注目映画紹介:「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」若者3人が“壁を壊す”ヒリヒリした青春映画

「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」の一場面。(C)2009「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」製作委員会
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「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」の一場面。(C)2009「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」製作委員会

 「ゲルマニウムの夜」(05年)の大森立嗣監督の2作目「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」は、松田翔太さん(ケンタ)と高良健吾さん(ジュン)という旬な俳優2人を迎えた社会的に底辺の生活を送る若者たちの青春映画。カヨちゃん(安藤サクラさん)を加えた「人生を自分で選べない」3人の、ヒリヒリとしたリアルな感情が伝わってくる。今の世の中に一石を投じる作品だ。

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 松田さんは、外見は荒々しいが内面は繊細なケンタを熱演。これまでのイメージをいい意味で覆した。ケンタ(松田さん)とジュン(高良さん)は工事現場で「はつり」と呼ばれる壁を壊す仕事をしている。同じ施設で2人は兄弟のように育った。職場では幼なじみの裕也にいじめられ、うつうつとした日々を送っている。2人は気晴らしにナンパに出かけ、カヨちゃん(安藤さん)と知り合う。カヨちゃんは「自分はブスだから愛されない」と思っている女の子で、心の底から愛情を求めていた。ある夜、ケンタとジュンは裕也の車と職場の事務所をめちゃくちゃに壊して、ケンタの兄のいる網走刑務所に向かった……。

 壁を壊して旅へ。往年の青春映画のような設定だが、最近の映画ではめずらしい。狭い世界でもんもんとするしかなかったケンタとジュン。壁を壊す儀式として、怒りをぶちまけて大暴れをするシーンにクギづけになる。その後、どう自己を解放していくのだろうかと観客に見守らせ、カメラは彼らの手だったり、背中だったりを意識的に見せて、3人のぬくもりを感じさせる。安藤さんの迫真の演技で、カヨちゃんが次第に“聖母”のように見えてくる。

 父は麿赤児さん、弟は大森南朋さんという俳優一家に育った大森監督は、スタッフに転身し、デビュー作となった前作で国際的な評価を得た。脚本、色合いから音まで、全体にぬかりがない。彼らがコンクリートの壁を壊す音は、まるで体の中から噴き出す怒りのようだ。これからは街に響く工事の音を聞くたびに、ケンタとジュンのことを思い出してしまいそうだ。映画は進行するにつれ、次第に海と空の青さを目立たせ、彼らの行く末と対比させる。「絶望」しか知らない3人の旅は、思いもしない方向へと向かっていく。怒りをぶちまけたいが、言葉が足りずに、稚拙な方法しか思いつかない幼さがなんとも切ない。

 現在、児童養護施設の入所定員は、大都市圏を中心に不足しているという。ケンタとジュンは、確かに現実の社会にいるのだ。12日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)、渋谷ユーロスペース(東京都渋谷区)、池袋テアトルシネマ(東京都豊島区)ほかで公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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