この「違国日記 インタビュー」ページは「違国日記」のインタビュー記事を掲載しています。
ヤマシタトモコさんの人気マンガが原作のテレビアニメ「違国日記」が、2026年1月4日からABCテレビ、TOKYO MXほかで放送される。人見知りの小説家・高代槙生と、その姪で両親を事故で亡くした少女・田汲朝の同居生活を描く。同作で、初めて監督を務めることになった大城美幸さんに制作の裏側を聞いた。
◇リアルだからグサッと刺さる
大城監督はこれまで「夏目友人帳」「デュラララ!!×2 」など数々の作品に参加してきた。「演出を始めて10年くらい」というが、意外にも監督を務めるのは初めてだ。
「絵を描く仕事をしたい……とフワッとした感じで、アニメーターになって、やってみたら結構向いていたんです。アニメーターは毎日、同じことをやらないんです。同じようなカットは二度とない。似たようなものがあっても、キャラクターが違えば、芝居も違う。それが新鮮で楽しいんです。アニメーターになるきっかけとなった作品は特になくて、アニメ業界に入る段階で『ノエイン もうひとりの君へ』を見て、面白い作品があっていいなとは思っていました。アニメーターをやっていて、現場で演出の仕事を見て、面白そうだなと思って、演出もするようになりました。フワッとしています。なんでも楽しんでいますね。初監督なんで、右も左も分からず、大変ですけど、やっぱり楽しんでいます。」
「違国日記」は「この作品が好きなのでアニメ化したいと声を上げた」という。
「朱夏で何か監督作品を、というお話がありまして、『何かやりたい作品はありますか』と言われ、実はこんなマンガがありまして……と提案したところ、ポニーキャニオンの上田智輝プロデューサーがすごく気に入ってくださって、気合の入った企画書をすぐに作ってくれて、動き出しました。最初に原作を読んだのは、コミックス第2巻が出たくらいのタイミングで、ヤマシタ先生の『さんかく窓の外側は夜』とコラボをしていて、気になって読んでみたところ、すごく面白かったんです。アニメの話をした時は第7巻が出た頃だったと思います」
高代槙生は、姉夫婦の葬式で両親を亡くした姪の田汲朝を、勢いで引き取ることになる。孤独を好む槙生と、人懐っこく素直な性格の朝という、性格も価値観もまるで違う二人が、ぎこちない共同生活を始める。
「メッセージ性もあって面白い作品だと思いますが、私は物語が一番面白いと思って読んでいました。ヤマシタ先生の作品は、キャラクターの描写がリアルなんです。こういう人、いるよねと感じ、グサッと刺さる。だからこそ、これは自分の物語だと思う方もいらっしゃるんだと思います。現実と地続きなんです」
同作は、2024年6月に実写映画が公開されている。原作を読むと、実写向きの作品と感じる人もいるかもしれない。
「企画の段階から『実写向きですよね』『アニメ化する意味は?』と言われていました。確かにその通りなのですが、そもそもマンガなので、アニメとの親和性が高い。原作には、砂漠やオアシスなどをイメージした心理描写があります。アニメじゃないと表現できないだろうなと最初から思っていました。アニメにすることで、原作のイメージをそのまま表現できるし、アニメならではの表現ができるはずです。心理描写のイメージは、先生に監修していただきながら、アニメのオリジナルも作っています。アニメでは、ギャグっぽい顔を含めてそのまま表現できます。原作通りにアニメ化しようとしました」
◇セリフ回し、独特のテンポをアニメで表現
キャラクターもリアルで「現実と地続き」に見える。ただ、アニメで表現するのが難しいかもしれない。
「現場が苦労していて、よく描いてくださっています。私も原作とにらめっこしながら、直したりするのですが、やっぱり難しい。難しいのは、アニメのキャラクターっぽくないデザインですし、バランスですかね。(キャラクターデザイン、総作画監督の)羽山賢二さんに、お願いしてしまっています。羽山さんがアニメとして動かせるように設定を起こしてくださったので、できる限りそのまま表現しようとしています」
スキャンダラスな事件が起きるわけではない。当然ではあるが、バトルシーンがあるわけでもない。小さな出来事が積み重なり、独特のテンポ感が生まれる。
「私もそうなのですが、原作を好きな方は、ヤマシタ先生のセリフ回し、独特のテンポを好まれていて、テレビアニメという尺が決まっている中で、どこまで表現できるのかが難しくもあります。私自身、原作ガチ勢なので、全部のセリフを入れたくなりますが、それでは中途半端になってしまいます。大事なセリフが流れてしまうのがすごく嫌なんです。申し訳ないけど、そこは調整しながら、大事なセリフにしっかり尺を取って表現しているつもりです」
