怪獣やロボットなど数多くのイラストを発表してきたイラストレーターの開田裕治さんの原画展「ART of ゴジラ」が東京・銀座のチーパズギャラリーで開催された。会場ではゴジラを中心とした原画をはじめ、巨大ジオラマや関連商品の展示や販売などが行われた。東京では初開催だった同原画展を記念して“怪獣絵師”として知られる開田さんに怪獣との出合いや原画作成の過程、怪獣の魅力などについて聞いた。
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「怪獣の魅力はいろいろあるんですけど、一番大きいのは、怪獣がやって来たというワクワク、ぞくぞくする感じ」とその魅力について切り出す開田さん。「怪獣がビルをぶっ壊すのが気持ちいいというのもありますが、ある程度見ると飽きてしまう。でもテレビのニュースなんかで“怪獣が東京湾に上陸しました”とみんな何か浮足立つ感じや、僕らが知っている世界に怪獣という要素が入ることで、まるっきり違う世界になってしまうというところが面白い」と熱弁する。「一番身近に感じるのが、僕らが子供のころの台風が上陸する日で、大人たちは大変ですが、僕ら子供としてはすごいワクワクする。知っている街がまるっきり様相が変わってしまい、まだ明るいのに誰も人がいなくなったり、雨が降ってきて道路が川のようになってしまったり、そういうことですら楽しい。『出ちゃいけません』と言われるのに外の様子を見たくなるという。あのワクワクする感じに一番近いのが怪獣映画の面白さだと思う」と持論を展開する。
原画展開催の場所だった銀座は、1954年公開の「ゴジラ」第1作でゴジラが破壊した街でもある。怪獣映画と縁の深い街での開催を開田さんは「怪獣映画と縁が深い街でできるのはいいですね。今年は『ゴジラ』60周年の年でもあり、新しいハリウッド製の『ゴジラ』映画も来ますし、このように縁の深い場所でできるのはうれしい」と喜んだ。ちなみにゴジラとの初遭遇は「最初に見たのは『キングコング対ゴジラ』(1962年公開)」という。「(映画を見たのが)小学校3~4年生ぐらいのときでしたから、ものすごく圧倒されました。当時、学校の友だちも全員見ていて、映画公開が夏休みとか冬休みになりますから、(休みが)終わって会ったら、すぐに怪獣映画の話題で盛り上がる(笑い)。一体となってすごいものを見たという盛り上がりみたいなものがあったのをよく覚えています」と振り返る。
原画展ではゴジラを中心にさまざまな原画が展示されているが、その選定基準は「代表的な作品だと自分で思うものと、いろんな形でゴジラ好きで映画好きの人の目にとまっていたであろう作品」と開田さん。「ゲームのパッケージやDVDのイラスト、雑誌の表紙に描いたものとか展覧会で見て懐かしく思っていただけるのではないかなと思って」と意図を説明した開田さんは、「特に以前、ゴジラ映画がない時期で怪獣ファンが飢えていた時代に、サントラや『ゴジラ』の音楽をトリビュートして再演奏したものなどが発売されて、僕らの怪獣に対する飢えを癒やしてくれた(笑い)。そういうジャケットのイラストなどは、結構みんな懐かしく見ていただけるんじゃないかと思って」と描いた当時の状況を交えて展示作品について語る。
作品を制作する上でのこだわりは「怪獣の絵を描く人はいっぱいいらっしゃるし、いろんな素晴らしい怪獣の絵はあるんですけど」と前置きをした上で、「僕はやっぱり映画あるいはテレビの中にいる僕が見た怪獣をそのまま描くというのが基本。怪獣の形を借りて別のものを描くということはしたくない」と続ける。「いわゆる商品として怪獣を描くわけですから、あまり中身を裏切るようなことは描けないのもあります。なおかつ僕はゴジラや怪獣を使って別の絵を描くより、むしろゴジラを使ってゴジラを描くのが好き。僕が怪獣映画の中で見て体験したワクワク感を自分の絵の中でも再現したい。あるいは怪獣が出現した世界ならこういう絵もあるのではと、映画内の怪獣を一歩進めて描きたいとか、あくまで映画の中の怪獣の延長線上にあるものを描きたい」と制作スタンスを明かす。
