最近、浪曲というエンターテインメントに少しずつ追い風が吹き始めている。その中心で風を吹かせているのが東(関東地方)の玉川奈々福さんと西(関西地方)の春野恵子さんだ。この2人が笑わせ、聴かせる年に一度の真剣勝負の会「浪曲タイフーンVol.5~旅うらら、もう、どうにも止まらない!~」が20日午後2時、東京・亀戸文化センター(カメリアホール=JR総武線亀戸駅前)で開かれる。
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奈々福さんは浪曲師とコンビを組む三味線の曲師としてデビューし、2001年から浪曲師としても活動。「浪曲を知ってほしい」と自らプロデュース公演も手がけてきた。
恵子さんは、かつて人気番組「進ぬ!電波少年」(日本テレビ系)で「東大卒の家庭教師・ケイコ先生」でブレーク。自分の進む道を探していた時に浪曲に出合い、06年に初舞台を踏んだ。今年はニューヨーク公演も成功させている。
「浪曲タイフーン」の企画は奈々福さんが担当。「昔のような大劇場があるわけでなく、どうやって浪曲が生き残っていけばいいのか。とにもかくにも浪曲を聴いたことのある方が少ない。まず一席聴いていただいて、そこで勝負するしかないと。恵子ちゃんはものすごく意志が強くて、私の無理なお願いにも『浪曲をアピールするためにはなんでもやりましょうね』と、徹底的に応えてくれるのがありがたい」という。
年1回の公演は今回で5回目。冒頭から浪曲ではなく、「浪曲に触れたことのない方に浪曲の面白さを知ってもらいたいから」と、まずは2人によるノリノリの浪曲漫才を披露する。コンビ名は「芸のためなら女の幸せ あとまわシスターズ!」だ。
続いて、2人がリスペクトする先輩を招くゲストコーナーでは、最強の女性ユニット3人組、だるま食堂の「お姉さま」が登場。テレビではめったに見られない迫力の「ボインボインショー」は必見だ。
そして後半は、奈々福さん(曲師・沢村豊子さん)、恵子さん(曲師・一風亭初月さん)が、この1年の成果を見せる浪曲の競演だ。2人の戦いでもあり、お客さんを浪曲のリピーターでできるかどうかの勝負でもある。
奈々福さんは、東日本大震災で浪曲について改めて考えたという。「震災で仕事がキャンセルになって、ぼうぜんとする時間ができて、浪曲をやることとはなんなんだろうと。お客さんが会場に入ったら『油断できる時間』を作るのが私達の仕事ではないかと。現代人は皆、鎧を着て生きている。でも、ここでは鎧を解いて心を遊ばせる時間を過ごしてほしいと思うようになりました。浪曲という芸については確信はあるんです。でもいかんせん、見せ方は足りないことがあった。我慢、我慢でやってきて、ようやく手応えを感じてきました」と語る。
一方の恵子さんは、「私は奈々福姉さんの活動を見ながらやってきたので、とても影響を受けている。前例にとらわれず、こんなことをしてもいいんだ、お客さまがこの会を楽しみにしてくださっているのがうれしい。私は本当に無計画で、その時、思いついたことをやってしまう、その繰り返し。これからは計画的にやらないといけないかなと思うくらい。人生は限られているし、私達が浪曲師としていられる時期は短い。何ができるか、考えないとと最近思うようになった。若手の後輩が入ってきてくれたことがうれしい。(自分に)続いてくれる人がいて、自分が浪曲で食べていける、後輩から憧れられるような存在でないと……」と話す。
2人にとって400席の会場は大きなスペース。「なんとか400席を満席にしたい」が2人の願いだ。20日午後1時半開場。3000円(当日3500円)。問い合わせはカメリアホール(電話03・5626・2121)まで。(油井雅和/毎日新聞)