狂言師の野村萬斎さんの主演映画「のぼうの城」(犬童一心・樋口真嗣監督)が2日から全国328スクリーンで公開され、公開3日間で約40万9000人を動員し、興行収入が5億円を突破するなど、人気を集めている。北海道・苫小牧に東京ドーム約20個分の巨大ロケセットを作るなど、圧倒的なスケールで描かれているため、映画の完成までに8年の時間を要した。「ゼロの焦点」(09年)の犬童監督と、「日本沈没」(06年)の樋口監督のダブル監督ということでも話題だが、樋口監督は「この5年ぐらいのラインアップの中で、一番作るのが面倒くさいタイプの映画」と話し、犬童監督も「ちゃんと作ろうと思えば思うほどうんざりした」と本音を漏らす。そんな2人の監督に、作品に懸けた思いや撮影エピソードなどを聞いた。(毎日新聞デジタル)
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「のぼうの城」は、和田竜さんのベストセラー小説が原作。豊臣秀吉が唯一落とせなかった武州の忍城(おしじょう)にまつわる実話が基になっている。戦国時代末期、民衆から“でくのぼう”を揶揄(やゆ)した「のぼう様」と呼ばれながらも親しまれた忍城の城代・長親(野村さん)が、秀吉(市村正親さん)の命を受けて攻めてきた三成(上地雄輔さん)率いる2万の大軍に、わずか500騎の軍勢で挑む……というストーリーが展開する。
特撮畑出身の樋口監督を「(特撮は)日本でナンバーワンだと思っていた」という犬童監督からのラブコールで、日本映画ではめずらしいダブル監督での製作が実現した。どのカットを撮影するときも必ず2人で確認したといい、2人監督がいることで苦労もありそうだが、犬童監督は「どっちかっていうと楽なんですよ」と笑い飛ばす。一方、犬童監督の作品が好きだったという樋口監督も「犬童監督ならこう撮るだろうなというイメージがあったので、気持ち悪い話ですけど(笑い)、犬童監督と一体化できるみたいな喜びもある」と語る。
日本映画史上初となる「水攻め戦術」シーンでは、18トンの水を10メートルもの高さから一気に放出できる巨大な滑り台のような水落(みずおとし)装置を作って撮影した。合戦シーンでは、弾薬あり、火薬ありの大がかりな撮影の連続だった。
撮影の中で一番苦労したシーンについて聞くと、「(秀吉が入浴する)露天風呂のシーン」と犬童監督から意外な答えが返ってきた。「(そのシーンが)なくても話が通じる」といい、こだわりを持たずに撮影することだって可能だった。だが、「手を抜くと映画全体のランクが下がってしまうので、やるんだったらちゃんとやらないといけない」と力を込める。
「脚本の中では一つのハコ」で表現されているものでも、いざ撮影するとなれば、ゼロからセットを作らないといけない上に、全景を撮影するためにロケも行わないといけない。さらに、そのシーンの重要性を監督のみが1人で考えている場合、周りのスタッフを説得するところから始めなくてはならない。この瞬間を、犬童監督は「映画の危機」と表現する。
そんな「映画の危機」をいくつも乗り越えて完成した今作。犬童監督は「映画を見て、それ(映画の危機)をちゃんと乗り越えていたなというのを見たとき、一番ほっとする」と率直な思いを明かした。犬童監督は10月下旬の時点ですでに5回も今作を観賞したといい、「あんまり自分の映画って見ないけど、普通に面白くて見ちゃう」と満足そうだった。樋口監督も「楽しい映画なので、とにかく楽しんでもらえたらなって思う。生きることってこんなに楽しいことなんだって思ってもらいたい」と呼びかけた。
<犬童一心監督のプロフィル>
いぬどう・いっしん 1960年生まれ、東京都出身。高校在学中より自主映画を製作し、97年公開の「二人が喋ってる。」で長編監督デビュー。「金髪の草原」(99年)、「ジョゼと虎と魚たち」(03年)、「メゾン・ド・ヒミコ」(05年)、「タッチ」(05年)、「眉山−びざん−」(07年)、「グーグーだって猫である」(08年)、「ゼロの焦点」(09年)など数々の話題作を監督する一方、塩田明彦監督「黄泉がえり」(02年)などの脚本も手がける。
<樋口真嗣監督のプロフィル>
ひぐち・しんじ 1965年生まれ、東京都出身。「ゴジラ」(84年)に造形助手として参加。特撮監督を担当した「ガメラ 大怪獣空中決戦」(95年)で日本アカデミー賞ほか数々の賞を受賞。以降、「平成ガメラ」シリーズ3部作のすべてに携わる。「ローレライ」(05年)で長編映画監督デビューし、これまでに「日本沈没」(06年)、「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」(08年)などの監督作がある。
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