超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、世界最大のゲーム開発者会議「ゲーム・ディベロッパーズ・カンファレンス(GDC)」に足を運んで感じたゲーム業界の流れについて語ります。
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米サンフランシスコで3月17~21日(現地時間)に開催されたGDCでは、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のゲーム機、プレイステーション(PS)4の好調ぶりが目立った。2013年11月に米国で先行販売が始まり、わずか5カ月で実売600万台を達成。1年先行したWiiUを上回った。マイクロソフトのXboxOneも「販売好調」とされるが、現地の小売店を視察したところ、PS4は完売していたが、XboxOneは店頭に積まれていた。
会場でもPS4は明るい話題が多かった。ゲーム向けヘッドマウントディスプレー(HMD)の「プロジェクト・モーフィアス」を電撃発表、インディー(独立系)ゲーム開発者向けにミドルウエアを無料で提供、PS4向けF2P(基本プレー無料のアイテム課金モデル)ゲームが好調、「PSの生みの親」である久多良木健さんがGDCアワードで生涯功労賞を受賞……などだ。
特にゲーム開発者向けの国際会議だけあって、ミドルウエアの無料提供など、インディーゲーム開発者に対して積極的に門戸を広げる姿勢への評価が高かった。他にゲームのプレー動画をネットで共有できる「シェアボタン」機能も反応が上々だった。いわばPS4は「コミュニティーをコンセプトに掲げた初のゲーム機」で、これが評価されたといえるだろう。
背景にあるのがインターネットの普及とゲーム産業の構造変化だ。大作ゲームの開発予算が数十億円規模に上昇し、一本あたりの品質が高い一方で、タイトル数の減少を招いている。穴を埋めるのが少人数で開発されるインディーゲームで、中には「マインクラフト」のように3400万本以上を売り上げるキラーソフトも現れた。
もっとも、インディーゲーム開発者は宣伝や販売力に乏しく、相互扶助のためインターネット上で結び付き、広範なコミュニティーを形成している。GDCなどの業界イベントは、彼らが直接交流できる数少ない機会だ。インディーゲームの分野会議はGDCでも一番人気で、イベントのパスがいち早く完売するほど。大手企業も無視できない存在になってきた。
実際、ゲーム用HMDで先行するオキュラス・リフト(オキュラスVR社)は、開発機を300ドルで販売し、全世界で7万5000台の注文を獲得した。会場では新型開発機を出展し、技術講演も披露。「HMD向けのゲーム開発は視覚情報と頭の動きを高度に同調させることが重要だ」として、社内で蓄積されたノウハウを公式サイトでも公開している。
開発機向けのコンテンツ開発はあくまでも研究開発の意味合いが強い。それでも、新しい技術に目がないゲーム開発者たちが飛びついた。プロトタイプ(試作機)をいち早くコミュニティーに提供し、自由に使ってもらいながら、本体の改良につなげる戦略で、誰もが自由にコンテンツ開発ができるPCゲームならではの取り組みだといえる。
家庭用ゲーム機はファミコン以降、サードパーティー契約を軸に高い参入障壁を作ることで、高品質なゲーム体験をユーザーに提供しつつ、市場を広げてきた。しかし、開発コストが低く、気軽にリリースできるスマホゲームの登場でこの成功モデルが崩壊しつつある。
近年のゲーム開発者は企業だけとは限らない。学生や研究者など、開発者コミュニティーはかつてない広がりを見せており、活力やハードの勢いを生んでいる。一方、PS4のインディーゲームの取り込みも、タイトル数が増えればそれだけ粗製乱造によるファン離れのリスクがあることも確かで、悩ましいところだ。
1994年に誕生した初代PSは、CD-ROMの採用をはじめとした一連の流通改革や、開発機材の廉価提供、中小ディベロッパーの取り込みなど、当時のビジネスモデルの破壊から始まった。あれから20年。ハードの勢いを保ったまま、過去の成功体験やビジネスモデルを、いかに再構築できるか。PS4の新たな課題になりそうだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年に特定非営利活動(NPO)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。
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