったなとか、今回はハンスとクリストフの2人の男の人の微妙な声の違いに興味がいったなとか、アナが好きだな、エルサがすてきだなとか、その人が気持ちの向くままにどこを見てもらっても大丈夫だと思うので、それぞれの人が(気に入る部分を)見つけてもらうのが一番いいのではと思います」と語った。映画は全国で公開中。

 <松たか子さんプロフィル>

 1977年6月10日生まれ。東京都出身。93年「人情噺文七元結」で初舞台を踏み、94年にNHK大河ドラマ「花の乱」でドラマ初出演。以降、舞台やドラマ、映画などで活躍し多数の賞も受賞。97年には「明日、春が来たら」で歌手デビューしている。

 <神田沙也加さんプロフィル>

 1986年10月1日生まれ。東京都出身。舞台を中心に女優としてのキャリアを積み、「INTO THE WOODS」「グリース」「ウーマン・イン・ホワイト」「ピーターパン」「レ・ミゼラブル」「SHE LOVES ME」「ファンタスティックス」「Endless SHOCK」「ひめゆり」「赤毛のアン」ほか、多数のミュージカルに出演。2002年に歌手としてデビューし、シングルやアルバムをリリース。

(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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