黒川文雄のサブカル黙示録:ゲームクリエーターの露出とメディアの存在意義は?

 ゲームソフトの売れ行きが鈍る中、かつて時代をリードしたゲーム雑誌も変化を求められている。新ソフトの発売情報はインターネットで“速報”され、メーカーがサイトやブログ、ツイッターなどで案内をするようになった。情報をまとめて案内してくれるサイトもあり、十分過ぎるほどだ。発売後のゲームの攻略情報も個人サイトを中心にだだもれ状態にあることは異論はないだろう。加えてゲーム動画のアップロードや、個人が再編集した「MAD」画像まで……。規制するよりも、メーカー側も「話題性がある」と考えて活用しているのが実情だ。

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 インターネットという新しいツールが若い世代に行き渡り、活用するスキルが備わった00年ごろだろうか。そのころにはゲームという概念も変化し、PCのオンラインRPGや携帯電話のゲームなどの浸透も大きく作用したものと思う。

 ではゲーム系メディアの存在意義は……?

 メーカー発信の情報をリリースする意義はあるだろう。しかし、ネットでほとんどの情報が入手できる今、特定雑誌への先行情報解禁はあってないようなオブリゲーション(義務)に過ぎない。他にもメディアは作り手(クリエーター)やパブリッシャー(ゲームメーカー)の意向や意図を正確に伝える役目も担っているのかもしれない。しかし、それとて、メディア側だけの矜持(きょうじ)だ。だって、読者は「そんなことはどうでもいい」と思っているのだから。

 既にゲームも30年近くの時が経過した。そのなかで80年代中盤までは、ゲームクリエーターが実名で顔を出して自らの作ったゲームソフトについて語ることはなかった。それには理由がある。当時のゲームには、作家性とかメッセージなどはなく「タダの時間つぶし」「ヒマつぶしのソフトとツール」に過ぎなかった。私がセガ・エンタープライゼス(現セガ)の在籍時に、「バーチャファイター」の開発者の実名が写真付きで紙面を飾ったとき、ゲームクリエーターの歴史の一ページがつづられた。そしてメッセージ性の強いソフトに関して、クリエーターが自分の思いや考えを語る姿に共感を得た読者も多いだろう。

 しかし、その共感も、もうおなかいっぱい。

 今は、ページをめくれば聞いたことのない、見たことのないクリエーターが開発のコンセプトを語り、よく分からないページ構成も少なくない。そして有名クリエーターの独り言もいただけない……。それは、ソフトに“人格”を求めて強く出しすぎたメディアとクリエーター、パブリッシャーへの拒否反応ではないだろうか。

 そしてDSの登場や、携帯電話の無料ポータルサイトの成長で、ゲームソフトの世界も一巡した。かつての人気ゲームが、携帯で次々と無料で配信されている通り、人々は時間つぶし、ヒマつぶしのためのソフトを求めている。そこには、かつてのゲーマーがハイスコアを目指したストイックな感覚もなければ、ゲームの完全攻略を追求する“修行僧”のような姿勢もない。それはアプリのヒットチャートを見れば明らかだ。

 クリエーターも、メディアも、新たな道を模索する時期に来ているのだと思う。

 著者プロフィル

くろかわ・ふみお=60年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。

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