直木賞作家の桜木紫乃さんの小説を映画化した「起終点駅 ターミナル」(篠原哲雄監督)が7日から公開される。北海道釧路市を舞台に、つらい過去を引きずる男が一人の女性との出会いによって再生していくさまをしみじみと描き出した。佐藤浩市さんと本田翼さんが今作で初共演。
ウナギノボリ
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北海道で裁判官だった鷲田完治(佐藤さん)は、学生時代の恋人・結城冴子(尾野真千子さん)の裁判に立ち会い、その後、冴子のスナックに通うようになり、東京の妻子の元に帰らず北海道にとどまる決心をしていた。しかしその矢先、冴子を失ってしまう。25年後、自分への十字架を背負った完治は、国選弁護人として釧路でひっそりと暮らしていた。ある日、弁護を担当した椎名敦子(本田さん)が完治の家へやって来る。さらに、何年も会っていなかった息子から大切な手紙が届いて……という展開。
佐藤さんの芝居に酔わされる。主人公は自分を責めて、人との関係を絶って生きてきた初老の男。ヨレヨレのスウェットを着て、古い平屋の家に住む姿は、男がこの地に懺悔のつもりで住んだ25年の歳月を感じさせる。年季の入った台所で手際よく料理を作る男。市場で鶏肉を買うのが日課らしい。ザンギと呼ばれるから揚げを自分で料理するのだ。地味な生活ながらも、男の一人暮らしをそこそこ楽しんでいる風情がほほえましい。そんな彼の暮らしに、違ったリズムが加わる。現れた若い女性は、男の胸に過去の思い出をよぎらせる。彼女のペースにはまりながら、止まっていた時間が動き出す。つらいはずの過去は、気づけば懐かしい痛みに変わっていく。おいしそうにザンギを頬張り、あっけらかんとして見える彼女にもまた、つらい過去があった。前半は男の過去、後半は女の過去が明らかにされていく構成が絶妙だ。せりふがしゃべり過ぎず、言葉が胸にすんなり入ってくる。本田さんの役柄も新鮮。「深呼吸の必要」(2004年)、「山桜」(08年)などを手がけた篠原監督の作品。風景の中に情感を込めるのがうまい。繰り返し出てくる市場の雑踏、作品を象徴する釧路駅……すべてが心にしみ入ってくる。丸の内TOEI(東京都中央区)ほかで7日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今作に出てくるたっぷりのイクラは、イクラ好きのツボでもあり、泣けるシーンでした。
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