スペインのアカデミー賞と呼ばれるゴヤ賞で最優秀アニメーション賞、最優秀脚本賞を受賞した話題の劇場版アニメ「しわ」(イグナシオ・フェレーラス監督)が22日に公開された。今作はスペインのマンガ家パコ・ロカさんが描いた「皺」(第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞)を長編アニメーション化したもの。教育番組の世界的なコンクールである「日本賞」の12年度グランプリを受賞、昨年末にNHK Eテレで紹介され日本でも反響を呼んだ。物語は養護老人ホームで暮らす男を主人公に「認知症」や「老後」という重いテーマを、手描きアニメーションの手法で温かく、ときにはユーモアを交えて描いている。
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認知症の症状が見られるようになり、養護老人施設へ預けられた主人公の元銀行員・エミリオ。施設では、お金にうるさく抜け目がない同室のミゲルや、面会に来る孫のためにバターや紅茶をため込んでいる女性・アントニアといった老人たちと暮らしている。そして重症の老人は2階の部屋へと入れられることを知る。ある日、エミリオは薬を間違えられたことから、自分がアルツハイマーであることに気づいてしまう。ショックで症状が進行していくエミリオのことを思い、ミゲルはある行動に出る……という展開。
老いと認知症というシリアスな題材をテーマにした今作は、老人ホームを舞台にした認知症に悩む老人たちのドラマ。そこには胸がときめくようなストーリーはないのだが、どこか見ている人を引き込むパワーを持った不思議な“面白さ”がある。派手なアクションやコンピューターグラフィックス(CG)の表現もなく、淡々と冷静に描かれていくエピソードの数々の裏には、丁寧な現場取材が行われたことが想像できる。それほどの現実感を持って展開される描写には、思わず胸を締め付けられる。また、プロローグ部分をはじめ随所で見られる現実と妄想が交錯するようなシーンは、卓越した演出で苦しさや悲しさを際立たせる。そして、狂言回し的な存在のミゲルの心情や言動、行動の数々は思いもよらぬ感動を与えてくれる。当事者だけでなく、その家族の葛藤も描かれており、多くのことを考えさせられる。人ごとではなく誰しも避けては通れない問題を扱いながらも、観賞後は心が温かくなる不思議な魅力があった。配給は三鷹の森ジブリ美術館で1時間29分の作品。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で22日から順次公開。(遠藤政樹/毎日新聞デジタル)
<プロフィル>
えんどう・まさき=アニメやマンガ、音楽にゲームなど、ジャンルを問わず活動するフリーの編集者・ライター。イラストレーターやフォトショップはもちろん、インタビュー、撮影もOKと、どこへでも行きなんでもこなす、吉川晃司さんをこよなく愛する自称“業界の便利屋”。
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