藤原カムイ:新連載「RECORD」を語る 不思議な世界観は音楽が軸

「月刊コミック アース・スター」(毎月12日発売)で連載を始めた藤原カムイさん
1 / 1
「月刊コミック アース・スター」(毎月12日発売)で連載を始めた藤原カムイさん

 月刊マンガ誌「月刊コミック アース・スター」(毎月12日発売)が創刊され、「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」や「雷火」などで知られるマンガ家・藤原カムイさんの新作「RECORD」が始まった。1話完結のスタイルで、読み進めていくと謎が解き明かされていく……という内容。第1話では、レコード店が登場するレトロな世界を舞台に、行方不明になった右手を探す2人の不思議な物語が描かれている。

あなたにオススメ

 アパートの一室で、右手のない少女・ポップがため息をついていると、突然、窓から一人の少女が、車にはね飛ばされて飛び込んでくる。自称・当たり屋のパンクは、ポップの右手探しに付き合うのだが、右手はやりたいことを探して転々としており、なかなか見つからない。逆にポップは「右手がうらやましい。わたし、本当にやりたいことなんて見つからなかった」と落ち込んでしまうという非日常系のストーリーだ。

 少女の右手がなくなる話は、原案協力に名を連ねる中島直俊さんがパンクロックバンド「THE BLUE HEARTS」の楽曲「僕の右手(僕の右手を知りませんか)」から思い付き、藤原さんにアイデアを提案したもの。中島さんは、ドラマ「世にも奇妙な物語」の15周年記念特番の一つ「イマキヨさん」(06年放送)のシナリオを担当したことがあり、イマキヨさんは、1人暮らしの家に住む座敷わらしのような妖怪の名前で、ユニークな四つのルールを守ればその人を幸せにしてくれるが、守らないとつきまとったり、イマキヨさんにされてしまうというストーリー。その「イマキヨさん」を知っていた藤原さんが、編集部にいた中島さんの存在を知り、要望を受けて協力することになった。

 中島さんが提案したプロットは最終的には見送りになったが、右手の話は残った。中島さんは「RECORD」の魅力について「どこにでもありそうな町だけど、あり得ないことが起きる。そのバランスが魅力です。奇妙な世界観を楽しんでください」と話している。

 今回の新作について藤原さんは「基本は、大きなドラマを加えずに、ゆるーくやっていきましょう……というスタンスなんです」と話すが、実は非常にこだわって作られている。音楽が軸になっており、登場キャラクターの名前も音楽からで、タイトルと同じレコード店も登場する。さらに凝った仕掛けも用意されている。

 マンガには、ぼんやり見ているとスルーしてしまうような小ネタがふんだんにあって、マンガ(の連載)が終わってから読み返せば、びっくりするようなことが描かれているという。例えば町の中にある看板広告について、藤原さんは「丸善石油(現コスモ石油)の『猛烈ダッシュ』のCMがモチーフですね」と明かす。このCMは、50代以上の人ならばなじみの深い有名なCMだ。さらに、マンガの終盤で描かれている音符のデザインも「楽譜が読める人が見ると面白いと思います。全部言うとネタ明かしになるので避けますが、じっと見ていると他にもいろいろ気付くはず」と説明する。扉絵も、レコードのジャケットを思わせるデザインになっている。

 藤原さんは今回の新連載で、初めてデジタルツールを使ってキャラクターを描いており、アナログのペンでは出せない太い線を描くなど、さまざまなことに挑戦している。簡単に手直しできるデジタルツールでの作業について「紙で描くよりも時間がかかるんです。何度も気軽に直せてしまうので、『undo』(PCで一つ前の動作に戻ること)ばかりで」(笑い)。紙で描くスタイルは変えないといい、「デジタルだとガラス1枚ある“差”が気になったりします」と苦笑いする。

 そして次の連載構想もある。藤原さんが80年代に描いて連載を中断したままの「鬼童(キッド)」を「まとめたいと思っています」と明かしながら、さらに大正ロマンを代表する画家・竹久夢二をテーマにした作品への意気込みも示している。藤原さんは「夢二は今でいうマルチクリエーターで、ショップも出したり手広くやった人物です。最後のライフワークでもいいかなあ」と話している。(毎日新聞デジタル) 

マンガ 最新記事

MAiDiGiTV 動画