最近テレビやCMでちょくちょく見かけるけれど、実はあんまりよく知らない……。そんな、今さら聞けない“ネクストブレーク芸人”の基礎知識を、本人の言葉を交えて紹介。今回は吉本新喜劇の座長を務めるすっちーさんとメンバーの吉田裕さんをピックアップする。本拠地の大阪ではすでにおなじみとなっている2人の人気ネタ「乳首ドリル」が一躍有名になり、2015年は数々のバラエティー番組、ネタ見せ番組で披露してきた。吉本新喜劇のオリジナル演目を映画化した「西遊喜」(嘉納一貴監督)が現在、劇場公開されているが、「大阪の劇場で生のネタを見てほしい」「ライバルはUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)、ユニバやな!」と宣言する2人に、吉本新喜劇の魅力や乳首ドリルの誕生秘話などについて聞いた。
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すっちーさんは、1972年1月26日生まれ、大阪府出身。吉本新喜劇には2007年10月に入団し、14年から座長を務めている。吉田裕さんは、1979年3月29日生まれ、兵庫県出身。吉本新喜劇には2005年の金の卵オーディションで入団した。
すっちーさんの入団のきっかけは、入団以前のお笑いコンビ「ビッキーズ」の解散で、「コンビの頃から若手とイベントに出ていた。ちょこちょこ経験させていただいたので、新喜劇へ入る道を、選択肢の一つにしていた」という。決め手となったのは、新喜劇の中での笑いの取り方だといい、「いろんな人に突っ込んでもらえたりしたので、それが新鮮に感じた。コントの舞台を広くつかうのが楽しかった」、また「座長という目指すものがあったので、そこが大きかった」と振り返る。一方の吉田さんも、当初はコンビとしてお笑いをやっていたが、「オーディションの『ホームグラウンドを変えてみませんか』という言葉に引かれて挑戦した」という。
乳首ドリルは、上半身裸になった吉田さんが、すっちーさん扮(ふん)するおかっぱ頭の女性「すち子」に手に持った棒でリズミカルに突かれたり、たたかれたりするというネタ。吉田さんがリズムに合わせて発する「ドリルすな、すな、すな」や、「爪先やめろ、あごやめろ」「せんのかい?」などのフレーズが人気を集めており、公開中の映画「西遊喜」でも、劇中で乳首ドリルを披露しているという。
ネタは2010年ごろ、京橋花月での公演に出演した際に、アドリブで誕生したという。吉本新喜劇のネタは、それぞれの座長によって作り方が違うというが、「台本としてネタが決まっている時もあるけれど、ちょっとフリーで、『チンピラがやってきました。対決内容書いてあるけれど、変えてもいいよ』ということもある。ここが力の見せどころ。自分で出番を増やしていく」(すっちーさん)と、団員に任されている部分もある。乳首ドリルの部分も当初は「すっちーさんが僕(吉田さん)をたたく、という1行が、すっちーさんの遊び心で10分以上に延びた」と、笑いながら振り返る。
ただ吉田さんをたたくだけだと「1週間出番があるので、自分たちが飽きるので、何かいろいろやりたい」と、すっちーさんが服を脱がせるなどのアドリブを展開。それに対して吉田さんが「服を脱がせたのに、関係ない爪先たたくから『爪先やめろ!』」と応え、さらに観客の反応のいい方にリアクションを削ったり足したりして、今の形となったという。はじめに「乳首ドリル」という言葉を言ったのは吉田さんで、「お客さんより、僕が笑った。『ドリルって何やねん。変なこと言うな』と思って、何度もやったら、『すな! すな!』って(続いた)。そんなんです」と笑うすっちーさん。最初は「ずっとしつこくやるんですけれど、全然受けないんですよ。それでもずっとやってると、だんだん笑いが戻ってくるのが面白くて。その場その場で(観客の)リアクションが楽しい。机の上では考えられないですよね。お客さんと作っていった感じ」と語る。
もともと大阪ではおなじみの人気ネタだった乳首ドリルが、14年の正月ネタ見せ番組「笑いの王者が大集結! ドリーム東西ネタ合戦」(TBS系)をはじめ、全国ネットの番組で紹介され、知名度が急上昇。15年は、すっちーさんに代わって、ゲストが吉田さんに乳首ドリルをしかけるというコラボネタが人気となった。テレビのバラエティー番組はもちろん、イベントなどでは女優の筧美和子さん、タレントのおのののかさん、アイドルグループ「でんぱ組.inc」の夢眠ねむさんらとコラボネタを披露した。
すっちーさんがコラボ相手で印象的だったのは、熊本県の“営業部長”で人気キャラの「くまモン」で、「くまモンはちょっとやんちゃで力任せに(ドリルを)やってきて、付いていたピンマイクが飛んだ。『ちょっとキツいよ!』と言ったら、僕にも突っ込んできたから、はらが立ってドーンとどついてやった」と明かす。一方の吉田さんは京都水族館のイルカだといい、「乳首を僕から出してるんですけれど、イルカがそれを突く」と、斬新な体験を明かした。今後やってみたいコラボ相手はオバマ大統領というすっちーさん。「そんなことしたらボディーガードに羽交い締めにして連れて行かれると思います!」と、吉田さんに止められた。
吉本新喜劇の東京での反応について、すっちーさんは「TOKYO MXで放送してもらっているからか、YOUTUBEからか、何か、すごくウエルカムな感じ。(東京での公演は)すごく楽しみにしてくれている感じがある。生で見ようと思ってきてくれる」と、手応えを感じている様子。その魅力について「年齢層を選ばない。若手のお笑いライブは年配はついていけない、落語だとちっちゃい子は分からない、でも新喜劇はみんなが楽しめるんじゃないかな、家族で見に来て退屈する人はいない」と、自信を見せた。
ブレーク後も、本拠地の大阪で舞台に出て「大阪でテレビ、たまに東京でもやらせてもらう、それは変わっていないですね」というが、「ちょっとずつやけど、大阪に新喜劇を見に来てくれる東京の方が増えてきた」と喜ぶ2人。「わざわざ関東に向けてネタを作っていない。(テレビ放送でも)普段気負わずにやっていることをそのまま放送していただいているので、ありがたい。東京に分かりやすくやってねと言われなかったのがありがたい」と、今後も、吉本新喜劇のそのままの魅力を守り続けると語る。
そんな2人のライバルを聞くと、吉田さんは同じ新喜劇のメンバーで、「すち子&真也」の名義ですっちーさんとCDデビューを果たした松浦真也さんを挙げ、「真也とすち子さんの取り合いですね。僕がすち子さんと乳首ドリルしているときに、後ろで真也がにらんでた。CDを出してから、その気持ちがよく分かった」と、すっちーさんとのコンビを守りたい気持ちを明かして、すっちーさんを笑わせた。すっちーさんは、ライバルではなく意識する人として、同じ座長の小籔千豊さんを挙げ、「すごくいききっている方。センスの塊なので、勝負すると負けるのは分かっている」と尊敬の念を明かし、「小籔さんにないものは何だろう。いっしょにやって僕が生きる部分は何だと考えるようになった。対等には無理ですけれど、新喜劇が盛り上がっていくために力になりたい」と、熱く語った。
一方、吉本新喜劇としてのライバルは「(テーマパークの)ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」。すっちーさんが「大阪にはメチャメチャ外国の観光客が来るんですけれど、言葉が分からないから、吉本新喜劇には来ないんですよ」と、悔しそうに語ると、吉田さんも「もうそろそろ新喜劇のアトラクションができてもいい。コテコテだから無理か。ユニバはやっぱりライバルです!」と宣言していた。