注目映画紹介：「少年と自転車」　親を待ち続ける施設の子の実話から生まれた感動作

　親を待ち続ける施設の子どもの話を日本で聞いたジャン・ピエール＆リュック・ダルデンヌ兄弟監督によって生み出された「少年と自転車」が公開中だ。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作で、親に見捨てられた少年と女性との心の交流を、明るい光の中、繊細に描き出していてしみじみする。

あなたにオススメ

“あの頃”のジャンプ：実写ドラマ化も話題「ウイングマン」　1983年を振り返る

　シリル（トマ・ドレ君）はもうすぐ12歳になる少年。児童養護施設に預けられている。父親に電話してみるもつながらない。どうしても一緒に住みたいシリルは、施設を抜け出し、一緒に暮らした団地に行ってみる。だが父親はおらず、買ってもらった自転車もなかった。偶然シリルと出会った女性サマンサ（セシル・ドゥ・フランスさん）が、自転車を捜してシリルに届けてくれる。シリルはサマンサに「週末だけ里親になってほしい」と言い出す……という物語。

　親に拒絶された子どもの内面と行動が手にとるように分かる。愛情不足ゆえに周囲を困らせ、施設出身のワルに誘われるなどの落とし穴もあって、ヒヤヒヤする。自転車は大人からの愛情をやっと得た象徴のような存在だ。手に入ったと思ったら壊れたり、なくしたり……。

　舞台並みにリハーサルを重ねて撮影に臨んだという、愛されたい少年シリルと寄り添う女性サマンサを無名の少年と著名な女優が演じ、並列に見えるところが素晴らしい。愛が足りていない者を主人公にした作品が多いダルデンヌ監督。過去作よりも希望的な展開を見せるが、子どもを丸ごと受けとめる難しさもきちんと描かれている。ジェレミー・レニエさんや、いつものおじさん（オリビエ・グルメさん）も元気。3月31日からBunkamuraル・シネマ（東京都渋谷区）ほか全国で順次公開中。（キョーコ／毎日新聞デジタル）