上野樹里:結婚、30代突入を経て「第二の充実期」 役を極める姿勢にさらに磨き!

上野樹里さん
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上野樹里さん

 今年1月期に、竹内涼真さん主演で放送された連続ドラマ「テセウスの船」(TBS系)での熱演も記憶に新しい上野樹里さん。同ドラマは5月11日からのアンコール放送が決まったばかりだが、それ以外にも、上野さんは近年、「グッド・ドクター」(フジテレビ系、2018年)、「監察医 朝顔」(フジテレビ系、2019年)と立て続けに印象的な演技を見せ、改めてその実力を印象づけた。主役でも脇役でも輝きを放つオールラウンダーな女優として、まさに「第二の充実期」を迎えている上野さんのフィルモグラフィーを振り返ってみたい。

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 ◇「スウィングガールズ」で注目 「のだめ」「ラスト・フレンズ」で人気は不動のものに

 2002年、16歳でNHKドラマ「生存 愛する娘のために」で女優デビューを果たした上野さん。その後、映画「ジョゼと虎と魚たち」(2003年)で当時17歳だったにも関わらず、女子大生役を好演し、劇中で強い印象を残すと、翌2004年には「スウィングガールズ」でヒロインを演じ、一躍その名を広めた。上野さんと言えば、今では役への深い向き合い方を取り上げられることが多いが、「スウィングガールズ」を担当したプロデューサーは、楽器未経験だった上野さんが、唇から血を流して泣きながらサックスを特訓したという秘話を語っていたように、10代から作品への情熱には熱いものを持っていたようだ。

 そんな彼女の作品に対する姿勢は、多くのヒット作への出演に繋がった。木村拓哉さん主演のドラマ「エンジン」(フジテレビ系、2005年)では、木村さん扮(ふん)する次郎の実家で営んでいる施設の児童・美冴を演じ、戸田恵梨香さんや夏帆さん、中島裕翔さんらのまとめ役として存在感を示した。さらに上野さんの代表作の一つと言っても過言ではない「のだめカンタービレ」(フジテレビ系、2006年)では、マンガ原作の型破りなヒロインを見事に演じ、人気を不動のものにした。

 「のだめ」の強烈なキャラクターの印象が強く残るなか、2008年放送のドラマ「ラスト・フレンズ」(フジテレビ系)では、性同一性障害の女性・岸本瑠可として圧倒的な演技を披露。役柄の幅を広げると、2011年には「江~姫たちの戦国~」で大河ドラマ初主演を果たし、20代半ばにして演技派女優としての地位を不動のものにした。

 ◇2016年に結婚 30代に突入し、さらに迫力と円熟味を増した演技

 その後、2016年に、ロックバンド「TRICERATOPS(トライセラトップス)」の和田唱さんと結婚。30代に突入すると、上野の演技はさらに迫力と円熟味を増してきたように感じられる。

 結婚後初の連続ドラマ「グッド・ドクター」では、山崎賢人さん扮する自閉症でサヴァン症候群の小児科レジデント・新堂湊を支える指導医・瀬戸夏美を演じた。夏美は生い立ちになにかあるわけではない、ある意味で普通の医者。特徴的な新堂とは対照的な役柄として、終始受けの芝居を見せたが、その繊細かつナチュラルな上野さんの演技によって、視聴者が新堂という個性的なキャラクターに感情移入することができた。

 「のだめ」のような自らが動くキャラクターを演じることが多かった上野さんの新境地とも言えるような役柄だったが、本作でも上野さんは、都内病院はもちろん、小児専門病院である長野県立こども病院にも出向き、どんなに細かなことでもキャッチし、役柄に投影していったという。

 翌2019年に放送された主演ドラマ「監察医 朝顔」では、東日本大震災で母親を亡くしてしまった法医学者・万木朝顔に扮した。法医学者が主人公のため事件が起こるが、物語の本質はヒューマンストーリー。サスペンスよりも、登場人物の心に寄り添った作品。上野さん演じる朝顔の心の奥にある傷、それを抱えながら日常を一生懸命に過ごす姿にリアリティーを感じることができたことにより、視聴者は朝顔という女性に、より感情移入ができた。決して派手さはないが、朝顔の機微が随所から伝わる上野さんの芝居は圧倒的だった。

 本作でも上野さんはプロデューサーと共にたくさんの病院に足を運んだ。さらに東日本大震災で被災した岩手県陸前高田市を訪ね、地元の人々に多くの取材を重ね、朝顔という役を作っていったというから、上野さんにとって徹底的に役に向き合う姿勢はライフワークであるのだろう。

 ◇絶賛された「テセウスの船」 多面的な人物造形、物語に余韻を残すキャラクター作り…

 そして、今年3月まで放送されていた「テセウスの船」である。上野さんは竹内さん演じる主人公・心(しん)の妻・由紀役として第1話で登場するが開始早々、殺人犯として死刑判決を受けている心の父親が冤罪ではないのかという思いを告げ、死んでしまう。主人公の妻という役で、しかも上野さんほどの女優をキャスティングして、連続ドラマの第1話の冒頭で亡くなるという設定は、かなり斬新であったが、その後、心がタイムスリップを経て帰ってきた現在で、父の事件を追う週刊誌の記者という形で再登場する。

 こうした形での起用について、番組プロデューサーは「冒頭10分で死んでしまうという役を、上野さんほどの女優に演じてもらうということに驚いてもらいたかった」と意図を明かしていたが、裏を返せば、どんな短い時間でもしっかりと役柄に向き合って人物を深掘りしてくれるという信頼感があるからこそのオファーだったのだろう。

 同時に、確かに物語を通してずっと出演している役柄ではないが、作品にとっては重要なキーパーソン。そんなキャラクターだけに、信頼の置ける人に演じてもらう必要があったのだろう。実際、現代に戻った第4話で再登場した上野さんは、心の父親の冤罪を証明してくれる証言者を探すために、事件の被害者たちの集いで、情報提供を呼びかける大演説を行う。

 ここでの上野さんの演技は、放送後SNS等でも大絶賛されるほど、緊張感に包まれたシーンだった。しかも演説後、心の元にやってくると「めちゃくちゃ怒られちゃった~」と話しながら見せた笑顔は、心の妻としての由紀を思わせるような輝きだった。

 「グッド・ドクター」での、主人公を吸収しまくる懐の深い演技、「監察医 朝顔」での多面的な人物造形、そして「テセウスの船」での、登場回数が少ない中でも、常に物語に余韻を残すキャラクター作り……。30代になり、さらに上野さんの演技に磨きがかかってきたように感じられる。(磯部正和/フリーライター)

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