俳優の高良健吾さんと井浦新さんが共演した故・若松孝二監督の遺作「千年の愉楽」が9日に公開される。同作は和歌山県出身の作家・中上健次が故郷を舞台につづった小説が原作で、高良さんと井浦さんは“路地”に生きる美しい男たちを演じた。所属事務所の先輩・後輩という間柄でもある2人が、若松監督や遺作となってしまった同作について、また俳優としてのお互いについて語った。(毎日新聞デジタル)
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「千年の愉楽」は“路地”に生きる美しい男たちを見守ってきた産婆・オリュウノオバ(寺島しのぶさん)を通して生の不条理さや生々しさを描く。
映画の冒頭で壮絶な最期を遂げる彦之助を演じた井浦さんは、同作を含め5作続けて若松監督の作品に出演した“若松組”の常連だ。「いつもと同じようにどういうことが起きてもいつでもなんでも対応できるようなスタンバイをして」撮影初日を迎えた。井浦さんは、撮影初日の最初に撮影されるシーンからスタート。若松監督は最初のシーンを願掛けを行うくらい大切にしていたといい、井浦さんはそんな若松監督のテンションに食らいついていこうと必死だったという。
井浦さん自身も「本番に入って自分からどんなものが出てくるか分からなかった」というが、夢中になってやったものを監督が面白がってくれ、「気がついたら1時間以内に撮影が終了していた」と笑う。若松監督と他の監督との圧倒的な違いは「役者に委ねてくれる。任せてくれる。役者の気持ちを見続けて、たとえ監督が頭の中で考えている演技と違ったとしても、それを楽しんでくれること」と力を込める。
一方、“若松組”に初参加となった高良さんは、撮影が始まる前に井浦さんから「若松組は何が起こるのか分からないから、準備をしていったら大丈夫」というアドバイスを受けたという。「どんな準備をすればいいか分からなかった」という高良さんだがせりふはきちんと覚え、いつどんなことを若松監督から要求されても応えられるようにして撮影に臨んだ。
己の美しさを呪うように女たちとの快楽におぼれる美男子・半蔵を演じた高良さんは作品を「原作は男たちの“血”が中心だったけれど、映画はどこか“母”の話になっている。男たちが戻ってくる場所は“路地”でありオリュウノオバである母の元」と振り返る。「若松監督が“路地”を舞台とする原作をどのように映像化して表現するか、どう原作を飛び越えていくかに興味があった」という井浦さんも、「男たちで物語は進んでいくけれど、監督はオリュウノオバを中心とした女性賛歌に作品を昇華させた」と表現する。
「千年の愉楽」以外でも2人が共演した映画「横道世之介」(沖田修一監督)が公開中だ。同作は、08~09年に毎日新聞夕刊で連載された吉田修一さんの青春小説が原作。80年代後半、長崎の港町に生まれた主人公の横道世之介(高良さん)は18歳で大学進学のため上京。嫌みのないずうずうしさと他人の頼みは断れないお人よしで、人がなぜか寄ってくるという性格の世之介の日常やガールフレンドの令嬢・与謝野祥子(吉高由里子さん)ら世之介を取り巻く人々との日々を描いている。井浦さんは世之介のアパートの隣人でカメラマンの室田恵介を演じている。
高良さんと井浦さん、同作でヒロインを演じた吉高由里子さんを加えた3人は08年の映画「蛇にピアス」で共演しており、今回は5年ぶりに3人での“再会”となった。「ソラニン」(10年)でも井浦さんと共演している高良さんだが「新さんは『蛇に~』のときは憧れとして見ていた人。今でもそれは変わらないんですが、今回共演するにあたり、役者として上下の関係ではなく横の関係でいようとしている。(先輩だからといって)遠慮したら失礼だし、本気で役者としてぶつかっていこうと思いました」と井浦さんへの率直な思いをぶつける。
そんな高良さんに対して井浦さんは「健吾君との共演シーンは2シーンでしたが、世之介を演じている健吾君は楽しそうだったけれど、『蛇に~』のときは楽しんでいるというよりも苦しみながら芝居していたと感じた。それは一つのやり方としていいと思うのですが、今回の健吾君はとても生き生きしていて、それを見て5年の時間を感じました」としみじみ。そして「その5年の間にも、健吾君がさまざまな現場をくぐり抜けてきて培ってきたものがあったからこそ、ああいう自然な笑顔が生まれたのではないのかな」と付け加えた。
<井浦新さんのプロフィル>
いうら・あらた。74年9月15日生まれ。東京都出身。98年「ワンダフルライフ」に初主演。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広い分野で活躍。12年、芸名を「ARATA」から本名と同じ井浦新に改名した。主演映画「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」が第65回カンヌ国際映画祭・ある視点部門に正式出品される。「かぞくのくに」(12年)が第85回アカデミー賞外国語映画賞に出品されるなど、世界的に評価の高い作品に出演している。13年は「横道世之介」「千年の愉楽」のほか「すーちゃん まいちゃん さわ子さん」「彌勒 MIROKU」に出演している。
<高良健吾さんのプロフィル>
こうら・けんご。87年11月12日生まれ。熊本県出身。06年の「ハリヨの夏」で映画初出演。「M」(07年)で第19回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門特別賞を受賞。以後、「フィッシュストーリー」(09年)、「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」(10年)、「おにいちゃんのハナビ」(10年)ほかで第23回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎新人賞を受賞。11年のNHK連続テレビ小説「おひさま」で第36回エランドール賞新人賞、テレビガイド賞、さらに「軽蔑」(12年)で第35回日本アカデミー賞新人俳優賞、第26回高崎映画祭最優秀主演男優賞などを受賞した。13年には出演作「県庁おもてなし課」「武士の献立」などの公開が控える。
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