Kiroroの玉城千春さんと金城綾乃さん、HYの仲宗根泉さんという沖縄出身のママさんアーティスト3人で結成したユニット「さんご」が歌う「いのちのリレー」が“泣ける”と話題だ。同曲について、またユニットについて、3人に話を聞いた。
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――どういう経緯で「さんご」というユニットをやることに?
玉城千春さん:NHK沖縄の戦後70年テーマソングを作るということで、沖縄出身で母親でもある私たちに、母親の目線も含めて曲を作ってみませんかとお話をいただきました。それで母親であることから、「産後」と「珊瑚」をかけて、「さんご」と付けました。
――楽曲「いのちのリレー」は、タイトルの通り命というものがテーマになっていますね。
仲宗根泉さん:戦後70年だからと、あまり戦争を前面に出しすぎると重くなってしまうので、子どもに対する愛、そこには必然的に命というものがあり、戦争でもたくさんの方が命を落とされていて、その方たちのお陰で今がある、ということにスポットを当てて作っていきました。
――東京にいると戦争のことをリアルに感じることは少ないですが、沖縄は今でも戦争の傷あとが身近で、だからこそ書ける曲なのでしょうね。
玉城さん:私たちもそうでしたけど、沖縄の子どもたちは、小さい頃から「平和学習」という授業があって。そこで戦争の歴史とか、大切なことを必ず学ぶんです。
金城綾乃さん:「慰霊の日」というのもあって、その日は学校もお休みにして、そういうことをちゃんと考えようって。そういう意味でも、意識が高いと思いますね。
――ちゃんと伝えて残していくという部分では、使命感も感じながら作っていったのでしょうか。
玉城さん:最初は、その使命感に押しつぶされそうになって。母親としてということと、平和を歌わなければならないわけで。最初は3人とも、どうしよう? どうしよう? って。何度も3人で話をしたんですけど、なかなか難しくて。
仲宗根さん:たとえばHYでは、「時をこえ」という曲がありますが、あれは命の大切さをテーマにして、おじいとおばあから聞いた戦争の話をベースにして書いた曲でした。でも今回は、その戦争とか平和というテーマに加えて、母親という目線を入れなくてはいけなかったので、その二つを一つの歌詞にすることが、とても難しかったんです。一方では、すごく大きな包み込むような愛があり、一方ではすごく悲しい愛だったりするので、その点と点を結びつけるのが大変で。
――それを乗り越える、きっかけがあったんですよね。
仲宗根さん:はい。HYが「SKY FES」というイベントを開催していて、それは子どもたちが主役みたいなイベントなのですが、2014年に私の母校のうるま市立川崎小学校の子どもたちが「時をこえ」を歌ってくれて、そのときに子どもたちが詠んだ詩がヒントになりました。
金城さん:戦争のイメージを大人の頭で解釈すると、いろんな方向が見えて、どんなテンションでこの言葉を表現したらいいかとか、考えすぎてしまって。何が正解か分からずに行き詰まっていたところがあったんです。そこで、その子どもたちの詩を見たとき、とてもストレートに思いが込められていることに、衝撃を受けました。それで、私たちも逃げずに、もっと気持ちをダイレクトに伝えることをしてもいいんじゃないかと。そこから、どんどん曲が出来上がっていきました。
玉城さん:子どもって、本当にストレートなんです。大人はいろんなことを考えすぎて、自分の声で発信することが怖くなったりするんですよね。でも、子どもたちの純粋さや真っすぐさに感動して、自分たちもたくさん気づかされました。それで、ごまかさずに命というものをまっすぐに伝えようと。
――子どもたちに背中を押されたということですね。「いのちのリレー」には、実際に那覇市立天久小学校の合唱部の子どもたちが参加していますね。
仲宗根さん:作っているときから、こういうふうなコーラスで、こういうふうに歌ってほしいと浮かんでいて。曲の中に子どもたちの声が入っていることが、自然だと思える曲だったんです。それで、子どもたちが緊張しないようにと、彼らが普段から練習している学校の音楽室でレコーディングしました。
金城さん:子どもが笑顔で思い切り歌えることが、平和の象徴だと思います。それも含めて、子どもたちの自然体の元気さが、一緒に込められたと思いますね。
――「いのちのリレー」を伝えたい相手は?
