落語界初の文化勲章受章者、桂米朝さん(享年89)が19日に亡くなり、通夜、葬儀の模様はニュースでも大きく取り上げた。25日に葬儀が終わり、追悼記事も一段落。「実は、米朝さんの落語、聴いたことないんです」という方も少なくないはず。「落語って難しいのでは?」と思っている方も、ぜひこの機会に米朝さんの落語に触れてほしい。なぜなら、数多くの本、CD、DVDを遺してくれた米朝さんの落語は、「落語って?」という人も、ファンにしてしまう力を持っているからだ。晩年は落語を演じることがなかった米朝さん。今こそ米朝落語を改めて聴き楽しみたい。
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米朝さんは、かつては東芝EMI、現在はユニバーサル・ミュージックから数多くの音源を発表している。
まずおすすめしたいのが、「THE 米朝」(2007年)。米朝さんが再構成して演じた1時間を超える大ネタ「地獄八景(ばっけい)亡者戯(もうじゃのたわむれ)」のCDに、「百年目」「本能寺」の2席のDVDがセットになった2枚組みで3000円と、お手頃だ。
「桂米朝 らくごの世界」(2010年)は文化勲章受章記念としてリリースされたDVD3枚組み8640円と、こちらも求めやすい。葬儀で弔辞を読んだ俳優の近藤正臣さんがナビゲーターを務め、「花筏(はないかだ)」など6席を収録。千原ジュニアさんと米朝さんの孫弟子・桂吉弥さんの特別対談も収められている。
そして、昨年秋に発売されたばかりの「落語研究会 桂米朝全集」(3万2832円)は、TBS落語研究会(東京・国立劇場小劇場)で1971~2002年に収録した17席をDVD8枚に収めた、卒寿記念の作品だ。
ほかにも、米朝落語は「特選!!米朝落語全集」がDVD30巻、CDで40巻、発売されているなど数も多いため、聴いてみたいと思った作品を単品で少しずつ楽しむのもいい。
さて、これだけたくさん音源がある米朝さんだが、いったいどのネタが「おすすめ」なのか。追悼特集で大阪で放送された番組で、米朝さんは「師匠の好きなネタは?」という質問に、「一つだけ挙げろと言われると難しいけど、三つ挙げろと言われれば『たちぎれ線香』『はてなの茶碗』『百年目』かな」と答えている。
この3席と「地獄八景亡者戯」を、まず聴いていただきたい。ちなみに「たちぎれ線香」は笑福亭鶴瓶さんが演じている。「はてなの茶碗」(東京落語では「茶金」)は落語ファンで自分も演じるキッチュこと松尾貴史さんが好きな演目。「百年目」は立川談春さんが現在、全国公演中の30周年記念落語会「もとのその一」でかけるこだわりの演目だ。
米朝さんの本でまずおすすめしたいのが「落語と私」(文春文庫、494円)。1965年に中高校生向けに書かれたものを改訂したものだが、大人が読んでも、そして今読んでも、上方落語や米朝師匠のことが、分かりやすい文体で書かれている入門書だ。
米朝さんの芸談がたっぷり読めるのは、人気ラジオ番組をまとめた「米朝よもやま噺(ばなし)」(朝日文庫、756円)。聞き手の市川寿憲さん(惜しくも13年に早逝)が、見事に米朝師匠の言葉を引き出している。
戦後、存亡の危機にあった上方落語が、米朝さんら、のちに「四天王」と呼ばれる若者たちの力で復興へと進んでいく歴史は、昨年出版された、戸田学さんの「上方落語の戦後史」(岩波書店、4968円)が詳しい。
さらに米朝落語を知りたいという方には、「桂米朝集成」「桂米朝座談」(いずれも岩波書店)、そして完結したばかりの「米朝落語全集 増補改訂版」(全8巻、創元社)といった大作もある。図書館に収蔵されていることが多いので、閲覧してみてほしい。(油井雅和/毎日新聞)
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