ダンダダン
第7話「優しい世界へ」
11月14日(木)放送分
アニメ「電脳コイル」などで知られる磯光雄監督の新作オリジナルアニメ「地球外少年少女」。2007年に放送された「電脳コイル」以来、約15年ぶりとなる監督作で、「ガンダム Gのレコンギスタ」「交響詩篇エウレカセブン」などの吉田健一さんがキャラクターデザインを担当し、「電脳コイル」「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」などに参加してきた井上俊之さんがメインアニメーターを務めるなど豪華スタッフが集結した。約15年前に放送された「電脳コイル」ではARが浸透した“ちょっと先の未来”を予見した磯監督は、新作で何を描くのだろうか? キャラクターデザインの吉田さんに制作の裏側を聞いた。
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「地球外少年少女」は、AIの発達により、誰もが宇宙空間へ行けるようになった2045年を舞台に、月生まれの子供たちと地球から宇宙旅行にやってきた子供たちが、日本製宇宙ステーション・あんしんで出会うことになる。全6話構成で、前編(第1~3話)が1月28日から、後編(第4~6話)が2月11日から、それぞれ2週間限定で劇場上映される。上映と同時に劇場公開版のブルーレイディスクとDVDが劇場で販売。Netflixでも1月28日から世界同時配信される。
吉田さんは、スタジオジブリで「もののけ姫」などに携わった後、「OVERMANキングゲイナー」「交響詩篇エウレカセブン」「ガンダム Gのレコンギスタ」などのキャラクターデザインを担当してきた。
「地球外少年少女」の制作が始まる前に、磯監督はいくつかの企画を考えていたという。吉田さんは相談を受け、その中の一つにあった「地球外少年少女」の企画を見て、「これがいいです!」と言ったという。
「理由は宇宙だったからです。ほかは宇宙ではありませんでした。僕は、これまでロボットバトルものに参加していて、もちろん好きなのですが、それじゃない宇宙ものもやってみたかった。磯監督は『電脳コイル』で、ちょっと先の未来の話を描いていました。あれが好きなんです。『電脳コイル』で面白いと思ったのは、バーチャル空間には、存在しない何かが宿っているところです。暗闇が怖かったり、そういう感覚と同じ何かが存在している。新しいテクノロジーで、そういう何かが生まれる。テクノロジーと身近に感じている何かを分けるわけではない。そこがすごく好きなんです。磯監督がどんな宇宙を描くのだろう? その中でどんな未来を見せてくれるのか?に興味がありました」
なぜ、宇宙なのか? 磯監督を取材すると「一言で言うと、みんなやっていないから。『ガンダム』以外ほとんど見かけなくなってしまった。なんでないんだろう? ないなら自分で作っちゃおうと」と語っていた。吉田さんも同じ思いがあった。
「普通の人が宇宙に行く未来が危機に瀕(ひん)している。以前、テレビ番組で、『テラフォーミングした火星に人類が移住すること』が話題になっていて、それに対してほとんどの子供が『人間は地球を捨てるべきではない』という意見でした。『人間が地球の環境を壊したのだから、責任を取るべきだ』と。子供がそんなことを思うようになったら、終わりだと思ったんです。大人がそう教えているんでしょうね。社会のシステムは、一度動き出すと、そこから抜け出すのが難しい。みんなが生きていくために必要なシステムですが、そこから外れたものを押さえつけるのはどうなのだろう? 日本のマンガ、アニメは自由にいろいろなものを描いてきた歴史、先人たちの努力があります。磯監督が描く宇宙に次の突破口があるのか?とても興味がありました」
「地球外少年少女」には、月で生まれた子供で地球嫌いの“厨二病ハッカー”の相模登矢、登矢と幼なじみで同じく月で生まれた七瀬・B(Bはキリル文字)・心葉、宇宙ステーション・あんしんの看護士・那沙・ヒューストンら個性的なキャラクターが登場する。
「基本的に監督が企画書で描いたキャラクターがベースになっています。特に注目したのが登矢で、磯監督が描いた登矢は、磯監督すぎるんです(笑い)。普通の人が見たら、ひねくれた人に見えるかもしれない。真っすぐに見えなくて、複雑な顔をしていました。複雑さがありつつ、主人公に見えるようにしようとしました。ある程度の軽妙さ、キャラクターとしての可愛さが必要で、磯監督の絵は可愛いんですけど、また違った可愛さを入れられたらと考えていました」
