山田杏奈&押切蓮介:映画「ミスミソウ」製作エピソードと原作の誕生秘話 押切作品を貫くテーマとは…

映画「ミスミソウ」で主演を務める山田杏奈さん(右)と原作者の押切蓮介さん
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映画「ミスミソウ」で主演を務める山田杏奈さん(右)と原作者の押切蓮介さん

 押切蓮介さんの人気マンガを実写化した女優の山田杏奈さんの主演映画「ミスミソウ」(内藤瑛亮監督)が7日に公開された。壮絶ないじめを受けた転校生・野咲春花が同級生に復讐(ふくしゅう)していく姿を描いた作品で、今作が映画初主演となる山田さんが主人公の野咲春花役を務める。いじめに耐えるはかなげな顔と復讐に燃える顔、二つの顔を持つことになる春花を演じた山田さんに演じた苦労や初主演の心境を、原作の押切さんに原作の誕生秘話や押切作品を貫くテーマなどについて聞いた。

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 ◇実写映画化は「半信半疑だった」(押切)

 「ミスミソウ」は、壮絶ないじめを受けた転校生の春花が、自宅が火事になる事件がきっかけで復讐を誓う……というストーリー。原作は過激な描写とともに濃厚な人間ドラマが描かれていることから“トラウママンガ”の名作として知られる。映画は「ミスミソウ」に加筆した「ミスミソウ 完全版」(双葉社)が原作となる。

 今作が映画初主演となる山田さん。「うれしさもあったけど、やっぱりプレッシャーも感じました」と役が決まったときの心境を振り返る。もともと、バッドエンド系の作品が好きで、原作の「ミスミソウ」も友達に勧められて読んでいたといい、「ああ救われない、と思いました(笑い)」と感想を語る。

 押切作品が実写映画化されるのは今回が初めて。それだけに、実写化については「半信半疑でした」と率直な思いを明かす押切さん。映像化の話は多いが、実現にまで至らないケースがほとんどといい、「これも、どうなんだろうと期待しないようにしていて、撮影中もあまり信じていなかった(笑い)。初めて軽井沢の山中の撮影現場に伺って見学させてもらったら、山田さんたちが血みどろの状態で戦っていたので、それを見て『あ、本当にやっているんだ』と初めて実感が湧きました」と語る。

 ◇春花役は“目力”を意識 

 春花は、物静かで感情の起伏をあまり出さないが、半面、壮絶な復讐を遂げていく一面もある難役。どのように役作りをしていたのか。「はしゃぐ子ではない、という面は、私自身と遠くなかったので、春花のイメージに近づくことはそんなに難しくはなかったです」と山田さん。復讐シーンについては、「感情を出さないで淡々と(復讐を)していくんですが、それがテンポ感につながっていくのかな、と。根底には憎しみがあると思いながらも、あまり感情を出さずに演じていました」と語る。

 特に重視したのは表情だという山田さん。「例えば(相手に)くぎを刺すシーン。春花の目がすごく印象的で、あそこから全部が始まるという感じがあった。私は“目力”と言っていただけることが多いので、ここぞ! と思って、目力を意識して演じました」と話す。試写を見た押切さんは「つらい目に遭って、目の中が闇に包まれているんだろうけど、美しさと麗しさがあって、妖艶さも漂っている。その目力にほれ込みました」と山田さんの“目力”を絶賛。「ギャグ作家としてやっていたときは三白眼の目しか描けなかったんです。ところが、原作を連載していた雑誌は、少女マンガ誌。少女マンガといえば目がキラキラしているだろうと、初めてそこで春花を、黒目がちに描いたんですよ。そのイメージがそのままスクリーンに出てきた印象でした」と熱く魅力を語る。

 そんな山田さんは、主人公の春花が描かれた原作の「完全版」の表紙が好きだといい、「ずっと携帯のロック画面にしていて。春花の可愛らしさも、寂しそうな表情もある。それをずっと目標にして、春花像として作り上げていました」と役作りの一端を明かした。撮影での苦労は「雪の中だったこと」といい、「押切先生が現場に来てくださったときに、『舞台を南国にしておけばよかったね』って(笑い)。でも、あの雪の中で撮影したからこそ、春花たちが味わったであろう閉塞感を少しは感じることができたのかなって。春花役として、つながったのかなと思いました」と振り返る。
 
