女優の大竹しのぶさんが主演した映画「後妻業の女」(鶴橋康夫監督)が27日に公開された。後妻業とは、資産家の財産を狙って後妻に入り詐欺を働く犯罪のことで、その“後妻業の女”武内小夜子を、大竹さんが演じている。小夜子を裏で操る結婚相談所所長の柏木亨に豊川悦司さんが扮(ふん)し、そのほか、笑福亭鶴瓶さん、津川雅彦さん、永瀬正敏さんらが出演している。お金のためなら詐欺どころか殺人まで犯す小夜子という女性を、「共感しないまでも、前向きな生き方はすごいと思う」と感心する大竹さんに、映画の見どころや共演者、役作りなどについて聞いた。
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直木賞作家、黒川博行さんの原作小説は、映画化を知る以前にすでに書店で購入し読んでいたという大竹さん。読みながら、「これはきっと映画になるんだろうな」と思ったというが、「まさか自分のところに(オファーが)来るとは思ってもいませんでした」と振り返る。
原作は、小夜子と柏木の狡猾(こうかつ)かつ無情な手口が書き込まれ、大竹さんいわく「映画よりもうちょっとハードな内容」だったという。それが、鶴橋監督の脚色によって「独特のユーモアがある世界」になり、小夜子の人物像も「ちょっとワルだけど笑える女性になっていて、演じていてすごく面白かった」と話す。
もっとも、鶴橋監督は、原作を読みながら小夜子に大竹さんを重ね合わせていたそうで、それについては、「(大竹さん以外の)ほかには考えられないと言われると、うれしいのか悲しいのか分からない(笑い)」と複雑な心境をのぞかせつつ、「でも、人間のいろんな部分を表現するのが役者だから、やっぱりうれしいですね」と笑顔を見せる。
映画での小夜子は63歳。早くに夫を亡くし、好きなことは読書と夜空を見上げること。自称「尽くすタイプの女」だが、まんまと相手をだまし、後妻の座に納まるや態度をひょう変させる。その性悪ぶりは、小夜子を陰で操る柏木ですら「化け物」と表現するほどだ。
そんな小夜子を大竹さんは、「共感こそしませんが、何があっても自分が不幸せになるはずがない、みたいな前向きな生き方はすごいなと思います。あんたたち子供が親の面倒をみるのが当たり前。それを私がやってあげて、ちょっとはいい思いをしたでしょうと、悪いことをやっているなんて一つも思っていない。もちろん、殺人はいけないけれど、そういう分かりやすい考え方というのは説得力があって、それでお金をもらうだけなら許されちゃうような錯覚に陥るぐらいにバイタリティーがある」と、演じながら面白さを感じていたようだ。
その一方で、関西弁には苦労した。「イントネーションが難しくて、なんとなくは普段の生活で、お笑いの人の関西弁を聞いてはいましたが、それこそ、“えせ関西弁”として耳に残っている部分もあるので、一つ一つイントネーションを直されながら関西の人が聞いて嫌な気持ちにならないように」と心掛けたという。
鶴橋監督からは「とにかくチャーミングでいてくれと最初に言われた」といい、「あとは、豊川さんとのコンビがすごく楽しかったので、現場から生まれてくる空気というものを大事にしました」と振り返る。その柏木役の豊川さんとは、故・新藤兼人監督の作品「石内尋常高等小学校 花は散れども」(2008年)と「一枚のハガキ」(10年)で共演しており、気心が知れた仲だ。
柏木と小夜子の関係を、大竹さんは「小夜子は柏木のことがちょっと好きで、本当は彼と一緒になれれば一番うれしいけれど、それを言ってしまったらパートナーとして仕事が成り立たないから我慢しているという感じでしょうか。柏木も小夜子のことを、この女は面白いし、ちょっと手放せないぞとどこかで思っている」と分析。そういった「台本には書かれていない不思議な空気感」は、日ごろから信頼し合っている豊川さんとの間で「せりふを言っている間に自然と生まれた」といい、気負わずに演じられたようだ。
半面、ちょっと戸惑ったのは、笑福亭鶴瓶さんとのシーンだとか。鶴瓶さんは、小夜子にだまされる資産家の一人を演じており、ベッドシーンもある。「プライベートで仲よくさせていただいているから、ちょっと想像がつかなかったですし、お芝居でのお仕事は初めてだったので最初は笑っちゃいそうでした。でも、我慢して……(笑い)」なんとか切り抜けという。
1975年のデビュー以来、これまでさまざまな役を演じてきた大竹さんだが、演じるときには「どこかで、(演じる自分を)冷静に見ている自分がいる」と話す。「バミリ(立ち位置などを示す目印)があったりしますから。それは、どんな役でも、どんなシーンでも同じです。ただそれは、3%か4%ぐらいで、あとは、その役になりきり自由自在に動いている自分がいて、何をするか分からない、みたいな感覚ですね」と、具体的な数字を挙げながら説明する。
さらに、その感覚は「瞬発的なもの」で、「『瞬間芸』と、昔よくいわれていました(笑い)。もちろん、基本的な『無意識の計算』というのはありますが、何を感じ、それがどういう形になって表れるかというのは、本番になってみないと分からない部分もあります」と補足する。
それは今作でも同様で、小夜子の毒牙にかかる津川さん演じる中瀬耕三の娘で、尾野真千子さん演じる朋美と焼き肉屋でけんかをするシーンも、ここで肉を投げる、ここで取っ組み合いをするなど、ある程度の段取りは決まっていたが、殴る回数やののしる言葉は決めないで進めていったという。
「本気で殴ってましたね。ビンタも入っちゃったし、髪の毛を引っ張ったりもしました。事前に関西弁のなじる言葉を聞いておいて、アドリブで出るように備えて本番に臨みました。みんなドキドキして、スタッフ全員が、よし、本番に賭ける! みたいな気合の中でカメラが回って、結果は、一発でオーケーでした。すごく楽しかったですし、気持ちよかったですね」と満面の笑みで撮影を振り返る。
ほかにも、「あまり大きいとつまらないからと、こんなのに入らないだろうと思うぐらい」の小さめのスーツケースの中に入ったり、鶴橋監督が「岩船進一」名で作詞した主題歌「さよなら、またね。」を、「小夜子に出会った男の人たちが、あの子どうしているかな、というポッとした思い出、人生にそういう時間があったというだけでもすてきだな、なんて思いながら」歌ったりしたという大竹さん。
身内に小夜子のような女性がいたら「絶対、嫌だと思う(笑い)」と言い切る一方で、「すごくひどい話なんですけど笑えるし、映画を見ながら、化け物のような小夜子と柏木コンビを楽しんで、あとでよく考えたら……という恐怖を味わってほしいです(笑い)」とアピールした。映画は27日から全国で公開。
<プロフィル>
1957年生まれ、東京都出身。75年、「青春の門-筑豊編-」で本格的に女優デビュー。同年、NHK連続テレビ小説「水色の時」で国民的ヒロインとなる。以降、映画や舞台、ドラマ、音楽など多方面で才能を発揮している。主な映画出演作に「あゝ野麦峠」(79年)、「鉄道員(ぽっぽや)」(99年)、「阿修羅のごとく」(2003年)、「オカンの嫁入り」(10年)、「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」(13年)、「悼む人」「海街diary」「ギャラクシー街道」(いずれも15年)など。今後、映画「真田十勇士」は9月に公開を、舞台「三婆」は11月に公演を控えている。初めてはまったポップカルチャーは、「怪盗ルパン」の小説。小学校3年生くらいのときに図書館で全巻を借り、夢中で読んだという。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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