怪獣には重量タイプや飛翔タイプなど多彩な種類が存在するが、開田さんが最も好きなのは「重量感のあるタイプ」だという。「高速で飛び回るようなラドンのような怪獣も好きですが、そういう怪獣でも一度は地面に降りて歩いてほしい。そこから飛び上がるカタルシスというのもある」と笑顔で語る開田さんは、「地底から地面を割って怪獣が出るというのは(怪獣登場の)一つの黄金パターンだと思いますが、やっぱり何度見てもワクワクしますし、日常と同じ街中にいきなり地面から(怪獣が)現れる。遠くからゆっくり来るよりはいきなり大地を割ってビルをけちらして出てくるのが一番面白いですね」と怪獣の登場シーンの好みを披露する。
展示作品の中で特に気に入っているのが「ゴジラの顔だけ描いてある絵」という開田さん。「ゴジラの音楽をトリビュートしたシンセサイザーで演奏するというアルバムだったので、割と自由にゴジラを描いていいというアルバムでした。ゴジラそのものを描くのはどうだろうと思って、それまで怪獣の顔だけ描いた絵というのはなかったので、面白いのではと思って描きました」と制作の動機を明かし、「正方形の画面にピタってはまるというのもありますし、あれはいい感じに描けたと自分でも思います。ほかの人はこういう絵は多分描かないだろうと思うので。誰も描かないけれどもゴジラそのものを描いたという感じで、僕らしい絵になったのではないかと思います」と自信をのぞかせる。
ゴジラを描く上で好きなアングルはあるかと聞くと、「やっぱりビル街で大暴れしているというアングルは好き」と答え、「怪獣映画の一番ハイライトのシーンを切り取ったような絵が、自分の思う通りに描けたら気持ちいいですね。ただ手間も掛かりますし描くのは大変な作業」と開田さんは笑う。「キチンと描かないと気が済まない方で、ビル街はカチッと全部の窓にガラスがはまっているように描くとか、そういうふうにリアルに写真みたいに描けるのが一つの目標。それをビル街で再現してしかも怪獣がぶっ壊しているという絵はハードルがすごい高いのですが、描き上げた時には気分がいいですね」と自身の作品の傾向を分析する。
特撮作品も好きな開田さんはヒーローと怪獣ではやはり怪獣の方が好きだという。理由を「僕らの世代だと『ウルトラマン』や『仮面ライダー』はある程度、物心ついて生意気になってきたころに始まったので、素直にカッコいいとは思いますが、とりつかれるほどにはならない。その前に怪獣があったので、怪獣がドーンと(王道に)あったらその横にヒーローもちょっと付いてくる感じでした(笑い)」と説明する。怪獣好きならば自らが怪獣の中に入ってみたい願望はあるかと聞くと、「子どものころは怪獣の着ぐるみに入ってビルを動かしてみたいと思いました。大人になってからは怪獣映画を自分で監督したいとかストーリーを考えたりという方向にはあまり行かなかった。むしろ映画の中にいる怪獣を絵の中で(想像を)ふくらませてみたいと思うことが多い」と答える。
怪獣の魅力を「怪獣って体験するものだと思う」と表現する開田さんは、「自分をその場に置くような気持ちになれるものなので、インターネットで画像を見るのもいいけれど生の原画を見て体験していただきたいと思います」と原画のよさをアピール。そして、「怪獣にそれほど興味がない、なんとなく関心があるかな程度の人でも、怪獣映画の名作はいっぱいありますから、僕の絵を見たことをきっかけに見てみようと思ってくれたらうれしい。怪獣映画は劇場に行って、怪獣が暴れる様を体験しないと分からないものですから、ぜひ映画館に行って怪獣映画を見るための原画はきっかけにしていただければと思います」と力を込めた。
<プロフィル>
1953年生まれ、兵庫県出身。“怪獣絵師”の異名を取るイラストレーターで、怪獣やロボットなどのイラストを、プラモデルや映像ソフト、音楽ソフトなどのパッケージを中心に描く。97年に第28回星雲賞(優秀なSF作品に贈られる賞のアート部門)を受賞し、現在まで数多くの個展やグループ展を開催し、幅広い層から支持を集めている。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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