冲方丁:初の時代小説で本屋大賞受賞「天地明察」語る 「次は水戸光圀」

「天地明察」の作者、冲方丁さん
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「天地明察」の作者、冲方丁さん

 全国の書店員が投票で「いちばん売りたい本」を決める「2010年本屋大賞」で、大賞に輝いた「天地明察」の作者、冲方丁(うぶかた・とう)さん。改暦という“ビッグプロジェクト”に挑んだ江戸時代の天文学者・渋川春海を描いたユニークな時代小説だ。「マルドゥック・スクランブル」などライトノベルを次々とヒットさせ、アニメやゲームの制作にもかかわるマルチクリエーターの冲方さんに、初の時代劇へ挑んだ思いを聞いた。

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−−主人公・渋川春海の魅力とは?

 人物の強さ、これだけ挫折しても「大丈夫」と言えてしまう前向きさ。この生き方は現代の人にも参考になると思うんです。彼のすごさは、改暦で損をした人が誰もいないということ。これはもう人柄としか言えない。こんな大変な大事業を喜んで取り組んで、日本中を納得させる渋川は、時代の申し子ですね。そして、自分もこうなれるのではないかと思わせてくれる人です。

−−なぜ時代劇を描こうとしたのですか?

 渋川という人物を知ったのは16歳のときで、元々書きたいと思っていたのですが、まだ実力が足りなかったんですね。彼の人物もさることながら、彼がなした暦を作るという作業を通じて日本というものが見えてくるのではと思っていたんです。けれども、どう見て、どうとえられるのが、この年になるまで見えてこなくて……。アニメの脚本やマンガ原作、小説をこなして経験を積み、ようやく書けるのでは?と思って書き始めたんです。

−−資料集めや取材も一苦労だったのでは?

 取材は、普通の人が絶対分からないようなマイナーな資料、大学の論文を中心に集めました。昭和初期に書かれた論文もあり、読むだけで大変で、「これが時代小説の難しさだな」と実感しました。ただ、渋川が実際に住んでいたとされる場所には行ってません。そこは想像の余地を残しているんです。とらわれすぎてしまう気がして……。

−−執筆中に見えたものは。

 当時の時代状況が改めて分かりました。渋川の生きた時代は、武断政治から文治政治への転換期で、徳川幕府の財政がほぼ底を尽き、武士も民衆も生き方が分からなくなっていた時代だったんですね。そうした背景をふまえて渋川という人物をとらえると、まるで印象が変わりました。普通なら絶望するところを、純粋に学問に打ち込み努力する姿は驚きでした。

−−初の時代小説を書き上げて。

 時代小説の深さを知ったというか、これほど深いジャンルだったとは……。ファンタジーもSFもできるし、何といっても人物について多く学べます。まじめに取り組めば、いろいろな物を与えてくれる世界だったとは知りませんでした。逆に制約も多く、少しの誤差でも間違いになってしまうから、どこまで調べて、どこまで描くかを試されるんです。面白いのは、書き始めると人物が(執筆を)助けてくれること。自然と語りかけてくれるので、きちんと勉強しないといけないなと思いました。

−−今後やってみたいことは?

 歴史小説を4~5冊は描きたいですね。次回作は水戸光圀を書くつもりです。この人の持って生まれた気質がまさに豪傑というか武将で、魅力的な人です。「日本とは」を問うにもかかわらず、冒険がしたくて船作っちゃうような人で……。聖人でありながら憎まれもしている二面性が素晴らしいと思っています。

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