呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変
第36話「鈍刀」
11月14日(木)放送分
人気長寿アニメ「クレヨンしんちゃん」で主人公・野原しんのすけの声を務める声優の矢島晶子さんの降板が発表されたニュースは、アニメファンだけでない多くの人たちに驚きと衝撃を与えた。一方で、長寿アニメのキャスト交代にありがちな“拒絶反応”は比較的薄かったように見受けられた。週に100本以上(再放送含む)のアニメを見ており、もちろん「クレヨンしんちゃん」も毎週視聴している“オタレント”の小新井涼さんが、“炎上”しなかった理由を分析する。
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6月上旬、声優の矢島晶子さんが「クレヨンしんちゃん」の野原しんのすけ役を、6月29日放送回を最後に降板することが発表され、多くの人々に衝撃を与えました。
しかし「クレヨンしんちゃん」のような、誰もが知っている国民的な長寿作品でメイン声優が交代することは、何も今回が初めてのことではありません。「ドラえもん」や「ルパン三世」、「名探偵コナン」や「ちびまる子ちゃん」、「サザエさん」などでも、ここ十数年の間にさまざまな理由からメイン声優の交代が行われてきました。そしてその度に、別れを惜しむ声と共に必ず生じてきたのが、「このキャラは○○さんの声以外認めない!」という、新キャストへの強い拒絶反応です。
ところが今回の発表では、旧キャストとなる矢島さんへの労いや感謝の言葉こそあれ、新キャストを最初から拒絶する声はほとんどありませんでした。それは新キャストとして声優の小林由美子さんの就任が発表された後も変わらず、それどころか放送開始前から既に、小林さんの演じるしんちゃんにも多くの期待が集まっているようなのです。
今回の声優交代に対して、ここまで批判的な反応が少なく、前向きな声が多いのは、いったいなぜなのでしょうか。
まず考えられる理由として、声優交代が“キャスト本人の希望”であったことが挙げられます。今回の降板は、「しんのすけの声を保ち続けることが難しくなった」と、矢島さん自らが申し出たものだと発表されました。つまりそれに反対することは、“矢島さんのしんちゃん”が好きであるにも関わらず、そのご本人の意思を無視して、ある意味続投を無理強いすることに繋がってしまうのです。今回、降板への反対ではなく、別れを惜しみつつも「今までありがとうございました」といった潔い反応が多かったのは、ファンがそうしたご本人の意思を尊重した結果だったのではないでしょうか。
もうひとつの理由は、新キャストである小林由美子さんが持つ“レンジの広い経歴”だと思います。小林さんの声は、「デュエル・マスターズ」シリーズや「ふうせんいぬティニー」といったキッズ、ファミリー向けアニメから、「シスター・プリンセス」や「鬼灯の冷徹」といった男性・女性人気の高い深夜アニメ、そして「おかしなガムボール」や「エクセル・サーガ」といった知る人ぞ知る作品まで、あらゆる作品で既にアニメファンに認知されていました。しんちゃん役就任が発表された際に、「誰だこの人」ではなく「あのキャラの人か!」という声が多かったのもそのためでしょう。「自分が知っているあのキャラを演じていた人」と分かれば、アニメファンの中では小林さんの演じるしんちゃんも何となくイメージできるので、「小林さんのしんちゃん、期待できそう」という前向きな反応に繋がったのではないでしょうか。
ところが、いくら前向きな声が多かったとはいえ、声優交代へのネガティブな反応が完全になくなったわけでもないようです。実際に自分も、新キャストが発表された日に、街で「しんちゃんの声変わるの? ショック。変えるくらいなら(放送)終わってほしい」という会話を耳にして、「そういう感想もあるのか」と、驚いたことがありました。
しかしここで気になったのは、その人の話しぶりが、どうやら今も毎週の放送を見ている視聴者ではなさそうだったことです。あくまでいち個人の印象ですが、これまでも声優交代への拒絶反応を見かけるたびに、リアルでもネットでも、ネガティブな反応をしている人々は、かつてはそのアニメを見ていたけれど、現在は作品視聴を卒業している方が多いように感じていました。
そうだとすると、彼らは単純に新キャストの声を拒絶しているというよりは、声優交代によって、思い出の作品がまるで自分の知らない別の作品になってしまうかのような“寂しさ”から、そうした発言をしているとも考えられないでしょうか。もしかすると、声優交代のたびに起こるネガティブな反応というのは、リアルタイムで作品を視聴している人からの声というよりも、その長寿作品が「既に自分の中で思い出になってしまった人」によるものが多いのかもしれません。
“元視聴者”の数も多い長寿アニメにとって、声優交代へのネガティブな反応が、新キャストの声への違和感というよりも、形を変えた作品へのノスタルジーなのだとすると、今後も完全になくなるということはないのでしょう。ただ、毎週たくさんのアニメを見続けている私としては、納得するのか、別物として捉えるかは個人差があるとは思いますけれど、見続けることで、案外すんなりと受け入れられるんじゃないかなあと感じているのです。
こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。
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