この「きみの色 インタビュー」ページは「きみの色」のインタビュー記事を掲載しています。
インタビュー(1)の続き 「映画 聲の形(こえのかたち)」「リズと青い鳥」などで知られる山田尚子監督の劇場版オリジナルアニメ「きみの色」が、8月30日に公開される。2011年に「映画けいおん!」で初めて長編劇場版アニメの監督を務め、精細な映像表現で少年、少女たちを美しく、みずみずしく描いてきた山田監督が「音楽×青春」をテーマに“今の子供たちの思春期”を描く。「見ていただく方の無意識の作用を大切にした」と語る山田監督に、制作のこだわりを聞いた。
◇映画の中くらいは心地よい世界を感じてほしい 無意識の作用を大切に
「きみの色」は、人が「色」で見える高校生の少女・日暮トツ子が、同じ学校に通っていたとても美しい色を放つ少女・作永きみ、音楽好きの少年・影平ルイとバンドを組むことになる……というストーリー。俳優の鈴川紗由さんがトツ子、高石あかりさんがきみ、木戸大聖さんがルイを演じ、新垣結衣さんがトツ子が通う学校のシスター日吉子役として出演する。「映画 聲の形」などでも山田監督とタッグを組んだ吉田玲子さんが脚本を手がけ、牛尾憲輔さんが音楽を担当する。「映像研には手を出すな!」「平家物語」などのサイエンスSARUが制作する。
作中では、人が「色」で見えるトツ子が見ている世界は、美しく色鮮やかに描かれる。「色」が一つのキーワードとなる本作において、山田監督は「怖い色を入れないことに気をつけました」と語る。
「生きていると、もちろん暗い部分もあるし、良いことばっかりじゃないのは承知しているんですけど、映画の中くらいは心地よい世界を感じてほしいなと思うんです。その心地よさは、ちょっとした描写から無意識で受け取っているものなのかなと思うので、怖い色を入れないとか、鋭いものをなるべく排除していくようなイメージで制作しました。ほんのちょっとした不協和音が起こっただけで、画面の印象として不穏に感じることもあるので、いろいろなところで、見てもらえる方の無意識の作用を大切にしました」
画面に空気の粒子のようなものが描かれているシーンもあり、それも無意識の作用を意識した表現だという。
「そうすることで、ちょっと懐かしい気持ち、何かを振り返るような気持ちになってもらえたらと。でも、今を焼き付けているフィルムの印象にもしたいので、見ている人が自分でカメラを持って撮っているような、そんな画作りを目指しました」
◇この世界の中をのぞいている集中力を切らさない音楽
美しい映像と共に「きみの色」の見どころとなっているのが、3人の高校生の主人公、トツ子、きみ、ルイによるバンドの初舞台となる学園祭での演奏シーンだ。作中で3人が制作し、演奏する楽曲「水金地火木土天アーメン」「あるく」「反省文~善きもの美しきもの真実なるもの~」は、山田監督が作詞し、牛尾さんが作曲を手がけた。山田監督は「しっかり地に足をつけたシーンにしたかった」と演奏シーンのこだわりを語る。
「どの楽曲も、音数を多くせず、派手派手しくないようにと牛尾さんにお願いをしました。音数を少なくする分、一つ一つの音を深めたいと。音と色と動き、キャラクターの感情と、全てのレイヤーが重なって、しっかり地に足をつけたシーンにしたかったので、楽曲だけが飛び抜けないように、でも足りなくないように、というバランスで作っていこうとしました。音の少なさがより彼女たちの感情の呼び水になる。あとは見ている方にとっても、この世界の中をのぞいている集中力を切らさない音楽、彼女たちが演奏しているのが納得できる音楽というものを大事にしました」
トツ子たちは、バンドを組んで数カ月で、初めて自分たちで作った楽曲を学園祭で披露することになる。トツ子たちが歩んだ道と地続きになるような音楽を目指した。
「ちゃんと3人が作った音楽で、それを3人が演奏している。という世界を壊さないように大切に描きました」
トツ子たちの集大成である学園祭のライブに観客が没入できるよう、まさに学校の体育館でライブを見ているかのような体験ができるよう、丁寧に繊細に作り上げられていった「きみの色」。改めて山田監督に思春期の子供たちを描く上で、大切にしていることを聞いた。
「キャラクターたちの尊厳を絶対に守ること。その一つです。失礼のないように。もし、自分では理解できない考えを持っているキャラクターがいても、その理由にちゃんと寄り添えるよう聞く耳を持てるようにする。勝手にコントロールしないようにするというか。今回も、アニメーターの方だったり、キャラクターデザイン・作画監督の小島崇史さんであったり、キャラクターに愛を持って尊厳を保つというところに同調してくださって、本当に丁寧に大事に描いてくださいました。だからこそ、よりキャラクターたちが生きている。作り手に愛されているキャラクターが生まれて、すごく感動しました」
山田監督の作品の中で生きるキャラクターたちは、触れてはいけないような繊細さを持ちながらも、強く、美しい。トツ子たちの青春と音楽の物語をすぐそばで見守るような感覚を劇場で味わいたい。