超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、メガネ型のウェアラブルデバイス「スマートグラス」とゲームとの親和性について語ってもらいます。
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「3Gはガラケー、4Gはスマホ、5Gはスマートグラス」。キャリアや端末メーカーで耳にするようになった謳い文句だ。こうした状況の中、昨年12月に先陣を切って発売されたスマートグラスが「NrealLight(エンリアルライト)」だ。中国スタートアップのNreal Ltd.とKDDIが共同開発した製品で、市場で品薄状態が続いている。
NrealLightの特徴はスマートフォンとケーブルで接続して使用する点だ。これによりグラス部分が小型軽量となり、装着しやすくなった。眼鏡のように折りたたむこともでき、スムーズに携帯できる。スマホの画面を目の前に拡大して表示したり、スマホをコントローラーとして使用しながら、AR(拡張現実)アプリを楽しんだりできる。モロ星人やうららが目の前に表示される「スペースチャンネル5 AR」体験版などの専用ゲームがストアで公開中だ。
対応する端末は「Xperia 5 II SOG02」と「Galaxy Note20 Ultra 5G SCG06」の二機種で、ともにau製の端末のみ。もっとも、KDDIでは対応端末は今後も増加する予定だ。また、コンテンツを楽しむだけなら5G回線は不要で、4G回線かWi-Fi回線があればいい。Bluetooth対応イヤホンやゲームコントローラーなどと組み合わせて使用することもできる。
PCと対応スマートフォンがあれば、誰でもアプリを開発して、ネット上で公開・販売できる点もポイントだ。Nrealの開発者向けサイトでは、ゲームエンジンのUnityに組み込んで使用する、アプリ開発用の専用プログラムを無償で配布している。ドキュメントやサンプルも充実しており、Android向けアプリと変わらない感覚で開発可能だ。開発者向けの公式交流サイトもあり、技術情報の共有が進んでいる。こうしたオープンな姿勢に改めて驚かされた。
筆者もさっそく購入してみた。そこで実感したのが、スマートグラスがもたらすAR体験は、ゴーグルを装着するVR(代替現実)体験と本質的に異なるという点だ。VRゲームでは、仮想世界への没入体験が特徴だが、ARゲームは現実の生活空間に溶け込んだり、拡張したりするような体験が特徴だからだ。
ARゲームは「ポケモンGO」などでおなじみだが、NrealLightでは現実世界にCGを重ね合わせるだけでなく、利用者の周囲を認識する仕組みを、限定的ながら備えている。これにより、リビングに出現する宇宙人を、銃にみたてたスマホで撃ったり、机の上にユニットを並べて戦略ゲームを楽しんだり、といった新しいゲーム体験ができる。こうしたスマートグラスの空間認識能力はセンサー類の進化と共に、ますます向上していくことが予測される。そのため、ゲームの開発にはテレビやスマートフォンの四角い画面に囚われない、柔軟な発想が求められる。
例としてスマートグラスを装着した親子が、肩車をしながら遊ぶARゲームを考えてみよう。親は戦車長、子どもは砲手となり、部屋の中に出現する敵を攻撃していく。この時、拡張されるのは「肩車」という体験だ。ゲーム画面ではなく、親子の触れ合いという視点からアイデアを広げることが求められるというわけだ。
もっとも、スマートフォンは手に持つデバイスなので、友達や親子同士で共有したり、同じ画面がみられる。これに対してスマートグラスは顔にかけるため、こうした行為がやりにくい。視力や鼻の高さもひとそれぞれだ。NrealLightにも4種類の鼻あてと、近視レンズ用磁気フレームが同梱されており、自分向けに調整して使う必要がある。こうしたスマートグラスのパーソナルな特性は、短期的に見れば普及をさまたげるおそれがある。
一方で、5G回線が普及すると、端末の性能にとらわれずに、より幅広いスマホでスマートグラスが使用可能になる可能性がある。クラウドゲームのように、アプリの画像情報などをストリーミング配信できるようになるからだ。すでに国内でも実証実験が行われており、数年内に実用化される可能性が高い。これにより、普及に弾みが付くことが予想される。VRゴーグルの小型化に伴い、将来的にVRとARが統合される可能性もあるだろう。
スマートグラスが日常化した世界を描いたアニメに「電脳コイル」がある。NrealLightは屋内での使用が推奨されているが、今後スマートグラスが一般化すると、空間上に地図アプリの矢印が表示されて、道案内をしてくれるなど、日常生活が激変することが予想される。今後発売が予想される他社製品も含めて、スマートグラスの動向に注目したい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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