バチカンで逢いましょう:主演ゼーゲブレヒトさんに聞く 主人公は「年齢を気にしない自由な人物」

「バチカンで逢いましょう」に主演しこのほど初来日したマリアンネ・ゼーゲブレヒトさん
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「バチカンで逢いましょう」に主演しこのほど初来日したマリアンネ・ゼーゲブレヒトさん

 世界の映画ファンが今も愛する作品「バグダッド・カフェ」が1989年に日本で公開され、話題を呼んでから25年。主演女優・マリアンネ・ゼーゲブレヒトさんが最新作「バチカンで逢いましょう」を引っさげて、このほど初来日した。映画はマリアンネさん演じる夫を亡くした女性が、ある秘密を抱えて懺悔(ざんげ)するためやって来たローマで、ワケありの老紳士と出会ったり、つぶれそうなドイツ料理店を立て直したりしながら人生を切り開いていく物語だ。ゼーゲブレヒトさんに話を聞いた。

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 ◇ジャンニーニさんとの共演は素晴らしかった!

 89年に日本で公開され、94年にリバイバル上映、初公開から20周年の2009年にはニューディレクターズカット版も上映された「バグダッド・カフェ」。ゼーゲブレヒトさんは寂れた砂漠のモーテルに潤いをもたらす旅行者ジャスミンを演じて人気を博した。

 今作の役、マルガレーテも旅人だ。夫を亡くして独り身となり、老人ホームへの入所を勧める長女に反発し、孫娘とその恋人が住むローマのアパートに転がり込む……。

 ローマでの撮影は約1カ月だった。「ゲリラ撮影だったから、大変だったわ」と楽しそうに笑うゼーゲブレヒトさんは、映画の中で、オマ(ドイツ語でおばあちゃんの意)とみんなから親しみを込めて呼ばれる役柄同様、よく笑い、よく話し、取材中も周囲を和らげる。身ぶり手ぶりを交えて話す姿に、役への熱い思いがにじみ出す。

 「私がもし老人ホームに閉じ込められそうになったら、マルガレーテと同じように怒ると思うわ。一人でも幸せに暮らしていけるというのは私との共通点。でも、私はマルガレーテほど感情の起伏は激しくはないの。だから、役を通して怒りを爆発させる瞬間が体験できて楽しかったわ」と撮影を振り返る。

 マルガレーテがバチカンに来た理由は、ローマ法王の前でどうしても懺悔したい事柄があったからだ。そのバチカンで偶然出会った老紳士との間で、恋愛模様も展開する。相手役ロレンツォには、ルキノ・ビスコンティ監督「イノセント」(1975年)の主演で知られ、「ハンニバル」(2001年)や「007/カジノ・ロワイヤル」(06年)などのハリウッド大作にも出演しているイタリアを代表する俳優ジャンカルロ・ジャンニーニさん。

 「ジャンニーニさんとの共演は素晴らしかったわ。ラストシーンでは2人でジョークをたくさん考え出したりして、本当に楽しかった。ロレンツォが、マルガレーテを助けるために突然キスをするセンセーショナルなシーンもあったわね。あのシーンは、ジャンニーニさんは、コメディーとシリアスの両面を演じ切っていて、とても素晴らしかった。本当に偉大な俳優は謙虚なものだけど、ジャンニーニさんはまさにそういう方。私は彼に受け入れられている空気の中で演じたので、すべての2人のシーンにうれしい雰囲気が出ていると思います」

 ◇マルガレーテは世界に羽ばたくことを恐れない

 ゼーゲブレヒトさんはマルガレーテを「年齢を気にしないで世界に羽ばたいていくことを恐れていない、自由な人物」と評する。孫娘たちとバーで踊りまくったり、ウエディングドレスを着て走ったりと、体を張って大活躍するシーンの連続だ。「ローマの休日」と同じロケ地をベスパで走った体験は、とりわけ印象深いものになったという。「バチカン広場前を走ったの!」と目を輝かせるゼーゲブレヒトさん。「バグダッド・カフェ」では手品を猛練習して披露したが、今作ではベスパを乗りこなすために3日間猛練習したという。ベスパは「古い型で機能的に危険だった」と話すが、スタントなしで撮り切った。

 「あの『バグダッド・カフェ』での手品のシーンは、私のアイデアで生まれたの。誰だって自分自身では気づかない才能があるということを言いたかったの。手品でモーテルを繁盛させるジャスミンとは少し違うけど、マルガレーテもお店を繁盛させるのよ!」

 マルガレーテが繁盛させるのは、廃業寸前のドイツ料理店だ。その店は、ロレンツォとも関係が深いが、バチカンに呼ばれてドイツのお菓子カイザーシュマーレンを作るきっかけにもなっていく。

 「この映画は祖母、娘、孫娘の3代の物語でもあるわ。マルガレーテの料理の腕とお菓子作りは、おそらく彼女の母親から受け継いだもので、勇敢さもおそらく母親から学んだのだろうと想像しました。マルガレーテの勇敢さは、孫娘にも受け継がれている。バラバラだった3人が力を合わせてお菓子を作るシーンは見どころです。その後の予測のつかないラストシーンは私のお気に入り。マルガレーテがどんな道を選択するのかを楽しみに見てください」

 ドイツでは最近では、テレビドラマで活躍をし、映画主演は本国で12年ぶりだった。長年、女優を続けられたことについて、ゼーゲブレヒトさんはこう語った。

 「私は俳優は待つことが仕事のほとんどだと思っていて、演技をさせていただいているのは名誉なことだと感じています。私が俳優としてこれまでやってこられたのも、神様のおぼしめしだと思っています」

 映画は新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほかで公開中。

 <プロフィル>

 1945年生まれ、ドイツ出身。77年、喜劇「オペラ・キュリオーザ」でドイツ各地を巡業し評判を呼び、数多くの賞を受賞。パーシー・アドロン監督に見いだされて映画デビュー。「シュガー・ベイビー」(84年、同監督)でエルンスト・ルビッチ賞を受賞。「バグダッド・カフェ」(87年、同監督)で世界的な人気を得た。「ロザリー・ゴーズ・ショッピング」(89年、同監督)、さらに米ハリウッドにも進出し、ダニー・デビート監督の「ローズ家の戦争」(89年)に出演。最近は、「家なき子」「グリム童話・ホレおばさん」などのドイツのテレビドラマで活躍している。

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