山崎貴監督:「寄生獣 完結編」を語る 「まさかキュンとさせられるとは!と感じてほしい」

「寄生獣 完結編」について語った山崎貴監督
1 / 5
「寄生獣 完結編」について語った山崎貴監督

 岩明均さんの名作SFマンガを実写化した2部作の後編「寄生獣 完結編」(山崎貴監督)が公開中だ。「寄生獣」は謎の寄生生物・パラサイトが右手に寄生した高校生・泉新一(染谷将太さん)と、他のパラサイトとの戦いを描いており、2014年11月に公開された前作の映画では新一が母に寄生したパラサイトを倒すところまでが描かれた。後編で完結編となる今作では、組織化したパラサイト達と人間との市役所での攻防や人間の子を産んだパラサイト・田宮良子(深津絵里さん)の行く末、最強のパラサイト・後藤(浅野忠信さん)と新一の壮絶な戦いなど原作のバトルの要素を盛り込みつつ、新一と里美(橋本愛さん)の高校生同士の恋愛にも重点が置かれている。VFXの名手として知られる山崎監督に、今作に懸ける思いや見どころなどを聞いた。

あなたにオススメ

 ◇市役所と田宮良子の場面を交互に見せる脚本が奏功

 「寄生獣」は岩明さんが1990~95年に「月刊アフタヌーン」(講談社)で連載した人気マンガが原作。コミックス10巻分の原作を今回は2部作で実写映画化した。前作の公開から5カ月、その間、山崎監督の耳に入ってきた反応は「いつも僕の映画をあまり好きじゃない人たちが逆に喜んで見ている感じがあって、困ったものだなと(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに明かしつつ、「やや趣味に寄ってしまったなというところがあって。自分のダークサイドを開放しすぎたかなという反省はありますね」と語った。

 監督の真骨頂ともいうべきバトルシーンは「好き放題入れると女性が興味を持ち続けられなくなっちゃう。特にこの作品では自分の中ではもう少しタイトにしてその分、質を高めるというやり方をしています」と語る。前編と後編とで「内容的には後編の方が圧倒的に多いし、難しく、激しくなってきているんですけど、でも尺(上映時間)的には変わってないかな」とクオリティーを高めることに注力した。

 中でも市役所でのパラサイトと人間との攻防と動物園で田宮良子が新一に自分の子を託す場面を交互に見せる演出が功を奏している。「原作のままの流れだとすごく大きなクライマックスが立て続けになってしまう。どうしようかと頭を悩ませている時に(脚本の)古沢(良太)君が一緒にしちゃったらうまくいくかもしれないので書いてみますって直してくれたんですよ。すごくそれがうまくいった」と古沢さんのアイデアだったことを明かす。「そうするとお互いが補完し合って、意味のある“いっしょくた”にできた。市役所に新一の居場所がなかったので、どうしたら新一を市役所に置いておけるんだろうかと悩んでいるうちに古沢君がそう言い始めた。すごくいいアイデアだったと思いますね」と絶賛する。

 ◇後藤とのバトルの舞台は「煉獄」を表現

 新一と後藤とのラストのバトルは、原作のゴミが不法投棄された場所から放射性廃棄物処理場の炎が燃えさかる焼却炉へと舞台が変更されている。燃え上がる炎は「キリスト教の煉獄(れんごく・罪の償いが終っていない死者の霊魂が清めをする期間)」を表現したという。山崎監督は「宗教っぽくしたかったんです。煉獄で最後のジャッジが下る。かつ原作では人間が不法投棄したゴミの中で戦うという大事な部分だったので、そこを意識しつつ、紅蓮の炎が上がっているという」と舞台を変更した理由を語った。

 なぜ炎にこだわったのか。それは「映画『ブレードランナー』(リドリー・スコット監督)の幻のオープニングというのがあって、それは焼却炉に人間の形をしたレプリカント(人造人間)を投げ捨てているというシーンだったんです。それが見たかった。レプリカントと寄生生物は近い存在で、頭もいいし、人間より強くて、でも寿命が短い。『寄生獣』でこの(炎の)イメージはありだな、と」という理由だった。

