スマートフォン向け無料通話・チャットアプリ「LINE」のスタンプを制作、販売できる「クリエイターズマーケット」が好調だ。5月のサービス開始から半年で販売総額は約36億円、購入されたスタンプ総数は約3万セット以上に及ぶ。スタンプ販売をきっかけにイラストレーターになったり、本を出版するスタンプ制作者もいる。LINEによると、スタンプ制作者の約半数がクリエーターとしての業務経験はないという。クリエイターズマーケットが新たな才能発掘の場となるか、動向を探った。
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LINEは月間アクティブユーザー数が1億7千万人以上、230の国と地域で使用されている無料通話・チャットアプリだ。LINEスタンプは、チャットでメッセージの代わりに気持ちを伝えたりすることができる絵文字のようなもので、大きく分けるとマンガや人気キャラクターのスタンプ、企業が宣伝のために無料配布するスタンプ、個人のクリエーターが制作したクリエイターズスタンプがある。クリエイターズスタンプは1セット(40個)100円で購入できる。
クリエイターズスタンプは、2014年5月8日からスタートしたサービスで、「クリエイターズマーケット」で販売開始から11月7日までの半年間で販売総額は35億9000万円、購入されたスタンプ総数は3595万セットに及ぶ。登録クリエーターの数は27万人を突破し、145カ国から参加している。スタンプ販売額のうち50%がクリエーターに分配され、販売額上位のスタンプは平均して、10位までが3680万円、30位までが2360万円、100位までが1300万円、500位までが460万円を売り上げている。
11月末、東京都内で今年を象徴するスタンプを選出、表彰する「LINEクリエイターズ スタンプ アワード 2014」授賞式が開催された。ダウンロード数や送信数などをもとに決定された「ベストクリエイターズスタンプ50」の中から一般投票と審査委員会の審査を経てグランプリを獲得したのは小嶋わにさんが制作したスタンプ「アメリカンポップ関西弁」。アメリカンポップアート調のキャラクターが関西弁でメッセージを伝えるスタンプで「さまざまなシチュエーションに合わせたスタンプが用意され、使い勝手がいいことと、表情が細やかに作られている上、アメリカ人と関西弁のミスマッチさがユニーク」という点が評価された。
スタンプ制作時はクリエーターの経験はなっかたという小嶋さんだが、スタンプの制作活動を通してイラスト関連の仕事を依頼されるようになり、現在はイラストレーターとしても活動している。「自分で作ったスタンプが使えたらいいなと思った」ことからスタンプを制作し始めたという小嶋さん。「まさか売れるとは思ってなかった」と驚きを隠せない。今後もスタンプ制作は続けていくといい、「スタンプのアイデアは尽きない。まずはアイデアがあるものを出し切りたい」と意欲を燃やしている。
クリエーターズスタンプが話題になり書籍出版に至ったのが「もっと私にかまってよ!」を制作した森もり子さんだ。返事をくれない彼氏を追い込む“かまってちゃん”の女の子をモチーフにした“ウザ可愛い”女の子のスタンプは、販売当初から話題になり19万ダウンロードを突破した。「返事マダ?」や「既読じゃん…」などテキストで送ったら相手から“重い女”と受け取られかねない禁じ手のフレーズが並んでいるが、スタンプにすることで「ネタとして使える」と森さんは話す。
もともと、「ツイッターで恋愛ネタをつぶやいていて、重い恋愛とか過去の失敗談が人気があった」ことからスタンプ化に至ったといい、スタンプ販売で稼いだ金額は約800万円。スタンプが話題になり、コミックエッセー「返事をくれない彼氏を追い込んでます。」(メディアファクトリー)やイラストエッセー「もっと私にかまってよ!」(マイナビ)を出版した。森さんは、スタンプ販売をきっかけにそれまで勤めていた会社を辞めたといい、今後はスタンプ制作のほかにも絵を描くことを中心に、マンガや小説執筆など「できそうなことをやっていきたい」と話す。
LINEは、「クリエイターズスタンプ発でキャラクターに人気が出ること、またクリエイターズスタンプの二次波及については喜ばしいことだと感じており、今後はもっと拡大していけるような場としていきたい」とし、「スタンプ創作活動が“文化”となり、今以上の価値を生み出す場としていきたい」とコメントしている。無名のクリエーターのほかにも、俳優の田辺誠一さんのスタンプ「かっこいい犬。」が話題になったり、元AKB48でモデルの光宗薫さんがスタンプ制作に名乗りを上げたり、また、スポーツチームや地方自治体、法人がイメージキャラクターやご当地キャラクターを用いて制作したスタンプが登場するなど、参加クリエーターのジャンルも多岐にわたっている。
「LINEクリエイターズ スタンプ アワード 2014」授賞式に審査員として出席したヒャダインこと前山田健一さんは動画配信サイト「ニコニコ動画」に投稿した自作の詞で作った曲が話題になったことをきっかけに音楽プロデューサーや作曲家として活躍しているが、「初期のニコニコ動画のよう。クリエーターがたくさん集まっているのも分かる」と語った。YouTuber(ユーチューバー)として活躍するHIKAKINさんらを輩出した「YouTube」や「ニコニコ動画」のように、「クリエイターズマーケット」が新たな才能発掘の場になるか、今後も注目したい。