ロボジー:矢口史靖監督に聞く 「毒気と笑いを表現できて楽しかった」

最新作「ロボジー」について語る矢口史靖監督
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最新作「ロボジー」について語る矢口史靖監督

 「ハッピーフライト」(08年)や「スウィングガールズ」(04年)などで知られる矢口史靖(やぐち・しのぶ)監督の最新作「ロボジー」が14日に公開される。ロボット博出展のために開発した2足歩行ロボット「ニュー潮風」が、博覧会直前に大破。開発担当の窓際社員3人は、苦肉の策として中に人間を入れることに。そこで選ばれたのが、独り暮らしの偏屈ジジイ、鈴木重光。ところが、そのニュー潮風にロボットオタクの女子学生、佐々木葉子が恋をしてしまったからややこしいことに……。物語は矢口監督によるオリジナルだ。鈴木老人にふんするのは、俳優・五十嵐信次郎として映画初主演を果たしたミッキー・カーチスさん。また、窓際社員3人組を濱田岳さん、お笑いコンビ“Wエンジン”のチャン・カワイこと川合正悟さん、川島潤哉さん、そして女子学生・葉子を吉高由里子さんが演じている。矢口監督が作品にまつわる話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 −−くしくも先ごろ、ホンダから2足歩行ロボットの新型が発表されました。

 「ニューASIMO」ですね。まるで子どもが入っているように見えますよね。ロボット業界の成熟が、この作品の企画を成立させてくれたといえます。僕がロボット好きになったのは、96年にP2(ホンダが開発した世界初の人間型自立2足歩行ロボット)が出たとき。でも、そのときは映画にしようとは思いませんでした。その後、10年ほどたって、まるで中に人が入っているような動きのASIMOを見て、この話はいけると思ったんです。

 −−ロボットを扱っていますが、根底にあるのはヒューマンドラマです。

 鈴木という偏屈な老人は、ロボットの格好をすることでちょっとしたヒーローになり、孫との距離感が縮まり、家族との絆も再生されていく。つまり、機械のふりをすることで、おじいさんと3人のダメな若者たちが自分たちの居場所を見つける成長物語になると考えました。

 −−葉子役の吉高さんの演技にはハラハラさせられたそうですね。

 ある場面で(葉子が)電話をかけて、「コノヤロー!」と(携帯を)折ろうとしますが、吉高さんは本番で本当に折ろうとしたんです。だから止めました。折っちゃうと次のシーンにつながっていかないので(笑い)。彼女の場合、リミッターを振り切って、とんでもないところまで飛んでいこうとする。だけどその勢いにわざとらしさはまったくない。それが葉子にぴったりだったから、オーディションでも合格したわけです。

 −−葉子と、矢口監督の「ひみつの花園」(97年)のヒロインは、いまはやりの“理系女子”です。

 たまたまです。両作に共通点があるとすれば、世間に秘密にしている目標があって、それに向かって頑張るというところですね。というのもこれは、世間すべてを欺いているお話ですから。

 −−矢口監督の作品が最近ソフトになった気がします。

 それは僕も感じています。加齢のせいですかね(笑い)。そうではなく、映画の題材次第です。例えば、「ウォーターボーイズ」(01年)や「スウィングガールズ」は、学生さんやそれより年下の子たちに楽しんでもらう、プラス、大人も見てくれたらいいなあという映画です。そこに濃い毒は入れるべきではない。でも悪ふざけはしたいので、イルカを気絶させたり、イノシシに主人公を追いかけさせたりしました。対する「ロボジー」は、ダメ社員3人と、彼らの後ろ暗い企みに引っ掛かってしまったおじいちゃんが世間をだましていく話。ですから(「ハッピーフライト」を含む)最近の3作よりかなりブラックにしました。

 −−とはいえ、それほどブラックとは感じません。

 それは、鈴木と家族のシーンがあるからかもしれないですね。僕自身は「ウォーターボーイズ」のような健康的な主人公に比べると、やっぱりこれはかなり不健康だと思っています(笑い)。だって、ロボット開発部員たちが針のむしろの上を転げ回るような話ですから。これらの場面の描き方を面白おかしくしているので表向きは笑えますが、別の監督が撮ったら、おそらくものすごく陰惨な話になると思います。

 −−陰惨さを感じさせないのが“矢口カラー”ですね。

 笑える映画だからといって、幸福なシーンとは限りません。例えば「ウォーターボーイズ」は、中盤で最低のシンクロを披露してしまうシーンがありますが、あれは主人公たちにとって悲劇のシーンなんです。普通の青春映画ならものすごく悲しくなるはずなんですけど、僕はあえて笑えるものにした。ですから誰もが受け入れられるんです。

 −−その作風が今回も生きています。

 毒気と笑いという、描き方では天と地ほど振れ幅の大きいことをいろんなシーンで表現できたので、僕自身、非常に楽しかったです。

 <矢口史靖監督プロフィル>

 1967年神奈川県出身。東京造形大学入学後、8ミリ映画を撮り始め、93年「裸足のピクニック」で監督デビュー。ほかの主な作品に、「ひみつの花園」(97年)、「アドレナリンドライブ」(99年)、「ウォーターボーイズ」(01年)、「スウィングガールズ」(04年)、「ハッピーフライト」(08年)がある。初めてはまった日本のポップカルチャーは、ホンダのヒューマノイドロボットのP2。「小さいときはロボットもおもちゃも買ってもらえませんでした。『マジンガーZ』や『機動戦士ガンダム』も世代だったから見ましたが、遠いSFの話でした」

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