生まれつき目と耳が不自由な少女と、不治の病を抱えた修道女との魂の交流を描いた映画「奇跡のひと マリーとマルグリット」が公開されている。三重苦の少女と支えた教育者といえば、ヘレン・ケラー(1880~1968)と「サリバン先生」ことアン・サリバン(1866~1936)がよく知られているが、今作は、そのヘレン・ケラーと同時代を生きたマリー・ウルタン(1885~1921)の物語だ。マリーを演じたのは、自身も聴覚にハンディキャップを持つアリアーナ・リボアールさん。演技の経験は一切なく、今作のジャン・ピエール・アメリス監督によって見いだされた。映画の前半では、教育を一切受けてこなかったために野生児のような振る舞いを見せるマリーを全身で表現し、イザベル・カレさん演じる修道女マルグリットと出会い、言葉を“知って”からは、愛らしく、生き生きとした表情を見せる。映画のPRのために4月に来日したリボアールさんに話を聞いた。
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こちらからの問いかけに、手話で即答するリボアールさんは現在20歳。髪をシニョンでまとめ、白いシャツに黒のスパッツという軽快な服装の彼女は、映画のマリーとはまるで違う現代っ子だ。マリーが、物語の舞台となる実在するラルネイ聖母学院に連れてこられたのは今から100年以上も前。アリアーナさんは「修道院の女性たちがつましく暮らしているのは、今もあまり変わらないと思います」と話す一方で、「私が演じたマリーは、映画の最初ではボロボロの服を着ている設定でした。そのボロさに驚きましたが(笑い)、後半、きれいな制服を着ることができて、ほっとしました。やっぱり、きれいな衣装の方がいいですね」と女の子らしさをのぞかせる。
役作りのために、ラルネイ聖母学院を訪れ、院長先生やほかの先生たちから話を聞いたり、実際にそこで暮らしている盲ろうの人と会うなどしたという。また、今作の構想に7年をかけ、ウルタンさんの91歳のおいから話を聞くなど多くの事前リサーチをした監督からも、ウルタンさんのことを聞いたそうだ。
「私自身、ろう者でマリーとは近しい部分があるので(演じることは)それほど難しくなかった」と打ち明ける一方で、盲目の演技は「最初はどうしても自然に見てしまうので難しかった。でも、じきに慣れていきました」と振り返る。そして、「私自身、思ったことが顔に出てしまう方なんです。でも、映画のはじめの方のマリーは、あまり表情が豊かでない方がいいので、アメリス監督からは、もう少し感情を抑えてくれと言われた」ことを明かし、その代わり、怒りを表現するシーンではリボアールさん自身、「その表現は得意なので、簡単に演じることができました」と笑顔で話す。
もともと女優に憧れていたわけではない。「映画に出るまではろう者の手話通訳の仕事をしようと考えていた」という。現在は、「大学に入ったら何を勉強しようかと考えているところなので、これからどうするかを思案中」だという。それでも、今回の経験を通して、「将来的にいいオファーがあれば続けていきたい」と、女優の道も選択肢にあることをほのめかした。
ヒップホップ系のファッションが好きで、フランスの女性ラッパー、Diam’s(ディアムス)さんのファンというリボアールさん。また、「ラグビー以外のスポーツ全般、特にサッカーが大好き」と話す。憧れの女優としてマーリー・マトリンさん、エマニュエル・ラボリさん、そして、今作にも出演しているノエミ・シャーロットさんの名を挙げ、好きな映画には、真っ先にアメリカ映画「ダイバージェント」(2014年)のタイトルを出し、それがいかに面白いかを語り始めた。
その勢いに便乗し、今回の映画についてメッセージを求めると、「宣伝するのね?(笑い)」とちゃめっ気を見せ、日本版のポスターを見ながら、「フランスのポスターでは、(マリーとマルグリットの)2人が草原で寝転がっていて、どういう内容かがなかなか伝わりにくいのですが、これは2人の女性が話し合っているみたいで、こちらの方が観客を映画館に呼ぶことができそうですね。きっと気に入ると思うので見てください」とアピールした。そして、「自分とは違う相手のことを理解することで、いろんなことがうまくいくと思います。マリーはマルグリットという人と出会って人生が変わりました。そんなふうに相手を受け入れ、コミュニケーションすることで、人生は変わっていくというところを見てほしいです」と締めくくった。映画は6日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほか全国で順次公開。
<プロフィル>
1995年、フランス・オーべルニュ生まれ。聴覚に障害があり、サボア地方にある国立ろう学校の寄宿生で、バカロレア(大学入学資格)を取得している。今回のマリー・ウルタン役の少女を探すために聴覚障害者のいる学院をいくつも訪れたジャン・ピエール・アメリス監督によって見いだされた。
(インタビュー・文・撮影:りんたいこ)
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