ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
アニメ「機動戦士ガンダム」(ファーストガンダム)のアニメーションディレクターやキャラクターデザインなどを担当した安彦良和さんが監督を務める劇場版アニメ「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」が6月3日に公開される。安彦監督をはじめとするスタッフを取材する中で、副監督のイム ガヒさんの仕事ぶりが話題になることも多かった。イム副監督は「アイカツ!」シリーズや「ガンダムビルドダイバーズ」「半妖の夜叉姫」などに参加し、「テクノロイド オーバーマインド」で監督を務めることも話題の演出家。メインスタッフの中では最年少ながら、副監督に抜てきされた。「大きな挑戦」となったというイム副監督に制作の裏側を聞いた。
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イム副監督は韓国出身で、韓国の大学でデザインを学んだ後、日本でサンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)に入社した。
「元々アニメ好きでしたが、アニメで生計を立てることは難しいのかな?とも思い、デザイナーになろうとしたんです。紆余(うよ)曲折があって、やっぱりアニメがやってみたくて、この業界に入りました。最初は撮影としてサンライズに入り、撮影もすごく楽しいのですが、この絵の素材はどうやって作るんだろう?と考えるようになり、演出に興味を持つようになりました。制作進行に転向し、演出助手になり……さまざまな作品に参加させていただき、今はフリーで活動しています」
「小さい頃からずっとアニメばっかり見ていました」というイム副監督。子供の頃から「ガンダム」シリーズを含むサンライズ作品が大好きだった。
「高校入学くらいの時に、初めて見たのが『新機動戦記ガンダムW』でした。元々、メカものが好きだったんです。『魔神英雄伝ワタル』『魔動王グランゾート』『絶対無敵ライジンオー』も好きでしたし、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』も……。今思えば、サンライズの作品が多いですね。やっぱりサンライズで仕事をしているのなら『ガンダム』をやってみたかったですし、夢がかなっています」
イム副監督は「ククルス・ドアンの島」のスタッフでは一番の若手だったが、夢だった「ガンダム」のメインスタッフに抜てきされた。
「プロデューサーの方によると、安彦さんから『若手の演出とやってみたい』という要望があったそうなんです。ただ、安彦さんから見たら、私は新人にも入らないくらいひよっこですから。私で大丈夫ですか?と悩んだのですが、こんな機会は二度とないでしょうし、やってみたかったので、参加させていただきました。しかも、劇場版なのに最初から最後まで演出が私一人なんです。大きな挑戦でした」
イム副監督は「ガンダム」シリーズとハローキティがコラボした「ガンダムvsハローキティ」で監督を務めた経験がある。「ククルス・ドアンの島」には「ガンダムvsハローキティ」のスタッフが多く参加している。
「美術監督の金子(雄司)さん、色彩設計の安部(なぎさ)さん、編集の新居(和弘)さんもそうですね。やり方が分かっているスタッフの方々でしたので、安心できました。キティも、どこまでやっていいの?と緊張しましたが、『ククルス・ドアンの島』もまた緊張があって……」
「ククルス・ドアンの島」は、1979年に放送されたファーストガンダムの第15話のエピソードで、主人公のアムロ・レイ、敵対するジオン軍の脱走兵ドアンの交流を通じて、戦争の哀愁が描かれた。劇場版では第15話を改めて描く。ファーストガンダムは40年以上にわたって愛されている。「ククルス・ドアンの島」は、伝説のエピソードということもあり、思い入れが強いファンも多い。
「愛のある方がたくさんいる作品ですし、難しいところがあります。歴史が長く、キャラが立体的で定義できないんです。今回は、安彦さんがいらっしゃったので、安彦さんのコンテをちゃんと読み取り、分からないところを聞いて、やるしかない!という気持ちでした。普段は演出が見て、監督がチェックするのですが、今回はまず安彦さんが見られるんです。安彦さんが直してくれた素材が私にきます。安彦さんから言われたのは『その通りにしてほしいわけじゃない』でした。レジェンドの素材を直せということです。ええ!?となりますよね。でも、そこで何かやらないと自分が参加した意味がありません。放送当時見ていなかった世代、今のアニメファンに向けたテンポ感に調整しようとしました。難しいんです。やりすぎると、昔のファンの方は違和感を覚えるでしょうし」