しっかり“引き”を作ることで、続きが気になる構成にもなっている。
「そこは、(シリーズ構成の)喜安浩平さんのおかげです。1クールのテレビシリーズなので、どうしても切るところが出てきます。それでも、原作と読後感が同じになるように、考えていました。喜安さんがエピソードをつなぎ合わせて、うまく着地できるように構成してくださいました。喜安さんの力です」
ちょっとした日常を丁寧に描くことで、キャラクターの繊細な感情、心理が見えてくる。料理シーンも作品のスパイスになっている。料理のリアリティーによって、キャラクターの生活を生々しく感じるところもある。
「原作も料理の描写がしっかりあって、おいしそうなんです。できる限り表現しようとしました。プロップ設定の狩野都さんに料理作監をお願いしていて、本当においしそうに仕上がっています。特殊効果の長谷川敏生さんにも助けられています。特効でエアブラシを使ったり、グラデーションをかけたりしていただきました。例えば、ピザの小麦粉の粉、焦げた感じをおいしそうに表現していただき、素晴らしい仕上がりになりました。一瞬しか映らないので、もったいなくもあるのですが、目に留めていただけると、救われます」
◇新人・森風子がすごい!
大城監督は「日常を描くというのがこんなに難しいとは……」と話す。
「実写寄りの絵を作ろうとしているのですが、なかなか難しいです。実写寄りなのは、カメラの置き方ですかね。アニメは、好きなところにカメラを置けますが、俯瞰や煽りはあんまり使っていません。役者さんにも普段人と話しているようなしゃべり方で、と最初にお願いしました」
槙生役の沢城みゆきさん、朝役の森風子さんらが出演する。森さんはテレビアニメ初レギュラーの新人ではあるが、新人とは思えない演技力が話題になりそうだ。
「すごかったです。森さんは、一発目からお上手でしたし、歌もうまい。『歌のうまい方でお願いします』というフワッとしたオーダーをしていたのですが、最初に歌っていただき、これは間違いないぞ!と感じました。オーディションの時から朝の声でした。沢城さんもすごいです。あの声の重さが表現できる女性はなかなかいないと思います。掛け合いも素晴らしいんです」
◇朝の成長物語が中心だが…
アニメを制作する中で苦労することも多かった。繊細な作品ならではの難しさもあった。
「大変な作品なんだな……やってみて分かったところもあります。やっぱりやってみないと分からないものでした。原作を読んだ人によって解釈が違うことがあるんです。私の解釈が正解なのかは、難しいところですが、監督として調整しています。PVを公開した後、『原作のままだ』という皆さんの反応を見て、解釈が合っていたかなと少し一安心しています」
確かに読む人、見る人によって解釈が変わる作品かもしれない。大城監督は作品の軸をどのように考えているのだろうか?
「企画時は、原作が完結していなかったのですが、その頃から、朝の成長物語だと感じていました。朝と一緒に暮らし始めて、槙生も成長していく。W(ダブル)主人公のような話なんです。朝の成長物語を中心としながら、槙生の成長も見せ、二人が変わっていく様を見せていこうとしました」
「夏目友人帳」などの監督としても知られる大森貴弘さんが音響監督として参加している。大城監督と大森さんは、これまでも「夏目友人帳」などで一緒に作品を制作してきた。大森さんは、師匠のような存在なのだろうか?
「初演出は大森監督の作品でしたし、ご指導いただき、いろいろなことを学ばせていただいています。そういう意味では師匠なんでしょうかね? 周りからも『師匠なんですよね』と聞かれますし。大森監督は音のこだわりが非常に強く、すごく助かっています。歌うシーンのコンテで試行錯誤していたところ、相談させていただいたり、頼ってばかりですね。大森さんが気にするポイントも私もある程度分かっていますし、大森さんも私が気にしているポイントが分かっていると思うので、絶大なる信頼があります。心強いです」
大城監督をはじめとしたスタッフの細やかなこだわりが積み重なった「違国日記」は、じんわりと心に染みるようなアニメになっている。温かい余韻や深い共感がゆっくりと呼び起こされるはずだ。ぜひ、じっくりと堪能してほしい。(阿仁間満/MANTANWEB)