名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
話題のアニメの魅力をクリエーターに聞く「アニメ質問状」。今回は「プロメア」「キルラキル」などを手がけたアニメ制作会社「TRIGGER(トリガー)」が手がけるオリジナルテレビアニメ「BNA ビー・エヌ・エー」です。東宝の武井克弘プロデューサーに、作品の魅力などを語ってもらいました。
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昨年公開され興行収入15億円超えの大ヒットを記録した劇場版アニメ「プロメア」でもおなじみの人気スタジオTRIGGERさんによる最新アニメーションシリーズです。同じくTRIGGER作品である「リトルウィッチアカデミア(LWA)」シリーズを企画、監督された吉成曜さんに再び監督をお願いし、「プロメア」でも脚本を務められていた中島かずきさんをシリーズ構成、脚本にお迎えしました。お二人の初タッグでお届けするオリジナル作品で、“変身獣人アクション”と銘打っています。
我々、人間以外にも獣に変身できる獣人なる者たちが存在する世界で、それは本来であれば後天的にはなり得ない存在なのですが、なぜか例外的に人間からタヌキ獣人になってしまった影森みちるがいて、彼女が獣人の街・アニマシティにやって来る。そこでオオカミ獣人の大神士郎ら個性的な獣人たちと出会い、お互いに影響を与え、変化しながら、シティ全体を巻き込んで“変身”していくというお話です。
この二人のキャラクターがとにかく魅力的で、ビジュアルとしてもカワイイ、カッコイイし、まだまだ未熟だけど行動的でコミュニケーション上手なみちる、めちゃくちゃ強いけど頑固者でコミュニケーション下手な士郎、という凸凹コンビとしても“推せ”ます。まずはキャラクターの魅力からのめり込んでもらい、徐々に作品のテーマを感じ取ってもらえたらうれしいです。
私が思う、吉成監督のここがすてきだなと感じるところを、もっと世の中に知ってもらいたいと思いました。われわれTOHO animationは、吉成監督作品には2015年公開の中編劇場版アニメ「リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード(LWA2)」の配給をお手伝いさせてもらったのをきっかけに、2017年放送のテレビシリーズ「リトルウィッチアカデミア(LWA3)」の企画段階から参加させてもらっています。これは2013年公開の短編劇場版アニメ「リトルウィッチアカデミア(LWA1)」の時からそうなのですが、私が思うに吉成監督は“アニメとは何か”ということを深いところで考えられていて、その考えを作品という形に昇華させるのがとてもお上手なんです。
例えば、「LWA1」という作品は新人アニメーター育成事業の助成を受けていたこともあり、作中の主人公である魔女見習いのアッコたちがそのまま新人アニメーターさんたちの写し絵になっていました。ほかにも、魔法の役割が最新テクノロジーによって代用されてしまうという描写が「LWA3」にはあるのですが、この事態はそのまま作画アニメの行く末を表しているんです。そうなってほしくはないのですが、けれどアニメ業界にとって“紙の弊害”という問題が、思いもよらぬ形で、つまり新型コロナウイルスの影響という形で、今まさに現実の話になっているのも事実で……。
そのまなざしってものすごく批評的だし、自身の思索をオリジナル作品として形にできる才能は非常にまれで、私の中で吉成監督はそういう“映像作家”として確たる存在でした。もちろん、“泣く子も黙るスーパーアニメーター”としての印象も大前提にあるんですけど。ちなみにこれは私の臆測なのですが、「新世紀エヴァンゲリオン」の主力アニメーターのお一人だった吉成さんは、そういう自分の境遇も何もかも全部作品に反映するスタイルを、ひょっとすると庵野秀明監督から学んだのではないか、と妄想しています。
そんな吉成監督と新しい企画を立てるとなったとき、以前に「アニメーションにはメタモルフォーゼの要素が当然に含まれる」という趣旨のことをおっしゃっていたのが頭の中にずっとあって、「じゃあ、『LWA』でも扱っていた“変身”というモチーフを、次回作ではさらに掘り下げてみませんか」と提案したんです。そういうわけで、作画マンとしてアニメを作り続け、監督としてアニメのことを考え続けてきた、“映像作家”としての吉成さんをたくさんの人に知ってもらうこと、というのが第一の目標としてありました。そして、そんな吉成監督とのセッションから生まれたのが、“変身”というテーマです。
それから、TRIGGERの制作プロデューサーである堤尚子さんの存在も重要です。“女性ならではの”という言葉はあまり好きではありませんが、けれど堤さんは観客として作品を見る時もプロデューサーとして作品を作る時も常に「今この世の中で映像は何をすべきか」ということを考えられていて、そういう彼女の物作りを「LWA」の時以上に応援したいと思いました。そもそも堤さんがいなければ「LWA」も「BNA ビー・エヌ・エー」も“女性”が主人公にはなっていないし、本作の“変身”というテーマももっと上辺のものになっていた可能性があります。
