ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
1988年に公開された劇場版アニメ「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(富野由悠季総監督)。アムロ・レイとシャア・アズナブルの“最後の戦い”を描いたアニメ史に残る名作のドルビーシネマ版が4月2日から上映されることになった。ドルビーシネマ版の試写会に参加した富野監督を直撃。富野監督は「合格点とは言えないけど、55点くらいはあげられる」と厳しく自己採点しながら、成功と失敗、伝説のラストシーンについて語り出した。
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「逆襲のシャア」が公開されたのは約33年前になる。富野監督も「30年以上前なの? だったら安心した。そんなもんですね」と驚く。「なんで?と思うところもあります」と今だから語れる複雑な思いを明かす。
「オリジナル(『機動戦士ガンダム』)の作画スタッフでやっていれば、作品の印象がもうちょっと優しくなったり、シャアは無機質なキャラクターじゃなかったかもしれません。安彦(良和)君の線は優しいから。ナナイやクェスとの絡みでもシャアが優しく見えて、女がほれただろうな。30年たったから言えることです。制作の時に、安彦君が参加してくれないことが分かっていたから、劇の作り方をすごく気をつけていました。女がほれる男とは?をすごく考えて演出しました。合格点とは言えないけど、55点くらいはあげられる」
名作を「55点」と自己採点する厳しさは“富野節”として、さらに厳しい意見を続ける。
「これで決着を付けたつもりでいる。これ以降、ふぬけになった自覚もあります。劇の組み立て方は、理想ではなく、しょうがなくてこうなったという欠点が見える。サイコフレームの扱い方を上手にやらないといけなかったけど、ああいうふうにしかできなった。ぶざまだなと思っています。あれについてのアイデアがいまだに思いつかない。ごまかして逃げた感触がものすごく強いですが、ごまかして逃げたにしては、上手だなと思います」
「ごまかし」の「必殺兵器」になったというのが、最後に子供が産声を上げるシーンだ。
「必殺兵器は、最後に子供を産ませる。それまでのよく分からないことが、全部チャラになる。そうしなければ収まらなかった。承知でやっています。コンテの5分の4が終わった時に、どうやっても終わりようがなくて、あれを思いついた。最後を決めたので、どうとでもなるとなった。チェーンを殺さざるを得ないのは、窮余の一策なんですよ。戦場では、ドラマ的な展開がなくて死んでも許される。ラストの赤ちゃんの声を思いつき、逆算して、生き死にを描いた。チェーンが死ぬことに説得力がない。コンテを切っていると、その問題に気付いているけど、残りの尺でけりを付けられない。これ以上長くはできないから、こういうふうになってしまった。端折り方を見ると、不慣れな部分がかなりあります」
富野監督の分析は厳しいが、「逆襲のシャア」は、今見ても古く見えない。だからこそ、名作と呼ばれている。富野監督は「それに関しては当時からうぬぼれています」と話す。
「当時、周囲から展開が早すぎてわからない、と徹底的に嫌われましたが、戦争映画はこのテンポでやらないといけないという厳然とした計算がありました。それがあるので、今日見てもそこには嫌悪感がない。ただ、僕の中で評価が低いのは『フォレスト・ガンプ』に負けているからです。戦争もので、男女の絡みがある話を本当にうまく作っている。ただ、劇としての組み立てが素人。戦争ものだからとは関係なくて、映画は、男女の絡みという支えがあって、違う話をするもの。『地球に住んでいる愚民は!』ととんでもない話をして、ナナイに抱きついて泣く変な男がいる変な話。その部分が面白い。映画として最低限度のことはクリアしている」
この日は、関係者向けのドルビーシネマ版の試写会が開かれ、富野監督も参加した。最先端の映像、立体音響が楽しめるドルビーシネマ版を見て「古いフィルムなんだけど、一つだけお分かりいただきたいことがあるのは『ガンダム』関係の映像作品のデジタル化は、日本一じゃなくて世界一かもしれない。今回もノーチェックです」と自信を見せる。
「僕みたいな古い人間が『それは違うでしょ!』と言うことはないです。20年前くらいは、昔の色との摺り合わせなどについて言っていたんです。その時代のソフトの癖に合わせると、元々のものとは離れる。今の『ガンダム』チームは、基本的に同じスタッフで20年くらいやっている。僕は昔の色味を知っているけど、新しい技術で映えるために何をやるかは、彼らの仕事。その時代のソフトの癖を世界で一番分かっている。僕みたいな年寄りが言うことは一切なくなったのです。名作映画をデジタル化したものを見て、びっくりすることがあるんです。なんでこんなに解像度が低いのか? 昔のままなのか?と。昔のままで粒子感が見えた方がいいという声もあるけど、それでは見づらい。そういう作品を見ると、『ガンダム』のチームは、なまじじゃない。威張ります。でも、僕の仕事じゃないですから、ちょっと残念」
富野監督は「再生のことだけは褒めています。作品のことは褒めていません。長い話で、繰り返し繰り返しの戦闘シーンばかりで、申し訳ないと思っています」と話したり「ゲスな作りだけど、ララァを救っているという見え方がある。『機動戦士ガンダム』が好きな人は、『俺も歳をとって分かるようになった!』という感想を持ってくれているのかもしれない。ファンの方はありがたいとは思うけど、やっぱり戦闘シーンばっかりだし、見ていて腹が立つ!」とも語る。
富野監督は複雑な思いがあるようだが、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」は名作であることは揺るぎない事実だ。「世界一」のスタッフが手がけたドルビーシネマ版は、さらに魅力的になっているし、見てみると改めて気付かされることもある。ぜひ、その目で確認してほしい。
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