注目映画紹介:「福福荘の福ちゃん」森三中・大島美幸さん演じる心優しいオッサン

「福福荘の福ちゃん」のワンシーン (c)2014『福福荘の福ちゃん』製作委員会
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「福福荘の福ちゃん」のワンシーン (c)2014『福福荘の福ちゃん』製作委員会

 お笑いトリオ「森三中」の大島美幸さんが映画に初主演し、モントリオール・ファンタジア国際映画祭で最優秀主演女優賞に輝いた「福福荘の福ちゃん」(藤田容介監督)が8日から公開される。大島さんが演じるのは、心優しき独身男・福ちゃん。彼を取り巻く人々との日常と、初恋の人との再会を軸にした藤田監督が脚本も手掛けた完全オリジナル作だ。藤田監督からの熱烈オファーでキャスティングされた大島さんが声色も変え、細々とした動作までオッサンになり切っている。コミカルで心温まる一作だ。

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 “福ちゃん”こと 福田辰男(大島さん)は、おんぼろアパート「福福荘」に住んでいる。塗装の仕事一筋で、家では趣味の凧(たこ)作りにいそしむ。仕事場では弱い人の味方になり、アパートでは住人同士のトラブルを仲裁する真面目な性格。働き者でケンカも強く人気者の福ちゃんだったが、女性に奥手という弱点があった。同僚のシマッチ(荒川良々さん)と妻の良美(黒川芽以さん)が福ちゃんを心配し、克子(山田真歩さん)を紹介するが、福ちゃんはデートの日にアパートの友達も連れてきてしまう。ある日、福ちゃんのアパートを女性が訪ねてくる。それは、中学時代の初恋の人・千穂(水川あさみさん)で、福ちゃんが女性を苦手になった原因を作った張本人だった……という展開。

 大島さんの芝居がオッサンになり切っていて見事だ。丸刈りで体重も増量。同じように丸刈りの荒川さんとのツーショットが、仲のいいオッサン同士にしか見えない。哀愁さえ漂わせるオッサン・福ちゃんの魅力にどっぷりとハマってしまう。どこか自己中心的で風変わりな登場人物達の中で、福ちゃんだけは違うのだ。他人を思いやる心の広さを持っている。途中、彼の過去が分かり、複雑で繊細な内面があぶり出される。その過去を、初恋の女性・千穂の回想を使って語らせるあたりが絶妙だ。このエピソードがあるからこそ、千穂との再会も、映画的な奇跡と人間への希望に満ちているといえるのではないだろうか。「全然大丈夫」(2008年)の藤田監督の6年ぶりの新作。よく練られた脚本で、日常に根差した物語が面白い会話とともに展開され、突飛(とっぴ)で個性的な登場人物たちも親近感のある人として描かれている。狭いが住人のぬくもりを感じられるアパート、晴れた日のピクニック……場面のメリハリも利いている。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で8日から公開。(キョーコ/フリーライター)

 <プロフィル>

 キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。最近一番魅了された俳優は「西遊記~はじまりのはじまり~」(11月21日公開)の孫悟空役ホアン・ボーさん。

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