「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」(2009年)がヒットしたデンマークのニールス・アルデン・オプレブ監督の初のハリウッド映画で男女の復讐(ふくしゅう)と愛を描いたサスペンスアクション作「デッドマン・ダウン」が全国で公開中だ。主演は「トータル・リコール」(12年)のコリン・ファレルさん。「ミレニアム~」や「プロメテウス」(12年)で知られるノオミ・ラパスさんがヒロイン役で出演している。顔に交通事故による傷痕があり、近所の子どもに「怪物」とののしられ、生きる希望を失った女性を繊細に演じたノオミさんに話を聞いた。(毎日新聞デジタル)
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−−出演を決めたきっかけは?
最初に魅力を感じたのが脚本だった。最初に読んだとき、心にまっすぐ飛び込んできた。圧倒されたわ。私にとっては、失われた二つの魂の究極のラブストーリーだった。それからニールスが監督すると聞いたの。でも私はうたぐり深い方で、なんでもダブルチェックしないと気が済まないタイプだから、彼にメールしてうわさが本当かどうか聞いてみたの。彼が「そうだよ」と答えたから、「なんて素晴らしいの。私もこの脚本が大好き」と伝えました。それからメールで話し始めて、彼からビクター役がコリン・ファレルだと聞いたときは、さらに素晴らしいと思ったわ。
−−脚本のどこがそれほど深くあなたの心をつかんだんでしょうか。
並行する二つの物語で、私が演じるベアトリスとコリンが演じる(裏社会に生きる)ビクターの生活環境は全く違う。そして2人が互いの人生の中で交わり、互いに変わっていく姿に心が反応したの。私は「トゥルー・ロマンス」(93年)や「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(94年)、「テルマ&ルイーズ」(91年)のような映画を見て育った。そういう映画には、ギリギリの人間が深く心を通じ合うひねりのある物語があった。この脚本には、そういう時代を超えたラブストーリーを思い出させてくれるエネルギーと魂があると思う。それは残酷で暴力的だけど、そこにはまだ光がある。だから、そういうことが混ざり合った、ビクターとベアトリスの関係が、ものすごく美しいと思ったわ。2人は一方ではつながりがないけれど、もう一方で彼らは似た者同士なの。そこがとても美しいと思う。
−−演じるベアトリスについてどういう人物だと思いますか。
ベアトリスには、イザベル・ユペールが演じるフランス人の母親がいる。父親は米国人だけど、フランスからニューヨークに移ってきたあと、ベアトリスが子供のときに父親は出て行ったの。母娘は共生関係にあって、彼女たちは母娘というよりもっと姉妹や親友のような感じ。とても美しい関係だし、人生の美しさを見いだし、人生を楽しんで生活していた。ところがベアトリスに大変なことが起こって、それが彼女の人生を変えてしまうの。その日に彼女の人生が止まってしまったような感じだわ。それ以来、彼女は昔に戻る道を探している。自分に起こった悲劇に対処するためのツールを見つけて、なんとかして、受け入れる方法を見いだそうとしているの。
−−ベアトリスと主人公ビクターの関係については?
ベアトリスとビクターは向かい合った、似たような形のアパートに住んでいる。ある晩、ベアトリスは向こう側にビクターの姿を見つけるの。彼はそこに立っているだけだけど、明らかに彼の孤独を感じ取った彼女は、彼とのつながりを感じるのだと思う。そして彼女は執着し始める。ある日、ベアトリスがビクターにメモを書いて、自分の電話番号を教えるの。彼が電話してきて、2人はデートに出掛ける。この初デートから、ベアトリスはビクターがアパートでしたことを見たと言って彼を脅迫し始める。そして彼女はビクターに彼女を傷つけた男を殺してほしいという。彼女はビクターに、男が彼女の人生を奪い去ったこと、そして警察に行かずにビクターの人生を救うと説明し、ビクターに彼女の人生を取り戻す行動を起こしてほしいと言うの。そしてそのシーンと2人の状況は、それが始まったときとは全く異なるものに変化する。その夜を境に、ベアトリスとビクターはゆっくりとお互いを知り始める。基本的にベアトリスとビクターは癒やし合っている。2人には同種の精神があるの。2人ともダークサイドに引きずり込まれるような経験をしている。彼らの世界は失われ、今ではその世界全体が罰に過ぎない。そして誰も彼も、何もかも嫌でたまらないの。「世界中に火を放ちたい」というせりふがある。それをベアトリスが言う時、彼なら理解してくれると思う。おそらく彼女を理解できるのは彼だけで、彼を理解できるのも彼女だけだわ。
−−コリン・ファレルとの共演についてどう感じましたか。
コリンとの仕事は素晴らしかったわ。撮影中、私たちは深夜でも早朝でもシーンについてメールし合っていた。「こう言ったらどうかな?」とか「あの代わりにこうやってみたらどうかな?」と。そんなふうに私たちの頭は高速回転していたわ。そういう意味で私たちのエネルギーはとても似ていると思う。私たちは決して立ち止まらない。この世界に生き、呼吸し、考えている。9分間の長いシーンがあったわ。そこで私は周りの世界を忘れ、私たち2人だけになれたの。それにコリンはとても繊細で、集中力があって、ひたむきで、情熱家で、心が開いていて、無防備な人なの。そういう気持ちになれるなんて、俳優としてこの上なく素晴らしい経験だわ。それに彼には虚栄心が全くない。ただ仕事があるだけ。一生懸命に仕事をする人だわ。私は本当に感銘を受けているし、彼に畏敬(いけい)の念さえ抱いているの。
−−ニールス監督とは「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」以来でしたが、どうでしたか?
