コーエーテクモゲームスの人気ゲーム「信長の野望」シリーズが誕生から30年を迎えた。任天堂の家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」が発売された1983年、当時は高額だったパソコンのソフトとして発売され、以後は戦国時代を疑似体験できる作品ゲームとして人気を博している。「シリーズ40年、50年を目指す」と“野望”を語るシブサワ・コウさんにシリーズ誕生の歴史などを聞いた。(毎日新聞デジタル)
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−−ゲーム誕生のきっかけは?
私は歴史が好きで、(1978年の)起業後の81年に武田信玄と上杉謙信が戦う「川中島の合戦」というゲームを発売した後、「次は大好きな信長」と考えました。そして信長の生涯を考えたとき、戦いだけでなく新たな経済や軍政を作り出したことから、新しい世の中を再現するゲームにしようと。そこで「内政」と「戦争」を二つに分けたシステムを思いついたのです。
−−当時、戦争ゲームに「経済」の概念を組み込んだ作品は他にあった?
なかったと思います。戦国時代を再現すると考えたとき、戦争はごく一部の要素。経済や社会、文化を表現しないと薄くなりますから。シミュレーションの技法は、将来を予測するなどさまざまな分野に使われていましたし、戦国時代をシミュレーションするなら幅広い概念でとらえる方が良いかなと。そのためか「信長の野望は、経営ゲームですね」と言われたこともあります。
−−当時の思い出は?
ゲームは頭の中で(予想の完成図が)があり、約2カ月かけて完成して試遊プレーをしたのですが、予想をはるかに超える面白さでした。バグ取りをしながら、自分の作るゲームなのに徹夜をしてしまい、統一をしたときは思わず机から立ち上がって「やった!」と叫んだのを覚えています。
ーータイトルの命名は?
織田信長であるがゆえの「意志」が欲しいと思って付けました。「織田信長」という人物の名前では、ただの歴史の事実になるだけです。信長は、全国統一は成し遂げられなかったけれど、非業の最期を遂げたからこそ人気があるわけです。そこで信長になり変わって願いを成就できるゲームの仕組みから「大志」などいろいろな候補がありましたが、信長に合う言葉は「野望だろう」と思ったわけです。
−−初代発売後の反応は?
当時のパソコンは、給料が7万円の時代に20万円の商品で、購入できるのは金銭的に余裕のある人でした。83年3月30日に発売しましたが、じわじわと評判になり、年末にヒットしたのを覚えています。
−−第1作の舞台は、近畿、東海、北信越でしたが、2作目は全国へと広がります。
発売後「九州など郷里の英雄に成り代わって全国統一をしたい」という要望があったのです。武将や国が増えると必要なデータが増えるため、パソコンの容量が必要となり、パソコンの技術的な進歩に合わせて、ゲームも進化したという歴史があるんです。そのときに最善と思ったことを、可能なハードウエアの限界まで突き詰めて全力投球で開発するのが我々のスタイルなんです。
−−シリーズを重ねるとデータも増える。開発は大変?
体力、気力とも大変なときがあるのも事実ですが、ゲームの開発は楽しい仕事ですから、現場では喜々として作っていました。常に議論百出で、アイデアが切れることはなく「何を削るか?」という話になるほどです。ちなみに、武将のプロフィルを作る専門の生き字引がいて、私の知らないことも答えてくれますし、社内にはライブラリーもあります。だからこそ、このシリーズは支持されるのだと思っています。
−−武将の能力値の設定は決めるのに苦労しそうです。
13作もあるので、過去を振り返りながらパラメーターの調整があるのですが、各プロデューサーやディレクターの思いもあるので、多少は(能力値の強弱に)でっぱるところがあるかもしれません。特に人気のある武田信玄と上杉謙信は(ファンから)「強くしてほしい」という人が多いですね。
−−開発中の最新作「創造」は?
30年を契機に「シリーズの本質は何か?」を突き詰め、さらに「信長の野望」を作った原点の気持ちを素直に表現したいと考えています。リアル、ダイナミック、ドラマチックの三つのキーワードでゲームを組み立てており、手応えもありますよ。
−−シリーズごとにクレジットされる「シブサワ・コウ」という名の由来は?
(妻で)会長の襟川恵子から、ファッションでブランドを発信するようにゲームでも同じことをしたほうがいいという助言を受けたからです。そこで、明治時代の実業家である渋沢栄一のシブサワと、社名の光栄(現コーエーテクモの前身)の「コウ」から取って付けました。
−−来年には、黒田官兵衛を主役にした大河ドラマが始まり、戦国時代が話題になりそうです。
実は信長の次ぐらいに官兵衛は好きなんです。官兵衛は、適度に忠義も野心もある非常に面白い人物。幽閉されても己を曲げず、(関ケ原の戦いのときに)九州を席巻したり、(天下統一後)秀吉ににらまれると隠居する潔さもあります。これまでどうして大河にならなかったのかと思っています。
−−最後に意気込みを。
まずは30周年を迎えられてうれしく思います。「信長の野望」はファンのみなさんに愛されて、育てられたタイトルです。40年、50年と続けられるよう全力を尽くしていきます。
シブサワ・コウ=コーエーテクモホールディングス、コーエーテクモゲームス社長の襟川陽一さんが、作品制作時に使うペンネーム。代表作は「信長の野望」シリーズや「三國志」シリーズなど多数。
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