アニメ「宇宙よりも遠い場所（よりもい）」などで知られるいしづかあつこ監督が手がける劇場版アニメ「グッバイ、ドン・グリーズ！」が公開された。いしづか監督が脚本も手がけ、吉松孝博さんがキャラクターデザインを担当し、マッドハウスが制作するなど「よりもい」のスタッフが再集結した。ロウマ（鴨川朗真）役の花江夏樹さん、トト（御手洗北斗）役の梶裕貴さん、ドロップ（佐久間雫）役の村瀬歩さんと豪華声優陣が集結したことも話題になっている。ロウマ役の花江さんに収録の裏側を聞いた。

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　◇仲がいい友達と遊んでいるようなリアリティーを

　「グッバイ、ドン・グリーズ！」は、少年たちがいつもと違う夏休みの冒険の果てに、炎と氷の国・アイスランドにたどり着くことになる。花江さんが演じるロウマは、関東の田舎町に住む農家の一人息子。特にこれといった趣味もなく、打ち込めるような何かも見つからないため、日々を漠然と過ごしている。

　「グッバイ、ドン・グリーズ！」は、キャラクターの感情表現が繊細だ。等身大の少年たちの会話が生々しくもある。

　「アフレコの段階で映像がほぼ完成していて、作品の舞台、キャラクターの表情が分かっていて、何となく実写的なお芝居に近い雰囲気を感じていました。そんなに声を張らず、日常で会話しているように自然体でいようと収録しました。監督も、そういう方向性を考えられていたようです。学生の時は、物事を考えずに会話をしますし、脳でしゃべるというか、反射的なリアクションをしたりします。仲がいい友達と遊んでいるようなリアリティーをもって演じようとしました。映像ができているから、口パクにしっかり合わせないといけない大変さもありました。表情が豊かなので、気持ちを作りやすかったです。同じ表情をすれば、ぴったりの気持ちになりますし」

　いしづか監督に取材した際、台本について「私のせりふは、変なところで間を取ることがあるので、台本を書く際は句読点を極力入れないようにしています」と語ったことがあった。

　「言われてみればそうですね。無意識でした。それが自然な会話につながったのかもしれません。普通に話している時は句読点を意識しないですもんね。僕はこういう雰囲気、お芝居の作品が好きです。純粋に楽しんでいました。監督は、人をすごくよく見ていますよね。心の描写、せりふに説得力があります。演じる中で、違和感がないんです。ロウマが何でこんなことを言うんだろう？というのがありませんでした。映像もキレイです。映像と音楽で見せるシーンもあって、絵に力があり、説得力があるんですよね」

　花江さん、トト役の梶さん、ドロップ役の村瀬さんは人気、実力を兼ね備えた声優だ。三人の熱演もあり、やり取りがリアルに聞こえてくる。

　「お二人とはこれまでもご一緒させていただいていますが、ここまでテンポが速いお芝居は初めてだったので、新鮮でした。二人のことは信頼していますし、安心してアフレコできました。気持ちよかったですね。リアルを感じました」

　◇高校時代は？　行動することが大事

　ロウマは、同級生たちと上手くなじむことができず、気の置けない友人はトトだけ。普段の行動範囲は自転車で行ける距離だけで、修学旅行や課外授業以外では近所から出たことがない。おとなしく、内向的に見えるところもあるが、冒険を通じて変化していくことになる。

　「ロウマはやりたいことも特になく、将来のこともぼんやりしています。ほとんどの人がそんな感じだと思うんですよね。学生なので、なんてことない日常を自分たちで大事件にして、大冒険につながっていきます。冒険をして、精神的に段々と大人になっていきます。頭の中を空っぽにしてその場で思いついたことをしゃべっている意識でした」

　花江さんの高校生時代は「あんまり外に出るタイプではなかった」という。

　「オンラインゲームをして籠もっていました。これと言って冒険もしませんでした。県外にほとんど出なかったですからね」

　花江さんは高校時代、声優を志し、声優事務所にボイスサンプルを送った。それが声優になるきっかけになった。

　「漠然と何かなりたい！と思っているかもしれませんが、そのための過程を考えている人はそんなにいないのかもしれないですね。でも、行動することが大事ですよね。ダメだったとしても、その経験はいいことなので」

　花江さんは「若い時にしかできないことがあると思う」とも話す。

　「若さで許されるところもあります。僕もそれで怒られたことがありますし。湧き上がる原動力は危ういけど、すてきです。夢、やりたいことがある人の背中を押してくれるようなメッセージが込められています。見る人によって見え方が違うかもしれません」

　「グッバイ、ドン・グリーズ！」は見る人の世代、環境によって感じ方は異なるかもしれない。花江さんらの熱演に感情を揺さぶられるはずだ。