登矢以外のキャラクターについては「監督が思っていないものも描こうとしました」と話す。
「思っていないものを描くと、拒否反応があるので、それを見て調整する。毎回やることなんです。富野(由悠季)さんの時もやります。『嫌な絵を描くね』と言われたこともあります(笑い)。じゃあ、これはやめましょう……と。監督が求めているものを描くのも大事ですが、だからといって面白いものになるとは限りませんし、監督が思っていないことをすると、新たな選択肢が生まれ、意外に面白くなることもあります。そういうことをできるのが、キャラクターデザインのうまみなんです。僕はアニメーターからキャリアをスタートしているけど、演出にも興味があります。『演出をやらないのか?』とも言われるけど、それでは絵が描けない。磯監督のように、自分で描く監督もいますけど。僕としてはできる気がしないですし」
吉田さんのキャラクターデザインは絶妙だ。マニアックになりすぎず、子供向けアニメのような温かみもあり、バランス感覚が素晴らしい。
「ジブリにいた頃もそうですが、みんなに分かってもらうために、日常性を意識しています。例えば、キャラクターが座った時、机とキャラクターの距離によって見え方が変わります。机とキャラクターの間に距離があると、リラックスして見え、キャラクターが話している内容も頭に入ってくる。机とキャラクターの距離が近すぎていると、違和感があるし、見え方も変わる。そういうところをしっかり描かないといけない。ジブリの同僚だった安藤雅司は、そこを外さない。だから、絵と物語がコミットして、映画の内容が頭に入ってくる。宮崎(駿)さんもそれを駆使しています。それが僕にとっての最初の憧れの仕事でした。じゃあ、なぜ、キャラクターデザインをやるようになったのか? 同じことをやっていたら、彼らにかなわないからです(笑い)。一方で、はちゃめちゃなものも面白いですしね。アニメーターになりたいと思ったきっかけは『ガンダム』でした。富野さんの作品は、いつも刺激をくれて、ずっと好きです。うまみ、毒が必ずあります。宮崎さんも毒がありますしね。面白いアニメは全部そうなのかもしれません。うまみと毒の仕事をしたかった。食べたらおいしくて、やめられなくなる。毒だけになってもいけないのですが」
吉田さんは、富野監督の「OVERMANキングゲイナー」「ガンダム Gのレコンギスタ」のキャラクターデザインも担当してきた。「もし、富野監督が『地球外少年少女』を見たら……」と聞いてみた。
「どうなんでしょう? 『吉田の絵は表現力が……』と言われそうです。富野さんには『お前には、これはできないだろうな?』と限界を見透かされているような感じがしているんです。富野さんもアニメーター、キャラクターデザインによって表現を変えていることがあるようにも感じています。湖川(友謙)さんの時、安彦(良和)さんの時……と違ったり」
磯監督は「新世紀エヴァンゲリオン」「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」「紅の豚」など数々の作品に参加してきたスーパーアニメーターでもある。吉田さんは、アニメーターとしての磯監督のすごさを「1990年代以降のアニメの景色を変えた人です。例えば、爆発、空間の使い方などの意識を変えた。それを何度もやっているんです。そんな人はなかなかいない」と語る。「監督としては、ちょっと先の未来を面白く見せてくれる」と感じているという。
「磯監督が描いた未来が面白いから、世の中もそっちの方向に行く。みんなが“あっち”に行きたいと思う。エンターテインメントが社会を変えていくこともあり、磯監督は毎回それをやっています。すごく大変なことで、チャレンジです。次の作品があれば、また違うことをやるはずです。次も未来を見せるかは分からないですが」
「地球外少年少女」でも挑戦した。
「アニメを作るには人、手間が必要です。少ない人数や個人で作ったアニメもありますが、大人数で作らないと表現できないものもあります。『地球外少年少女』は、キャラクターが多くはないですが、大勢の人々が存在する世界を描いていて、その世界の一部を切り取っています。富野さんもそういう世界を描きます。大人数で作らないとそういう世界を描くのは難しいのかもしれません。いろいろな人間がいると、いろいろなことが起きますしね」
「地球外少年少女」では、豪華スタッフによってどんな「ちょっと先の未来」が描かれるのだろうか? 社会を変えていくような作品になることにも期待したい。
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