浅野忠信:40代になって「年相応に今の自分らしさを役に取り込みたい」 映画「私の男」出演

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 浅野忠信さんと二階堂ふみさんが共演した映画「私の男」(熊切和嘉監督)が14日から全国で公開されている。原作は直木賞を受賞した桜庭一樹さんによる同名小説で、周囲にはいえない秘密を抱えた父と娘の物語が、北海道の紋別と東京を舞台に描かれていく。「この映画を見た方が、何を受け取り、何を考えてくれたのかというのは、すごく気になります」と話す浅野さんが、撮影中のエピソードや共演の二階堂さん、さらに自身の俳優人生について語った。

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 ◇自分をぶつけられる役

 浅野さんが演じる腐野(くさりの)淳悟は、震災で家族を失った10歳の遠縁にあたる少女・花を引き取り、紋別の田舎町で暮らし始める。やがて2人は、“父”と“娘”を超えたただならぬ関係に陥っていく……。浅野さんは淳悟という男を「きっと、初めから満たされていない何かがある。でも本人はそれに気づいていない」と分析。その上で、花に出会ってからの心の変化を「人と人が出会うときの本来の意味に目を向けず、恋愛というか、そういうところに依存し、見つめなければいけない自分をどんどん遠ざけていってしまった。そして、いろんな問題が起こっていく中で花の本来の役割に気づき、自分も彼女に対する役割を漠然と考えるようになっていった」と解き明かす。また、花とのただならぬ関係について、「悪気があってそうなったわけではない。淳悟は元から何かが欠けているタイプの人間だし、小さいころから常識のない中で育っているから、自分のしていることのおかしさに気づいていない」と表現する。さらに「元から(常識から)外れているから誰の目も気にならない。結局、孤独な時間だけが彼にはあるんでしょうね」と結論づける。

 そんな淳悟を演じることは、自らを「常に、自分が演じる役に自分自身を当てはめてきたタイプの人間」と語る浅野さんにとって抵抗はなく、むしろ「30代で、役者として、一人の男としていろんなことに向き合わなければいけないことがあり、40代になって、この先の人生に対して準備ができていた。だから難しいというよりは、準備が整った中でそれをぶつけられる役が来てくれた」と内心喜ぶ気持ちがあったという。浅野さん自身に娘がいることも、“父親”を演じる上で「妙な安心感」と「説得力」をもたらした。

 ◇絆を深めた二階堂さんとの“血の雨”のシーン

 花を演じているのは、「ヒミズ」(2011年)の演技で、ベネチア国際映画祭最優秀新人俳優賞に輝いた二階堂さんだ。二階堂さんは今作の演技でも、ニューヨーク・アジア映画祭で若手俳優に贈られる「ライジング・スター・アワード」を受賞している。撮影当時18歳だった二階堂さんについて、浅野さんは「体当たりで徹底的にやってくれますから、これほど信頼できる女優さんはいないと思いました」と振り返る。また、「彼女のお陰で僕はどんどんその世界にのめり込んでいくことができましたし、現場のみんなも本当に彼女に助けられていたところがあります」と、二階堂さんの存在の大きさを語る。

 最初に会った瞬間から、二階堂さんのキャスティングは「理想通り」と思ったそうだが、一層絆が深まったと感じたのは、撮影の最初の方で撮られた、“血の雨”が降る場面だという。外は厳寒の紋別の冬。スタッフが気を利かせて温かい血のりを用意してくれても、温度は徐々に下がっていく。揚げ句の果てに2度目のテークとなり、準備が整うまでの間、「離れて、タオルで体をふくとなると、また寒いわけです」。そのため2人は再びカメラが回るまでの間、会話もないまま肌を寄せ合って過ごしたそうだ。それによって、「2人の時間をすごく感じる」ことができ、その後の演技に大いに役立ったという。

 ◇こんな男だけど意味がある

 浅野さんは今回の作品について、「自分の個人的な時間や家族との時間というものには、他人にいえないようなこともあるし、きれいごとだけではない。僕は、人が映画に期待しているのは“そこ”だと思うんです。(見た人が)今日のダメな自分と同じようなことを、この(映画の中の)人も経験したのかも、というのを(スクリーンで)見たいんだと思うんです。その意味でこの映画は、見た人誰しもが何かしら感じてもらえるのでは」と期待を寄せる。

 昨年40歳になり、俳優人生も25周年を迎えたが、「はげちゃったらはげちゃったでいい。太っちゃったら太っちゃったでいい。だからといって、だらしなくしようとは思っていません。年相応に、今の自分らしさをそのまま役にも取り込んでいきたいですし、そういう中で、新しい自分に出会っていきたいと思っています。無理はしたくないですね」と生き方に気負いは感じられない。

 そんな浅野さんに改めて、浅野さんにとって映画が持つ意味をたずねると、小さいころは目立ちたがり屋で有名人に憧れていたこと。父親がタレントのマネジャーをやっていたことから自身も芸能界にデビューするチャンスに恵まれたこと。18歳のころ、俳優業が嫌でやめたいと思ったことがあったことを打ち明けたあとで、「でも、続けていくと決意して、そのとき、子供ながらに、これがいわゆる“与えられたもの”かもしれないと思ったんです。だからいまだに(映画の意味が)何なのか分かっていません。ただ、こんなにも人が喜んでくれて、こんなにもみんなにもてはやされて、どこにも逃げ場はないので大変ですけど、ただただやるしかないと思っています」と力を込める。

 そういう思いがあるからこそ、「自分の役に自分を当てはめるんだと思います。淳悟に対しても、こんな男だけどすごく意味があるんじゃないか、この映画にとって一番必要とされているのは淳悟なんじゃないかと僕は思いたかった。花がふわーっといる中で、その裏で、一番よくない陰の部分を背負っているのが淳悟で、でも、映画にとってそれが核となる、一番問題となる“何か”なのかなと思いながら演じていたんです」と笑顔を見せた。映画は14日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1973年生まれ、神奈川県出身。タレントのマネジャーをしていた父親の勧めで14歳のときにドラマ「3年B組金八先生」に出演。その後、90年に「バタアシ金魚」で映画デビュー。以来、数々の作品に出演。代表作に、「ねじ式」(98年)、「地雷を踏んだらサヨウナラ」(99年)、「殺し屋1」(2001年)、「劔岳 点の記」(08年)、「ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ」(09年)などがある。03年には「地球で最後のふたり」がベネチア国際映画祭コントロコレンテ部門で主演男優賞を獲得したほか、07年の「モンゴル」は米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。11年には「マイティ・ソー」でハリウッドデビュー、「バトルシップ」(12年)、「47RONIN」(13年)にも出演した。銭形警部役で出演した実写版映画「ルパン三世」の公開を8月に控える。

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