このテーマを描くにあたっては、堤さんのセンスを信じてやっていけば、より深いところに到達できるはずと思っていたので、その出発点は間違っていなかったのかなと。もし作品を見てくれたお客さんが、何か現実との符号や我が事のように感じるポイントがあったとしたら、それは堤プロデューサーのおかげなのかなと思います。“若者”で“女性”である主人公のみちるが、世界をどう“変身”させ、さらに自分自身をどう“変身”させていくか、といった点に注目しながら見てもらえると、より物語の解像度が上がるんじゃないでしょうか。
うれしかったのは、何と言ってもシリーズ構成・脚本の中島かずきさんとご一緒できたことです。私自身「天元突破グレンラガン」の大ファンで、TRIGGERさんとは「LWA」で関わることができたものの中島さんとはきちんとお仕事できていなかったので、やっと念願かなったという感じです。
一番大変だったのは、実は中島さんが参加される前です。吉成監督と堤プロデューサーと3人で、ああでもないこうでもないとアイデアを出しあい、企画の基盤を固めていく期間が長かったのですが、いつかのタイミングで出口が見えなくなったことがあったんです。こちらもかねてファンだった小説家の宮澤伊織さんにブレーン役として悩みを聞いていただいて、たくさんのアイデアもいただきつつ、そのおかげでなんとか企画の形にはなったのですが、その先のシナリオ段階に入る決め手が見つけられず、グルグル同じところを回っていました。
そんなタイミングで中島さんが参加されて、「今回は吉成監督に寄り添う形で参加しますが、しかし私がこの企画をやるならこうです!」とはっきり行き先を示してくださったんです。そういう、グイっと物を動かすエネルギーと実際の筆力に感動しつつ、「これは我々もきちんと考えないといけないぞ」と焦って、大いに刺激をいただきました。
吉成監督と中島さんのお二人は初の共作になるので、しばらくは共通言語を探り合うというか、お互いのやりたいことを理解し合うのに時間が掛かって、もちろんそれはそれで気をもんだのですが、それよりもアイデアがシナリオの形を取らずに企画ごと空中分解していくことが一番まずいので、それを食い止めていただいた中島さんには心から感謝しています。
Netflixの先行配信でも既に話題になっているのが、第5話の“野球回”ですよね。脚本のうえのきみこさんと絵コンテの今石洋之さんの良さが全面に出た、誰もが納得のエンターテインメントになっています。個人的に気に入っているのは、樋口七海さん脚本の第4話です。ジョーダン・ピール監督の「ゲット・アウト」で描かれたような、差別や偏見というものの多重的な複雑さを、高度なレベルで表現できたかなと思います。
「LWA3」でもお世話になったうえのさんと樋口さんのお二人にはそれぞれ独特の個性があり、やりたいこともはっきりしていて、何より書き上がってくるものが面白いので、私自身いつもシナリオ打ち合わせが楽しみだったし、そういう脚本家それぞれの特徴みたいなものにも注目してもらいたいです。
第6話はシリーズ中盤のターニングポイントになっていて、本編の回想やオープニング、エンディングでもちょこちょこ登場していたあのキャラがフィーチャーされます。士郎とはまた別の意味でみちると対になる存在で、俗に言う“巨大感情”をバキバキに励起させる強力なキャラなので、こちらも楽しみにしてもらいたいです。
私がこの作品のコピーとして最初に考えたのが、「Change yourself, change the world.」という文句でした。ここで言う「yourself(あなた自身)」というのが誰のことなのか、どういう「change(変化)」のことなのか、そのあたりも気にしつつ後半戦を楽しんでもらえると幸いです。
世の中の因習とか、価値観の押し付けとか、そういうのに疲れて、なんだか窮屈だな、生きづらいな、と思っている人がいたら、「BNA ビー・エヌ・エー」を見てもらえるとスカッとすると思います。第12話で、主人公のみちるがビシッと決めてくれるせりふがあるんです。「これを言わせるために作ったアニメ」と言っても過言ではないせりふなので、最後のそれを楽しみにしてもらいつつ……、そこまでに至る道のりも盛りだくさんな内容になっているので、一本のシリーズとしての完成度も堪能してもらえると幸いです。
もちろんTRIGGER作品なので、アニメーションの喜びが詰まった、とにかく楽しいアトラクションのような作品でもあります。頭を空っぽにしてアニメの快楽に身を任せるのも良し、頭を使って作品テーマに考えを巡らせるのも良し、いろんな楽しみ方をしてもらえるのが一番うれしいです。
東宝 プロデューサー 武井克弘
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