シンガー・ソングライターの秦基博さんが、デビュー10周年記念ベストアルバム「All Time Best ハタモトヒロ」を14日にリリースした。デビュー曲「シンクロ」からの全シングルを網羅した全26曲入りと、「ひまわりの約束」(3DCG劇場版アニメ「STAND BY ME ドラえもん」主題歌)、「Girl」(読売テレビ・日本テレビ系連続ドラマ「恋がヘタでも生きてます」主題歌)、ボーナストラック「Rain」(2013年公開の新海誠監督の劇場版アニメ「言の葉の庭」エンディングテーマ)などをセレクトした全15曲入り「初回限定はじめまして盤」の2タイプをそろえ、幅広い層が楽しめるような収録内容になっている。「あっという間で気づけば10年」と振り返る秦さんに、自身の音楽ルーツや曲作りのエピソード、10年間の思い出などを聞いた。
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――音楽に目覚めたきっかけは?
12、3歳のころ、兄がモーリスのアコースティックギターを3000円ぐらいで友達から譲ってもらってきて、それを弾き始めたのが最初。兄が長渕剛さんが好きだったので、長渕さんのCDや弾き語りのギターの本が家にあって、それを見て覚えて。あとはMr.Children、エレファントカシマシ、ウルフルズとかの音楽をコピーしたり、コードを四つぐらい覚えたらもう曲も書いてました。最初に作った曲はラブソングでしたね。でも“当時好きだった女の子に向けた”とかじゃなくて、“歌はこんな感じ”というイメージで書いていた気がします。18歳ぐらいで横浜のライブハウスに出るようになってからは、気づけばもう「将来ミュージシャンになろう」という確固たる意志が芽生えていました。
――秦さんはデビュー時に「鋼と硝子でできた声」というキャッチコピーが付いていたそうですね。
うちの事務所のオフィスオーガスタの(アーティストの)皆さん、キャッチコピーがあるんですよ。山崎まさよしさんもあるし。それで自然と僕にも付いてました。チラシみたいなものに「鋼と硝子でできた声」って入っていて、「あっ、そうなんだ」って(笑い)。でも、自分の声質をうまく言い当てているなとは思いました。ちょっと強い部分とハスキーな部分と両方あると思うので、二つの対比は面白いなって。
――今回のベスト盤の中で、印象深い楽曲や曲にまつわる思い出は?
デビュー曲「シンクロ」は、全国のFMラジオから、当時の日本記録ぐらいたくさん(43局)のパワープレー(ヘビーローテーション)をいただいて、ごあいさつがてら各局に行かせてもらって、4泊5日で九州を回るとか、福岡に行ってその後に札幌に行くとか。自分は宮崎県で生まれて、8歳から横浜で育って、それ以外はそんなに全国各地に行ってたわけじゃなかったので、例えば「あっ、お城があるな。地元の街にお城があるってこういう感覚なんだな」とか、自分の音楽の先にいる人がどんな暮らしの中にいるのかということを体感できたのは、すごく貴重な経験だったな、と。旅先では、各地、おいしいものでおもてなししていただきましたけど、金沢の寒ブリはホントにおいしくてびっくりしました。いまだに衝撃的です。
――転機になったと思う楽曲はありますか。
一つは「アイ」ですね。デビューして4年ぐらいたって、普遍的な大きな愛情というテーマを自分の表現で作れないかな、というところでトライした楽曲だったんですけど、それがちゃんと形にできた気がして、一つ自信になりました。「アイ」は、愛情の「愛」はもちろん、「I am」の「I」、孤独を感じていた主人公が、出会いによって何かを知っていくという「出会い」の「会い」だったり、歌い出しの「目に見えないからアイなんて信じない……」の「目(eye)」だったり。タイトルをカタカナにすることで、その意味を全部込められたらいいなと思いました。
――ラブソングなどは、ご自身の体験がモチーフになっていることはあるんですか。
体験したことをそのまま曲にするというのはあんまりないですね。結構、体験と物語が混ざっているんです。例えば「ひまわりの約束」を「STAND BY MEドラえもん」のために書くときに、ドラえもんとのび太はどんな関係なのかなって考えて書き始めるわけですけれど、「自分にとってこういう関係ってどういう人だろう。中学、高校のときの友達ってどんな関係性だったかな」とか、自分に照らし合わせて書いていったりはするので、いろんなものが混ざっている気はしますね。
――「ひまわりの約束」は発売の14年以来、カラオケのリクエストランキングで上位をキープしています。「カラオケで歌われているな」とご自身で実感することは?
そんなに頻繁にではないですけど、ときどきカラオケに行くと、「『ひまわりの約束』とか自分の曲、歌ってくれたかな」って履歴をひと通りチェックして(自分の曲を見つけると)、「歌ってくれてるー」とかって喜んでいます(笑い)。それは楽しみの一つです。僕は、ウルフルズさんとか、高校生ぐらいのときに聴いていた曲(を歌うこと)が多いですね。
――「ひまわりの約束」を作ったとき、カラオケで歌いやすい曲という意識はされたんですか。
全然してないです。他の今までの曲と何ら変わりなく、自分が思ういいメロディーを書こうと思って作ったので、お子さんも歌える、ということはメロディーうんぬんもあるかもしれないけれど、曲がどんなふうに伝わっていったかっていうことの方が歌ってもらえるきっかけにつながるんだな、とは思いました。
――ちなみに、この10年の間に曲が書けなくなったりしたことは?
ないですね。でも生みの苦しみは常にあって、メロディーはそこまで悩まないですけど、歌詞は特に悩みますね。制作部屋、喫茶店、移動中……いろいろやります。いったんやっていることをやめて、別のことに意識がいった瞬間に浮かぶ、みたいなことは結構ありますね。さんざんやって煮詰まって、「できないな」って言って寝て、起きたらできるとか、「じゃあお風呂入ろうかな」って言ってシャンプーしてたら浮かぶとか、トイレに行ったらできるとか、運転しているときとか。歩いていると足の裏が脳を刺激してできるって聞いたことがあって、公園をぐるぐる歩いて全くできなかったことはありますけどね(笑い)。
――なるほど。それでは、今後の抱負やさらなる展望を聞かせてください。
目の前の曲やアルバムのことを考えていたら10年たっていたので、もしかなうなら、次の10年も「音楽のことを考えてたらまた10年たっていた」って言えたらいいなとは思うんですけれど。それはやっぱり聴いてくれる方あってのことなので、自分の表現をきっちりやって届けていくという、その繰り返しなのかなと思います。音楽を好きでやっていることは変わらないと思うし、自分自身も音楽の楽しさを味わいながら、いろんな表現に挑んでいけたらいいなと思いますね。
<プロフィル>
はた・もとひろ 1980年10月11日、宮崎県生まれ、横浜市育ち。2006年にシングル「シンクロ」でデビュー。14年、3DCG劇場版アニメ「STAND BY ME ドラえもん」主題歌として書き下ろした「ひまわりの約束」をシングルリリースし、ロングヒットを記録。秦さんがかつて実践していたのが「ライブ前におにぎりを2個食べること」。「それもしゃけと昆布。でも3、4年の間でしたね。その後に打ち上げでいっぱい食べるし、ライブ前におにぎり2個も食べていられないと思って。ライブ中にノドにいいお茶がほしいっていう時期もあったんですけれど、『これがないとライブができない』という精神状態が嫌だなと思ったときがあって、5年目ぐらいで1回、全部なくしました。今は(決め事として実践していることは)ないです」と話した。
(インタビュー・文・撮影:水白京)