5月16日の全米公開を皮切りに、61の国と地域で公開週の週末興行収入1位を獲得するなど快進撃を続けるハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」が、日本でも25日に公開された。メガホンをとったのは、長編監督デビュー作となった前作「モンスターズ/地球外生命体」(2010年)がハリウッド映画のスタッフの目にとまり今作に抜てきされた英国出身のギャレス・エドワーズ監督だ。6月に来日した際、話を聞いた。
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エドワーズ監督は「低予算のモンスタームービーを撮ったばかりで、正直なところ、また怪獣映画を作るつもりはなかった。でも相手はゴジラ。怪獣の中の“王様”だから断れなかった」と監督を引き受けた理由を明かす。
今作では、映像の“見せ方”に腐心した。ゴジラが姿を現す時には「ゆっくりとステップを踏んで見せていく」ようにした。ゴジラに破壊された“戦場”に米軍兵士たちがパラシュートで降下する際には、兵士の視点に立ってゴジラにギリギリまで近づいた。「映画というのはショットで出来上がっています。一番いい視点というのは、人間の視点で撮ること。なぜなら、その物体のスケール感が伝わり、それによって観客は感情移入ができるからです」と語るエドワーズ監督。音にも気を配った。「徐々に姿を見せていく中で、音響もどんどん大きくなっていく。ただ、10までいったところでその音を維持すると、ゼロと同じなってしまう。我々の感覚は、その前の体験に左右されます。小さいもののあとに大きいものを見せられるから大きく感じるし、静かなところに大きな音が入るから大きく感じる。ですから僕は、音もビジュアルも常にコントラストを出していくことを意識しました」という。
エドワーズ監督は、前作「モンスターズ」がそうだったように、今作でも、敵を単純な悪として描かない。それについて、「生命とは複雑なもので、見方を変えれば善と悪が入れ替わる。怪獣も同じだと思う。悪とされている怪獣にも違う視点を持ち込みたかった。彼らはただ、生き延びて、再生するという自然の摂理に従っているだけなのです」と説明する。
「“良識ある”ゴジラオタク」を自称するが、今作を制作する過程で、自身の中での「ゴジラ観」が変わったという。「僕は最初、ゴジラは人間と目を合わせないと決めていました。ゴジラは人間たちがいることに気づいていないことにしたかったのです。でも映画を撮っていく中で、主人公(アーロン・テイラー・ジョンソンさん)とゴジラの共通項を作りたくなった。そこで、2人は“長い旅”を進む中で出会うわけですが、そのときだけは目を合わせるようにしました」と話す。さらに「ゴジラは絶対倒れないという考えも捨てました。というのは、例えば、道で誰かがケンカをしていたとする。まったく状況がつかめない傍観者は、最初に手を出した方に非があると思い、手を出された方を応援したくなるものです。だから今回も、(ゴジラが戦う)もう片方の生物を、最初に手を出す側にしました。そうすることで観客は、ゴジラに勝ってほしいと思う。でも、一度も倒れないとなるとそれはうまくいかない。それで、ゴジラが倒れるようにしたのです」と熱く語った。ちなみにこのアイデアは、映画「ロッキー」からとったものだそうだ。
今作では、原発事故への言及がある。それについては、オリジナルの1954年版「ゴジラ」と今の日本の状況の両方を意識したと明かす。そこには監督自身の次のような思いがある。「オリジナルのゴジラが60年も生き続けているのは、SF映画というファンタジーの形をとっていながら、非常に意義のあるメッセージを持っているからです。シリアスで芸術性の高い作品なら、そういう重みのあるメッセージは込めやすい。でも、限られた人にしか見てもらえない。ですから、こういうポピュラーな作品でそういった問題提起をすることは、非常に重要なことなのです」。
また、広島の原爆についても触れているが、それは英国人ならではのものだろう。「僕にはとても重要なことでした。謙(芹沢博士役の渡辺謙さん)にとっても重要でした。この映画で誇りに思っていることは、米軍が完全に今回の映画に協力してくれたことです。彼らから脚本の承認を得たし、現場にも彼らは来ていました。米国の軍人が日本人について、広島の歴史について語る場面では、僕自身、慎重に演出しましたし、俳優たちとは後悔の念が感じられるようなシーンにしようと確認し合いました。こういう作品でシリアスなことを描けたことを、僕は誇りに思っています」と胸を張る。
芹沢博士がゴジラを、欧米人には耳になれている「GADZILLA(ガッディーラ)」ではなく、「ゴジラ」と日本人の発音で呼ぶ場面がある。それについて、「実は、(ゴジラと)全く言わないという案もありました。でも、言わないとどのクリーチャーのことを指しているのか分からないということで入れました。あれは謙のアイデア。本当にそれでいいのかと彼に聞いたぐらいです。米国では『ゴジラ』のテレビ放送が結構多く、おそらく音としては聞いていた。だからみんな抵抗感はなかったようです。実際米国では、観客はあの瞬間、拍手をしていました。英語的な発音でなかったから、逆に新鮮だったのでしょう」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
世界での大ヒットを受け、続編の製作も報じられている。エドワーズ監督は米ロサンゼルスに戻ったら製作会社と今後の方針について話し合うといっていた。内容については、「ゴジラが現れたそのショックを描くのも面白いですが、僕の前作『モンスター』では、地球に何年もモンスターがいるという設定でした。同様に、ゴジラの存在が当たり前になっている世界も面白いのではないかと思う。もちろん、アイデアはほかにもたくさんあります、いまはちょっと言えませんが……」と語るにとどめた。映画は25日から全国で公開中。
<プロフィル>
1975年生まれ、英国ウォリックシャー、ナニートン出身。大学の卒業制作として実写とデジタルエフェクトを合体させた映画を作り、VFXアーティストとしてキャリアをスタートさせた。BBCドキュメンタリー「HIROSHIMA」(2005年)で視覚効果を担当。この作品で英アカデミー賞視覚効果賞を受賞した。10年、自身が脚本、監督、撮影、キャラクターデザインをしたインディペンデント(独立系)映画「モンスターズ/地球外生命体」がハリウッド映画の製作サイドの目にとまり、長編映画監督2作目で今作の監督に抜てき。今作の続編と、新「スター・ウォーズ」3部作と並行して作られるスピンオフ映画第1作(16年公開予定)の監督として名前が挙がっている。影響を受けた映画は「スター・ウォーズ」。ゲームでは、任天堂の「ドンキーコング」にはまり、ブレイクダンスやBMX(競技用自転車)に凝ったこともあったという。
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