ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
全国のカリスマ書店員や、マンガに精通した関係者らがその年で最も面白かったマンガ選出する「マンガ大賞」。選ばれた作品は、その後のマンガの売れ行きが伸びることから、出版社の営業担当が「最も欲しいマンガの賞」と言わせるほどだ。誕生から4年目で注目となった「マンガ大賞」の誕生と、苦心する舞台裏に迫った。(毎日新聞デジタル)
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マンガ大賞は、「マンガ好き」を公言するニッポン放送の吉田尚記アナウンサーや業界のカリスマ書店員ら数人を中心に、日本全国の書店員から協力を得て08年に創設された。その年の1月1日~12月31日にコミックスが出版され、コミックスの通巻8巻以内のマンガが対象。1次審査では約90人の審査委員が作品を推薦し、上位10作品をノミネート。2次審査では委員が全員ノミネート作品を読み、1位を3ポイント、2位を2ポイント、3位を1ポイントで計算して発表。票数もそのまま公開する。
同賞が誕生したのは、書籍の「本屋大賞」に当たる賞が、マンガにないという、吉田さんの素朴な疑問がきっかけだった。書店や出版社が主催した形では、第三者機関が選考したような公平性が出づらく、マンガの販売数にはつながりにくいという実情を知った。そこで吉田さんは自社のニッポン放送に掛け合って賞を運営する許可を取り付け、業界内のカリスマ書店員の協力を得て、全国の書店員がこぞって参加する今の形になったという。
さらに徹底した中立性の担保も同賞の特徴の一つだ。マンガ大賞の選考委員には書店員、マンガに精通するプロはいても、マンガ家や編集者といった出版関係者はいない。発足メンバーの書店員が出版社に転職したとき、本人の合意のうえで選考のメンバーから外したほどの厳格さだ。
委員会が目指したのは、「直木賞のアンチテーゼ」という視点だ。直木賞は、大衆文学作品を評価するが、権威のある文学賞として定着したがゆえに、さまざまな視点を含めて評価する傾向にある。吉田さんは「社会的な意義うんぬんでなく、個人が純粋にエンターテインメントとして面白い作品を選ぶのがポイント」と話す。
さらに新作マンガ重視の姿勢も特徴で、8巻の巻数制限にも理由がある。長く続いているマンガは、平均以上に面白いという判断からくるもので、「8巻までならコミックスのまとめ買いもしやすい」という判断から決めた。さらにノミネート作品を公開することで、面白いマンガを探す人に作品を推薦することにもなる。「面白いのに埋もれているマンガが多い」という書店員のジレンマを解消しようというわけだ。
過去3回の大賞作品は、いずれも大ヒットにつながった。08年受賞の石塚真一さんの「岳」は5月に小栗旬さん主演の映画が公開される。09年の末次由紀さんの「ちはやふる」は、受賞前は計3巻で約27万部を発行していたが、2カ月後には約44万部に伸ばし、今では計12巻で約400万部の大ヒット。10年のヤマザキマリさんの「テルマエ・ロマエ」も受賞前は1巻で10万部だったが、受賞後は50万部になり、実写映画化も決まった。
今年受賞した羽海野チカさんの「3月のライオン」は、マンガやアニメ化もされていないが、1~5巻で250万部以上(オリコン調べ)を販売しているヒット作だ。マンガ専門書店「まんが王八王子店」の日吉雄さんは「マンガ大賞の大賞作品は、普段マンガを読まない人も手に取るなど影響力が大きい。羽海野さんはもともと人気があるが、受賞でさらなる上乗せは確実」と話す。
だが、運営はなかなか大変だという。年間予算は、授賞式のパネルや照明などで数万円で、ほとんどが委員の持ち出し。サイトのデザインもボランティアで運営し、ノミネート作を読むためのマンガの費用も自腹。吉田さんに、なぜそこまでするのか?と聞くと、「マンガへの愛と、未知の名作に会えること」という。マンガ読みのプロを自認する彼らだが、ノミネートされる作品を全部読んだ人はまずおらず、未読の作品を読んで興奮する瞬間がたまらないのだそうだ。
逆に大賞を選ぶ悩みもあるといい、吉田さんは「作品は読者によって感じ方が違うのだから、比べることに意味がないのは承知しているが、、『ノミネート作を全部読んで』というのは、現実的でない。大賞を決めないとニュースとしては伝わりづらいし、そういう意味では1位以外の作家さんには申し訳ないと思っています」と明かす。
販売の最前線に立つ全国の書店員が、自ら売りたいマンガを押すのに加え、出版社の“色”がついていないのが、読者の支持の源となっている。吉田さんは「出版に関係がないマンガ好きな社長がポケットマネーで応援してくれたら最高ですけどね」と冗談めかして笑いながら「この楽しみはお金に変えられない。そして大事なのは、これから続けていくこと」と話していた。
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