温泉と紅葉と幻の滝を楽しむバスツアー客の中高年の女性7人が、山の中で迷子になりサバイバルをするコメディー映画「滝を見にいく」が22日に全国で公開された。主要キャスト7人をオーディションで公募し、演技経験のない人とプロの女優をまぜてキャスティングした。今作は、日本映画の第一線で活躍する監督に撮りたいものを撮ってもらうことと、新人俳優のチャンスの場になるよう企画されたという。メガホンをとった「南極料理人」(2009年)などで知られる沖田修一監督に聞いた。
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−−映画が生まれたいきさつを教えてください。
映画出演者を一般公募してワークショップをしたあとに映画を作るという企画をいただきました。ちょうど3人のおばちゃんが家族の愚痴を言いながら山を歩いて滝を見に行く……というのを考えていたので、そこから物語が発展していきました。個人的におじさんやおばさんがご飯を食べているような、生活感のある映画が好きなんです。
−−ロケ地の妙高高原の風景が気持ちいいですね。この場所を選んだ理由を教えてください。
企画の深田誠剛さんのアイデアです。よく行く場所らしいんです。紅葉を撮るのにいいのではということで決まりました。僕としては、中高年が新宿駅から長距離バスに乗って行く旅、というイメージもありました。
−−その妙高市でロケハン地域サポート人の根岸遙子さんと出会い、主要キャストとしても配役しました。決め手はなんだったのでしょうか?
今回、タイトなスケジュールだし山の中の撮影なので、中高年の方々が体力的に大丈夫なのだろうかという心配がありました。ロケハンのときに根岸さんと山の中を歩いているときに、彼女は山に詳しいうえに、軽々と歩いているんです。こういう方に出てもらったらどうだろうと思って、「オーディションに応募してみたら」と僕から声を掛けました。根岸さんは書類を出して、東京のオーディション会場にやって来ました。本人は「ウケ狙いで応募した」と言っていましたが、面白そうな人だなと思いました。
−−オーディションのポイントは?
普通に生活している女性をスクリーンに映し出したかったので、リアルな生活感が出せそうな方を選びました。最終選考で40人に絞って、一人一人の半生を聞きました。脚本に書き込みたい個性を持っている方を7人選び出して、写真を並べながら、見た目のバランスを考えました。根岸さんの写真を真ん中に置いて、脇に個性が強い人たちを持ってきたとき、とてもバランスがいいと感じました。最初はすべて一般の方々をキャスティングしようと思っていましたが、プロの方と一般の方が組んで芝居をしたときとても面白かったので、その組み合わせにしました。
−−7人のキャラクターがバラバラで、それが映画を面白くしています。本人の個性を役柄に投影していったといいましたが、シナリオはどうやってできていったのですか?
先に話の骨格があって、オーディションと同時進行で作っていきました。4~5日かけてワークショップで個性を見ながら脚本に書き加えていきました。映画の中に出てくる「娘と仲がいい」「腰が悪い」「テニスをやっている」「オペラをやっている」といったことは本人そのままの個性です。あとは想像で、この人はお菓子を持ってきそうだなとか、ゆで卵の塩はアルミホイルにくるんで持ってきそうだとか……バッグの中身まで想像しながらキャラクター作りをしていきました。そういったことを考えていくのが楽しいんですよね。
−−最初はひとくくりに見えた女性たちの個性がだんだん見えてきて、人生で背負ったものまで見えてきます。時間の進み方が自然ですんなりと心に入ってきました。
団結していく過程に時間を描きこんだからでしょうか。男性とは違って女性はすぐに団結します。道に迷ってケンカになっていたのに、ピンチを前にだんだん結束していき、あだ名で呼び合ったりして。でも、東京へ帰ってもこの人たち会ったりしないんだろうなって想像もできて、その場の団結力でしかないのも面白い(笑い)。
−−背負っているものをすべて語らず想像させます。女性は自分と似た人を見つけるかもしれませんね。
ユーミン(安澤千草さん)だけが自分の気持ちを吐露するシーンがありますが、中には最後まで何者なのか分からない人もいて、想像しながら見ると面白い。おばちゃんたちは背負っているものを他人に分かってもらおうと思っていません。関本(荻野百合子さん)が夢を見るシーンでは、彼女が背負っているものが垣間見られるのですが、関本はその夢の内容を他の人に分かってもらおうとは思ってないんですね。
−−木の実を拾ったり、枯葉をふとんにして寝たりしながら、ふだんのしがらみから解放されて、みんなが少女のような表情になっていきます。どうやって演出していったのでしょうか?
「小学生女子のように」と言いました。草相撲をしたり大縄跳びをしたりしていくうちに、おばちゃんたちは生き生きとしていきます。山の中で遭難していることを思い切り楽しんでいるんです。年をとると出かけるのがおっくうになることもあるかもしれないけれど、そういう人たちだからこそ、非日常を楽しめるのではないか、と。最初はゴム跳びをしてもらおうと考えていましたが、より女性のたくましさが出せるのではと思い、大縄跳びをしてもらうことになりました。
−−童心に帰るような楽しさがあります。
おばちゃんたちは大冒険をしているんですよ。僕も林が近くにある場所で育ったので、撮影しながら小学生の頃を思い出したりしました。
−−ヘビまで捕まえましたが、あれは本物なのでしょうか?
毒抜きしてはありますが、本物です。山で見つけたヘビです。ヘビをつかむ役の根岸さんが最初は怖がったので、美術部で本物そっくりのヘビを作っていましたが、「女優なんだからやれる!」というみんなの言葉が根岸さんに火をつけました。本物のヘビを前にみんなのテンションが上がってキャーキャー言うので、ヘビの方が少し疲れているように見えましたが(笑い)。
−−「南極料理人」「キツツキと雨」など、コミカルで人間味のある作品が沖田監督の持ち味ですが、今作でも存分に発揮されていました。映画作りで共通して大事にしていることはなんでしょうか。
笑いです。どんなジャンルでも、人と人のコミュニケーションや、ディテールにどこかしら笑いのある作品を、と思います。もし僕が銀行強盗を出すとしたら、頭にかぶるストッキングのデニール数にもこだわりたい(笑い)。強盗の視界が確保できて相手から顔が見えにくい厚さは何デニールなんだろうかと考えますね(笑い)。
−−あたためているオリジナルの企画やこれからやってみたい作品を教えてください。
またオリジナル作品を作る予定です。むだに緊張感のあるものもやってみたい。
−−最後に映画のアピールを!
今回、いい機会をもらって自分でも面白い映画ができたと思います。普通の人たちが出ているようなこういう映画にお客さんが入る世の中がいいなあと思います。この映画を見て、出不精な人が出かけるきっかけになればといいです。
<プロフィル>
おきた・しゅういち 1977年生まれ。2001年、日本大学芸術学部映画学科を卒業。02年、短編「鍋と友達」が第7回水戸短編映像祭にてグランプリを受賞。06年、初長編作「このすばらしきせかい」を発表後、09年には「南極料理人」が大ヒットし、国内外で高い評価を受ける。「キツツキと雨」(12年)で東京国際映画祭審査員特別賞を受賞したほか、ドバイ国際映画祭で日本映画初の3冠受賞を達成した。「横道世之介」(13年)でブルーリボン賞最優秀作品賞などを受賞。
(インタビュー・文・撮影:キョーコ)
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