押井守監督:構想15年「ガルム・ウォーズ」の制作秘話語る 劇場版アニメの難しさも

最新作「ガルム・ウォーズ」の製作エピソードを語る押井守監督
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最新作「ガルム・ウォーズ」の製作エピソードを語る押井守監督

 押井守監督の最新作「ガルム・ウォーズ」が20日に公開される。構想は約15年に及び、外国人俳優を起用してカナダで撮影されたことやアニメの手法で作られた美しいビジュアルなどが話題になっている。最近は「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」や「東京無国籍少女」など実写映画の制作も多く、「頭がやっと実写の現場に慣れてきた」という押井監督に、映画制作の現状や最新作の制作エピソードなどを聞いた。

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 ◇重視したのは衣装へのこだわり 「今までとはケタ違いにお金がかかった」

 「ガルム・ウォーズ」は、外国人俳優を起用してカナダで撮影。戦いの星・アンヌンを舞台に、空の部族・コルンバの女性飛行士・カラ、陸の部族・ブリガの兵士・スケリグ、情報操作にたけた部族・クムタクの老人・ウィドが、クローン戦士・ガルムの真実を探る旅に出る姿を描く。日本語版プロデューサーとしてスタジオジブリの鈴木敏夫さんが参加し、「魔法少女まどか☆マギカ」などを手がけた虚淵玄(うろぶち・げん)さんが宣伝コピーを手がけている。

 映画の構想は約15年にも及ぶ。公開をいよいよ直前に控えた押井監督は「完成してから1年半ぐらいたつので、力が抜けちゃった」と笑いつつも、「これでようやく一区切りつく」と安堵(あんど)の表情を浮かべる。「準備も企画も、公開までの道のりも長かった。こんなに長く関わった企画って他にない。撮影が相当昔のような気がする」と感慨深げに語る。

 幻想的な美しいビジュアルが話題の今作。押井監督は「ファンタジーなので、ビジュアルで見せなきゃいけない」と説明し、特にこだわったのは衣装だと語る。「戦闘シーンとかメカニック以前に、登場人物をいかに印象的に、魅力的に見せるか。(そのために)衣装は一番大事だと思う」と押井監督。「日常の服ではもちろんダメ。架空の世界の、彼らにとってごく自然な服で、なおかつ視覚的に凝っていること」とポイントを説明し、「今回は特殊なスーツなのでかなり難しかった。二転三転した」と苦労をのぞかせる。

 衣装へのこだわりは、映画という非日常な世界をより楽しめるようにするために欠かせない、と押井監督は見る。「なぜお金を払って映画を見るかというと、(お客様は)リッチな体験をしたいから。日常では見られないリッチな世界を見たがっている」と押井監督は語る。難しいのは、時間や予算など多くの制約の中で、それを実現させること。押井監督は「重点主義にならざるを得ない。どこに予算が集中していくか、そこが難しいところ」といい、今回は「真っ先に考えたのが、『衣装を頑張ろう』ということ」と明かす。「今作は、今までとはケタが違うぐらい衣装に時間とお金がかかっている。ある意味では堪能しました。本当はもっと作りたかったんだけど(笑い)」と充実した表情で語る。

 今作では、映画「GANTZ」などの衣装で知られる竹田団吾さんを衣装デザイナーに迎えたことも大きかった。「この人と出会ってなかったらたぶん衣装全般できなかったな、と思う」というほど、今作で重要な役割を担った。「竹田団吾という衣装デザイナーに存分に仕事してほしいと考えて、カナダに来てもらい、撮影期間中はずっと付き合ってもらった。この経験は大きかったと思う」と押井監督は実感を込める。

 ◇「やっと実写に慣れてきた」

 ところで、最新作含め、最近では実写映画のメガホンをとることが多い押井監督だが、そこにはどのような心境の変化があったのだろうか。押井監督は「頭がやっと実写の現場に慣れてきたというか、映画脳になったというか。最近は、撮影していても自在感を感じるようになった。役者さんとの距離感も分かるようになり、どんな役者さんとも付き合えるようになった」と変化を語る。

 ただ、映画制作を取り巻く環境については、「昔と今ではだいぶ様相が異なる」と押井監督は指摘する。「アニメ監督をやめる気は全然ないんだけど、アニメを撮る機会が激減している」といい、「映画を作るのは難しくなった。10年ぐらい前までは、お金さえあればすぐ映画が作れた。今は全然できない。種も仕掛けも作らないと制作までたどり着かない。映画監督って仕事が難しくなったなって思う」と語る。

 また、見る環境についても変化は激しい。押井監督は「映画を見る機会や場が、生活の中でどんどん変わっている。事前に予約していないと見られなくなってきている。ずいぶん見る環境って変わったんだなって思った。自分の映画もどこでどう見られているのか、全然分からない。難しくなったなって思います」と現状への思いを打ち明ける。

 とはいえ、映画制作への情熱が減退しているわけではない。最新作でもこだわりを貫いた、“特殊スーツ”を扱う映画への意欲はなお盛んだ。「特殊スーツを扱う映画に関しては、日本の監督で自分ほどやった人間はいないだろう、と。まさか自分がそういう監督になるとは夢にも思わなかったけれど、やってみたら面白くてやめられなくなった。ヨーロッパの文芸画的な高邁(こうまい)な世界を目指していたはずなのに、気づいたらものすごくいかがわしい監督になっちゃった(笑い)」と冗談めかして語りつつ、「人工的に一つの世界を作り上げていく楽しさって、映画監督を生業にしていてもめったにある機会じゃない」と押井監督。「自分の本質って、仕事してみなきゃ分からない。今は、こういうことをやってさえいれば幸せだと思っていて。絶えず(映画制作の)チャンスを伺っています」と意欲的に語ってくれた。

 <プロフィル>

 おしい・まもる。東京学芸大学教育学部卒業後、タツノコプロダクションに入社、テレビアニメ「一発貫太くん」(1977年)で演出家デビュー。スタジオぴえろに移籍し、「うる星やつら」ほか、数々の作品に参加。同シリーズの劇場版「うる星やつら オンリー・ユー」(83年)で初監督を務める。フリー後はテレビアニメシリーズ「機動警察パトレイバー」や「劇場版 機動警察パトレイバー」(89年)などで監督を務めている。最近の主な監督作は「機動警察パトレイバー」シリーズの実写化プロジェクトの劇場版長編「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」(2015年)、「東京無国籍少女」(15年)など。

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