ニールスと仕事をするのが好きなのは、どこに連れて行かれるか分からない、その撮影の終わりにどうなっているかが分からないから。でも彼のエネルギーは常に前向きだと感じる。彼のエネルギーが強烈で、怒りを抱えていたとしても、そこにはいつも理由がある。それは彼が目の覚めるような素晴らしい映画を作りたいからなの。私たちは同じビジョンを分かち合っている。それに、何か素晴らしいものを作っていることも分かっている。そういう関係になれたのは「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」に携わったときからだと思う。ニールスとなら、自分の考えを表現できる自由な空間を与えられていると感じる。ニールスはとても寛大だったわ。彼は俳優が関わってくることが好きなのだと思う。だから彼は俳優のために空間を開けておくし、常に私に対してチャンスをくれる。ニールスは私のことを「手りゅう弾みたいだ」と言っているわ。私のエネルギーが爆発しやすいからなの。でもそのまま彼に投げ返すつもりよ。彼こそ手りゅう弾みたいだわ。驚くべきエネルギーの持ち主でとても情熱的なの。強烈な人だし、物事に対してとても感情的になるところがあるけれど、いつも150%の力を注いでいる。ほとんど妥協はしないしね。
−−テレンス・ハワードさんやドミニク・クーパーさん、イザベル・ユペールさんと、共演者が豪華ですね。
私にとってはドリームキャストだわ。ニールスが私に、ドミニク・クーパーやテレンス・ハワードが出演するとメールしてきたとき、大喜びしたわ。それからイザベル・ユペールの話が出たときは、彼女がOKを出す前に私はどれほど彼女を尊敬し憧れているかを伝えるために、自分で彼女にメールを書いたの。彼女は私が刺激を受けた人だし、彼女の映画を何年も見てきたわ。だから彼女に言ったの。「私と共演してくださるなら、とてもうれしいし、本当に名誉なことだと思います。私たちなら、この母と娘の感情的にゆがんだ、美しい関係を作り出せることは分かっています」と。その後、ニールスから彼女の出演が決まったと聞いて、私は「やったわ!」と叫んだの。
−−ラブストーリーとアクションが混在する今作についてどう思いましたか。
それがこの映画をとてもクールに一味違うものにしているわ。私にとっては、芸術的なドラマとラブストーリーだけれど、全体像はアクション大作のような映画なの。こんな作品は何年も見ていない。血なまぐさくて、ギラギラしていて、クールでセクシーで粗削りだけど、映画の中心にはロマンチックな、美しく揺れるダイヤモンドのような感情がある。そしてぶつかり合い、相互に交わり合う二つの世界はとても刺激的で、キラキラ輝いている。観客はきっと気に入ると思うわ。感情的にも引きずり込まれ、同時にアクションもしっかりしている。私自身、そこが好きだわ。大きなエネルギーとハイスピードの映画を見るのは楽しい。最高にクレイジーなシーンや、人間がこの世のものとは思えないようなことをするのを見るのは大好きよ。でもそこに感情的なつながりがなければ、何の意味もないわ。この映画にも脚本にも、アクション映画とラブストーリーの絶妙なバランスがあると思う。
<プロフィル>
1979年12月28日生まれ、スウェーデン出身。7歳の時にアイスランド映画「In the Shadow of the Raven」(88年、日本未公開)にて女優デビュー。「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」(09年)の大ヒットで世界的にブレーク。続編「ミレニアム2 火と戯れる女」「ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士」(ともに09年)でもヒロイン、リスベット・サランデルを演じ好評を博した。同シリーズの成功によってハリウッドに進出し、「シャーロク・ホームズ シャドウ ゲーム」(11年)ではヒロインを務める。リドリー・スコット監督のSF大作「プロメテウス」(12年)の主演で称賛を集めた。ブライアン・デ・パルマ監督のスリラー作「パッション」(12年)にも出演。
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