誤配された弁当を巡って繰り広げられるヒューマン作「めぐり逢わせのお弁当」が9日から公開される。インド映画というと、歌に踊り、きらびやかな衣装、3時間はくだらない上映時間というイメージが定着しているが、今作は違う。リテーシュ・バトラ監督は米ニューヨーク大の映画学校と、サンダンス・インスティテュートで学んだ経験があり、サンダンスでは主宰のロバート・レッドフォードさんじきじきの指導を受けたという。今作の洗練された語り口には、そんな経歴も影響しているようだ。
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インドのムンバイで暮らす主婦イラ(ニムラト・カウルさん)が、夫(ナクル・バイドさん)の愛情を取り戻すために作った弁当が、どういうわけか保険会社で働く男やもめのサージャン(イルファーン・カーンさん)の元に届けられる。その日、空っぽになった弁当箱を見て喜ぶイラ。ところが、帰宅した夫の反応がいつもと同じことに不審を抱いた彼女が、翌日の弁当に手紙を忍ばせると……という展開。
まず驚くのは、インドのムンバイに実在するという、「ダッバーワーラー」という弁当配達人の存在。配達人が朝、各家庭を回り、妻や母親から弁当箱を受け取り、それを職場の夫や子供たちに届けるという。食べ終わった弁当箱は回収され、再び配達人が自宅に返しに来る。なんらかの事情で一緒に暮らせない家族たちのためのシステムかと思ったが、どうやらそうでもなさそう。夫はきちんと自宅から出勤し、自宅に帰ってくる。なんとむだなシステムかと思う一方、これがムンバイの雇用の一端を生み出しているのだと思うと、現地の人々の“ニッチ”な商才に感心させられる。ともかく、何十個もの弁当箱を携えた大勢の配達人たちが自転車をこぎ、列車に乗り、弁当を配って歩く光景にカルチャーショックを受けた。ちなみにこのシステムでの誤配の確率は、ハーバード大学の分析によると、わずか600万分の1なのだそう。その600万分の1に、イラは幸か不幸か引っかかってしまったのだ。
そのイラと、誤配の弁当を食べたサージャンが手紙を介して少しずつ相手のことを理解し、慈しむようになっていく様子が、映画ではしっとりと描かれていく。2人の大人の奥ゆかしさに心がじんわりと温まり、2人がどのように対面するのかをジリジリしながら見守った。イラにはまた、上階に住む“おばさん”という心強い味方がいる。イラが「おばさーん」と声を掛けると、いつも「なんだい」と応じ、そのときどきに応じたアドバイスをくれる。おばさんも、実はある事情を抱えているのだが、彼女の存在が小気味よく、映画のアクセントになっている。9日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほか全国で順次公開。
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションをへてフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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