 ◇押切作品を貫くテーマとは… 「ミスミソウ」誕生秘話も

 原作の「ミスミソウ」の構想は、「雪割草」という花の存在からスタートした、と押切さん。「雪の中から芽が出て、雪解けと同時に花が咲く。これはすてきな花だと思って。花言葉を見ると、信頼、忍耐とある。そういうテーマの人間ドラマをやれればいいかな、と」と説明する。同様の名前のゲームがすでに存在していたことから、別名の「ミスミソウ」に着目したといい、「『ミスミソウ』をグーグルで画像検索したら、そのときは全部青い花が出てきて、きれいで。『よしよし、これを僕の気持ち悪い絵にしてやれ』と、それを目標にしていたんですが。検索すると今ではすっかり僕の絵になってしまい、してやったり」とにやり。

 同作はギャグが一切入らない徹底したホラー描写が印象的だ。押切さんは「作家性を背伸びしようと。『ギャグマンガだけじゃないんだよ』と誇示しようと思って(笑い)」と冗談めかして語る。

 「ミスミソウ」以外にも、「でろでろ」や「ゆうやみ特攻隊」「ハイスコアガール」「ピコピコ少年」など、多彩な作品を発表し続けている押切さん。一見、共通点はないように映るが、作品全体を貫くテーマはあるのだろうか? 「『ハイスコアガール』と『ピコピコ少年』は違うけど、“弱いものが強いものに立ち向かっていく”というのがテーマになっているんです。たとえば、幽霊をぶん殴るマンガ(『でろでろ』)を描いていたんですが、そんなのできるわけねえだろ!という(笑い)。常人が幽霊に立ち向かう、みたいなものが根底にあって、ずっとマンガを描き続けてきたんです。絶対にこんなの勝てるわけねえだろ、という戦いに勝つって、生きるうえで糧になるんじゃないのかな、と」と押切さんは制作の源について語った。

 押切作品といえば、逆転劇も印象的だ。押切さんは「カタルシスがすごく好きなので、復讐劇とか好きなんです。逆転劇とか。『ぐらんば』という作品がありまして、85歳のおばあちゃんが1000匹の巨大な化け物とたった一人で戦うというマンガで、おばあちゃんが竹やりで勝つんです。『ミスミソウ』も同じように、冒頭のシーンで穴に落とされた春花がいじめっ子たちに囲まれる。映画もあのシーンがすごくグッときたんですが、これだけの人間と対峙(たいじ)しないといけない、というあのシーンによって、映画がより引き締まったと思います」と力を込める。

 最後に、それぞれに今後の挑戦について聞いてみると、山田さんは「春花の、両親を殺されことがきっかけで起こる復讐の感情というのは、あそこまでいかなくても理解できる部分はあるので、(清水尋也さんが演じる)相場君みたいに、元からおかしい人をやってみたいですね(笑い)。理解できないような。面白そうだなと思います」と回答。押切さんは「満足すると伸びが止まるので。いろんな作品に挑戦して、頑張っていければ」と前向きに語った。

 <山田杏奈さんのプロフィル>

 やまだ・あんな。2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。「ちゃおガール2011☆オーディション」でグランプリを受賞。映画は「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」(16年)、「咲-Saki-」(17年)などに出演。テレビドラマはNHK大河ドラマ「花燃ゆ」や「アキラとあきら」「スミカスミレ 45歳若返った女」など。「ミスミソウ」の野咲春花役で映画初主演を務める。

 <押切蓮介さんのプロフィル>

 おしきり・れんすけ。1979年生まれ、神奈川県出身。98年にマンガ誌「週刊ヤングマガジン」(講談社)の「マサシ!! うしろだ!!」でデビュー。「でろでろ」「ミスミソウ」「ピコピコ少年」「ゆうやみ特攻隊」「ハイスコアガール」など作品多数。

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