注目映画紹介:「トイレット」 カナダで撮影 もたいさん演じるばーちゃんのぬくもり

「トイレット」の一場面。(c)2010“トイレット”フィルムパートナーズ
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「トイレット」の一場面。(c)2010“トイレット”フィルムパートナーズ

 インパクトのあるタイトルだ。荻上直子監督の3年ぶりの最新作「トイレット」が28日に公開された。監督のこれまでの作品にすべて出演してきた、もたいまさこさんの味わい深い演技が堪能できる。アメリカ留学時代にインディーズ映画をたくさん見たという荻上監督が、「北米で映画を撮りたい」という夢を実現。カナダのトロントでカナダ人の俳優を使って撮影された。

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 企業の実験室に勤務する青年レイは、プラモデルおたく。家族と離れて1人暮らしをしていたが、火事に見舞われ、家族と住むことになった。一家は母親を亡くしたばかりで、家には引きこもりの兄モーリーと妹のリサと飼い猫のセンセー、そして母親が死ぬ間際に日本から呼び寄せた、ばーちゃん(もたいさん)がいた。ばーちゃんには英語が全く通じない。毎朝トイレに長い時間こもる。ばーちゃんがトイレから出てきたときに深いため息をつく。レイはその理由はなぜなのかを考えた……というストーリー。

 「人生は退屈の繰り返しだ」と考え、人とのかかわりを極力避けてきた青年レイ。彼の生き方が家族との同居とともに殻が破け、少しずつ変わっていくさまを丁寧に見せていく。独特のまったりとした雰囲気ととぼけたユーモアが荻上監督の持ち味だが、今回はそれに加えて、よりシビアに人生について語っている。「かもめ食堂」(06年)、「めがね」(07年)の主人公は、くたびれた日常から離れ、非日常的な場所で新しい人生を見いだしていったが、本作の主人公レイは日常の中に放り込まれたままなのだ。兄のモーリー、妹のリサも変化していくのだが、その中心にばーちゃんがいる。そのばーちゃんにはせりふらしきものがほとんどない。が、孫を見守る目が温かい。ばーちゃんのぬくもりは、春の穏やかな日射しのように、孫の心を溶かしていく。監督の作品には欠かせない一要素の料理は、フードスタイリストの飯島奈美さんが担当した。

 3人の孫とばーちゃんとの時間が、見終わった後も断片的な記憶のように印象に残る。ゆったりとした静かな作品なのに、タイトルと同じく、観賞後のインパクトは長く続くところに、この映画のすごさがある。28日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)、銀座テアトルシネマ(東京都中央区)、渋谷シネクイント(東京都渋谷区)ほか全国で公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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