玉城さん:誰とかよりも、リレーとある通り、人から人へ受け継いでもらって、どんどん広がってほしいですよね。
仲宗根さん:誰にとかどういうふうに聴いてほしいとかはなくて。年齢問わず、たくさんの人に聴いてほしい。この歌は、実際に母親である私たちが、母親という目線で書いた曲です。もちろん戦後70年という意味合いも含めてはいますけど、戦争って怖いんだよという歌ではなく、大きな愛の歌なんです。だから、子どもたちが聴いた時、自分の命は勝手に生まれて育ってるわけじゃないとか、お父さん、お母さんに感謝して生きていきたいとか、そういうふうに聴いてくれたらうれしいです。
ーー周りのお母さんたちや、お子さんたちは、この歌を聴いてどんな反応ですか。
玉城さん:反響は、たくさんあります。今ある当たり前のことが幸せなんだなとか、子どもたちと一緒に歌っていけたらいいなとか。うちの子は、女の子2人がパート分けしてよく歌っていますよ。一番下の子は5歳ですけど、聴いて泣いてました。車に乗ってる時にこの曲を流していて、後ろが静かだなと思ってのぞいたら目をこすってたので、「泣いてるの?」って聞いたら、「こっち見ないで!」って(笑い)。歌詞の意味が分かってるのかまでは分からないけれど、泣いてるのを見られるのが、恥ずかしかったみたいです。
仲宗根さん:私の友達は、するめみたいな曲だねって言ってくれましたね。かめばかむほど味が出るみたいに、聴けば聴くほど気持ちが伝わるって。うちは2歳なので、意味とかは分かってないけど、頑張って一緒に歌ってくれていますよ。
金城さん:子どもたち自身が、自分たちの命は大切なんだ、自分たちだけのものじゃないんだとか……子どもなりに、きっと何かを感じてくれてると思います。だから聴いてくださる皆さんも、この曲をきっかけに家族で話し合ったり、日常の生活に対する感謝の気持ちが生まれたりしたら、それがおのずと平和につながっていくと思うんです。
ーーママさんアーティストのユニットということで、何か子育てのことで相談をしたりされるのですか。
仲宗根さん:よく聞かれるんですけど、それが意外とないんですよ。3人のときは、あまり子どもの話はしないかも。
金城さん:確かにそう。Kiroroでそういう話をすることはあっても、3人のときはないね。
玉城さん:3人のときは、いず(仲宗根)の話ばっかりしてます。いずが、とにかく面白いから(笑い)。
仲宗根さん:HYはみんな男だから、女の子の話は分からないじゃないですか。どっちかって言ったら、あいつらは小学生の男の子みたいなものですから(笑い)。さんごは同性同士だからすごく楽しくて、ついつい仕事を忘れてしゃべっちゃうんです(笑い)。
金城さん:楽しいから、悩み事相談みたいなテンションにもならないですね。もちろん子育てで悩みがないわけではないけど、それは日々のことなので、一個一個向き合っていけば、おのずと解決できると思っているので。
ーーでも、子育てと音楽活動の両立は大変ではないですか?
金城さん:大変じゃないと言ったらうそになるけど、すべてのことに意味があるという気持ちでいるし、こういう場をいただけていることにも、感謝の気持ちがあります。子育てしながら音楽活動をやっているからこそ、それぞれがとても貴重で大切な時間だと感じられるし。相乗効果っていうか。仕事が終わって家に帰って、子どもの顔を見たときの、喜びがすごく大きくなります!
ーーさんごとして、今後も活動を継続する予定ですか。
玉城さん:今のところ考えていないですけど。
仲宗根さん:いや、やりますよ。だから、仕事ください(笑い)。私はHYと並行して頑張るし、最悪、私がKiroroに入って3人組で活動するのでもいいです(笑い)。そのくらい2人のことが、好きなんです。さんごに骨を埋める覚悟でいます!!
金城さん:ほんとに? すごいな~(笑い)。
玉城さん:でも、ありがとうね!
<プロフィル>
NHK沖縄の戦後70年テーマソングのために、Kiroroの玉城千春さんと金城綾乃さん、HYの仲宗根泉さんで結成。「いのちのリレー」は、3人が共同で作詞作曲を手掛け、編曲を亀田誠治さんが担当。今後さまざまな番組に出演し歌を披露していく。6月20日にBS TBS「サウンド・イン“エス”」に出演。その他、NHK総合「とっておきサンデー」、NHK FM「ミュージックライン」などに出演。
(取材・文・撮影/榑林史章)