自身の少年時代を題材にした妹尾河童さんの自伝的小説を降旗康男監督が映画化した「少年H」で、主人公・H(肇)の母・敏子役を演じた女優の伊藤蘭さん。夫の俳優・水谷豊さんとは結婚後初、約30年ぶりの夫婦共演で、水谷さん演じる夫・盛夫をもり立て、半歩下がってついていくという戦中戦後の女性の生き方を体現する役を熱演した。そんな伊藤さんに撮影エピソードや見どころ、女優としての生き方について聞いた。(毎日新聞デジタル)
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伊藤さんは今回、「少年H」で約30年ぶりの夫婦共演になったいきさつを、原作の妹尾さんと夫の水谷さんから「さりげなく勧められて」と明かした。
「(水谷さんは)自分が読んで面白かった本をいつも私に薦めてくれるんです。今回もその流れで3、4年前に、面白い本だから読んでみてって薦めてくれて。河童さんとは面識があったんですが、(その時点で)まだ読んでいなかったからうれしいなと思って読んで。そうしたら物語に感動しましたし、感銘を受けました。そのあと、豊さんが主演で映画化するという話はなんとなく聞いて、いいなあ、楽しみだなあと思っていたんですけど、あるとき河童さんを交えての食事会に私も呼んでいただいて、そういえば映画『少年H』の豊さんの奥さん役はどなたがやるのかしらと思って、河童さんに私が聞いたんです。そうしたら河童さんが『あなただよ』とおっしゃって」
そのときは「また、そんなこと言って……」と冗談だと思ったそうだが、いつの間にか伊藤さんが妻役をやることが決まっていたという。「こんなに大きな作品の大事な役、私で本当に大丈夫ですかとたぶん何度も確認したと思うんですけれど、『蘭さんがいいと思うんだよね』と言ってくれたので、結婚して25年もたって、その上で俳優として(夫婦で)望んでもらえるということは、こんなにうれしいことはないと思いまして」と当時の思いを振り返る。
結婚後初の夫婦共演だが、自宅ではお互いに役作りについてはあまり話さなかったという。「こんなに近くに毎日一緒にいるんだから(せりふの読み合わせなどを)やるのかなと思ったら、ほとんどそれもやらなくて。お互いにそれぞれイメージしてふくらませてきたりしたものを、本当に現場で持ち寄るというか、出し合うという感じでしたね」と現場でのセッションを楽しんだ。
伊藤さんが演じた敏子は、熱心なクリスチャンという設定だが、信仰について「戦局を考えて活動を控えるように」と夫の盛夫から忠告されたときも、ぐっと自分を抑えて素直に従うという、その時代の“良妻賢母”を体現した。「本当に古き良き時代の家族で、大黒柱であるお父さんに、妻は半歩下がってついていくという、いい意味での調和が取れた家族のそれぞれ役割がこの映画では表現されているような気がします」と“妹尾家”について語る。そして「リーダーシップを取ってくれているというか、みんなが頼りにしている、半歩先でみんなを見てまとめてくれるという存在としての夫が理想」といい、夫・水谷さんも「権威的ではなく、ここぞというときにまとめてくれる大きさ、深さのある人」と役柄の盛夫と重なる部分も多かったと振り返る。
少年H(肇)を演じた吉岡竜輝さん(12)とは「歌舞伎など和の作品も好きなようで、私もときどき歌舞伎を見たりするのでそんな話で盛り上がったりしました」という。肇の妹の好子を演じた花田優里音ちゃん(9)も含めて、「2人とも子供のよさをいっぱい持っている、無邪気で素朴で、役柄そのまんまなんですよね。休憩中もちょっと目を離すとセットで遊び出してしまって、ときどき本当のお母さんから怒られるという(笑い)。母の日には2人とも似顔絵をプレゼントしてくれました。可愛い子たちです」と目を細める。ただ、撮影中は「お芝居がすごくきちんとしていて、感性が鋭いというか、泣かなければいけない日は朝からその気持ちでちゃんと現場に入ってくる。すごい子たちだなと思いました。演じるときは俳優同士という感じでしたね」と本気でぶつかり合った。
伊藤さんが「少年H」で見て感じてほしい部分として、「やはり戦争というある意味、重い時代背景が描かれている作品ですけれども、映画を見ている間は作品として楽しんでほしいなっていうのがまずあります。この作品の世界に“心の旅”をしてほしいなと」と呼びかけ、さらに「この作品にはもちろん戦争がなければいいなとか、子供の生き生きとした顔がずっと続く世の中であってほしいというメッセージが込められているんですけれども、それは多分、見てくださった方がきっと気づいて受け止めてくださると思うので、この作品を見終わった後に家族で話ができる、会話が少し弾んだり、またこの時代のことを知らなかった人、分からなかったことがあったらお父さんやおじいちゃんに聞いてみるとか、そんなきっかけになったらありがたいなと思います」とメッセージを送る。
最後に伊藤さんにとって女優の仕事とは?とたずねると、「人生におけるすべてではないですが私の一部だと思います。他の人生を演じられることは楽しいですね。人生観が目に見えて大きく変わるということは実感としてはあまりないんですけれど、新しい役や作品に出合うたびに何か一つ世界が広がったり、あるいは自分の中を見つめ直す作業ができたりして、それによって少し成長していくことができる仕事だと思います」と前向きな答えが返ってきた。
次回は、伊藤さんの休みの日の過ごし方や生き方などについて聞く。
<プロフィル>
1955年1月13日生まれ、東京都出身。73~78年にキャンディーズとして活躍。解散後は80年にドラマ「春のささやき」で女優として活動をスタート。映画出演作に「ヒポクラテスたち」「男はつらいよ 寅次郎かもめ歌」(ともに80年)、「俺とあいつの物語」(81年)がある。夫の水谷豊さんと約30年ぶりに共演した映画「少年H」は10日から全国で公開中。現在、ドラマ「DOCTORS 2~最強の名医~」(テレビ朝日系)に出演中。待機作に映画「くじけないで」(11月16日公開予定)がある。
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