 ◇“愛のパート”では橋本愛の演技を絶賛

 VFXを駆使した壮大なバトルがある一方、愛の物語も丁寧に描かれている。前編は母性愛を中心にし、母との悲しい別れを乗り越えた新一が後編では人間愛に目覚め、最後には新一にとって最も愛しい里美との関係に行き着く。“愛のパート”について山崎監督は「母との日常が変容するという部分で前編は引っ張っていって、そこから今度は世界に拡散していき、もっと大きな話になっていく、でも最後はまた非常に個人的な話に収斂(しゅうれん)していく」と表現する。

 こちらのパートで鍵を握っているのは里美役の橋本さんだ。山崎監督は「彼女自身が前編より後編の方が求められるものが重要になっていくというのは感じていたと思うんですけど、後編ではいくつかのシーンではすごく女優っぽく……。成長したというより、もともと持っていた奥にあるものを出してきたという感じでした。難しい要求に対して凛(りん)と立ち向かっていく感じが後編はすごくあった。この2人のラブストーリーは非常に大きな軸の一つなので、それも理解していて、(撮影中)すごくいい日が何日かありましたね」とたたえる。

 2人の関係が最高に盛り上がるラブシーンは1日かけて撮影した。山崎監督は「僕はあんまりラブシーンを撮ったことないので、ちょっとドキドキしながら撮りました」と明かしつつ、「あのシーンは、新一が切り替わっていく、ミギーを失い、どうしようもない状態になって落ちて行ったところにある“救い”で、ちょっと生々しく生物の営みというふうにも見せたかったので、丁寧に描きたいなと思っていました」と時間もある程度割いてじっくりと描いた。

 仕上がりについては「それぞれが自分のパートをちゃんと守ってくれないとできない映画なので、全員野球でしたが、並み居るすごい俳優陣の中で若い2人(染谷さんと橋本さん)はちゃんと演じてくれた。結局この2人が背負うしかない話なので、2人はよくやってくれました。すごくいいお仕事をしてくれたなと思います」といい、特に橋本さんには「新人賞をあげたい」と絶賛した。

 ◇後編は特に女性に見てほしい

 実はこの“愛のパート”を重要視したのには理由がある。山崎監督は「前編はちょっと男性向けに作って、後編は女性向けに作ったので、後編は特に女性に見てほしい」と考えていた。「まさか『寄生獣』でキュンとさせられるとは!って感じてほしいんです(笑い)。青春映画として見てほしいなと思いますね。変わった人達はいろいろ出てきますが、基本的に、そこは(青春映画という部分は)すごく大事に撮っているし、丁寧に描けていると思う。特殊な状況での特殊な恋愛ですけれど、見終わったあとに切ない気持ちになると思うんです。里美と新一の恋愛関係もありますし、ミギーと新一の友情、寄生生物との友情と言っていいかどうか分からないですけど、でも友情めいた部分、そういうところも大事にして撮っているので、そこを見てほしいなと思います」とメッセージを送った。「寄生獣 完結編」はTOHOシネマズスカラ座(東京都千代田区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 1964年生まれ、長野県出身。阿佐ケ谷美術専門学校卒業後、86年白組入社。2000年、SMAPの香取慎吾さん主演の「ジュブナイルJuvenile」で映画監督デビュー。05年に「ALWAYS 三丁目の夕日」、07年に「ALWAYS 続・三丁目の夕日」、12年に「ALWAYS 三丁目の夕日’64」をヒットさせる。他の監督作に「BALLAD 名もなき恋のうた」(09年)、「永遠の0」(13年)、八木竜一監督との共同監督作「friends もののけ島のナキ」(11年)、「STAND BY MEドラえもん」(14年)などがある。

 (インタビュー・文・撮影:細田尚子)

写真を見る全 5 枚

映画 最新記事