劇場版アニメ「ククルス・ドアンの島」は、ファーストガンダムらしい懐かしさを感じつつ、今の時代だからできる新しい表現に挑んだ。
「バランスは本当に難しいです。思い出は美化されるもので『ファーストガンダムのあのシーン、格好よかった!』と見直すと、あれ?となったり。当時、先輩方がやりたくてもできなかったことを、私たちがやらないと!という気持ちでした。そうでなければ、映画として描く意味がないですし。アムロのことが分かっているのか? 安彦さんの思いを読み取ってるのか?という不安もありました。現場のスタッフの皆さんにも意見を聞きながら、助けていただきました」
戦争に巻き込まれた子供たち、脱走兵の目線で戦争を描くことで、戦争の悲惨さを感じる。ヒューマニズムにあふれているのは、安彦監督らしさなのかもしれない。
「人々の壮大なドラマが根底にあると思っています。ロボットアニメですが、ロボットも出てくる人間のドラマなんです。安彦さんの作品を見返すと、やっぱり人なんですね。やればやるほど安彦さんが描くキャラの奥深さを感じていました。キャラクターの80%までは理解できたかな?とプランを見ていただくと、安彦さんから『そうじゃない』と返ってくる。安彦さんにかかると、100%の先まであって120、150%となるんです」
イム副監督は、安彦監督について「何でも受け入れてくださる“海のような方”」と語る。
「安彦さんは『自分で考えなさい』というスタンスですし、最初は大変でした。私たちがやったことを見届けて、受け入れてくださるし、『最後に責任を持つ』とおっしゃっていただけます。意見がぶつかる時もありました。でも、後から考えてみると、やっぱり安彦さんが正しかったと気付かされました。安彦さんの海の中で自由に泳いでいるみたいでした。安彦さんの原画展を見ても思ったのですが、やっぱり次元が違うんです。それなのに、いまだにご自身の仕事にも満足してない。『私はそんなに大したことない。ただ速いだけ』とおっしゃるんです。『ここは作業的に難しそうですが……』と相談に行くと『描けばいいんじゃないの』となる。すごい方ですが、自分がすごいことに気付いていないんです。自分が普通だと思っているみたいで(笑い)」
「ククルス・ドアンの島」は“生”を感じるアニメだ。イム副監督が「戦場ではなく、島の生活がメインで、民間人の子供たちが生き残ろうとしていますし、生活をちゃんと描こうとしました」と話すように、ククルス・ドアンや子供たちは、畑を耕し、ヤギの乳を搾り、おいしそうに料理を食べる。
CGを駆使したモビルスーツ戦では新たな表現に挑戦した。
「地上戦を描くにあたって、重さを感じるようにしなければ、リアルにならないのでは?とも感じたのですが、安彦さんの描くモビルスーツを見たい。3D演出の森田(修平)さんと方向性を決め、モビルスーツをキャラとして扱おうとしました。(森田さんが代表を務める)YAMATOWORKSさんが作画のメカの動きをすごく研究してくださって、CGでメカをキャラっぽくみせる表現ができたと思います。可動域にしても、どこまでやっていいのかな?と悩みましたが、動かしながら、フォルムを見せ、メカらしさも残しつつ……。本来、18メートルのガンダムは地上であんなにジャンプしないはずですが、人間のように動かすと格好いいんですよね。安彦さんのコンテを信じて制作しました。スタッフが目指す方向が一致していましたし、皆さんの腕がすごいので、CGチェックが楽しかったです。」
テレビアニメ版「ククルス・ドアンの島」が語られる時、作画崩壊も話題になる。ファーストガンダムの制作当時、スケジュールの都合で外部のスタジオに外注したこともあり、ザクIIが細身で“鼻”が長いなど作画が安定しなかった。
「最初から、そこを意識しないとできないという話がありました。安彦さんは嫌がってましたが。『ドアンザクはそこを守らないと、ファンが悲しいだろう』という話もあり、一番強く言ってくださったのが(メカニカルデザインの)カトキ(ハジメ)さんでしたね。『ルッグンにぶら下がらないとダメですよ』と言ってくださったり。少し細身にしつつ、やり過ぎないようにしています。“鼻”が長いのは、金具が緩くなって、ズレてきているなどカトキさんがつじつまを合わせてくれました。細かく設定しているので、リアルに見えるんですね」
「ククルス・ドアンの島」は、イム副監督をはじめとしたスタッフの愛が詰まった作品だ。「機動戦士ガンダム」をリスペクトしつつ、新しい表現を目指した。イム副監督の話を聞いていると、若手ながら抜てきされた理由が分かるような気もする。安彦監督、先輩スタッフを尊敬し、分からないことを臆せずに聞き、意見を求める。全ては作品をよくするためだ。
「怖いもの知らずなんですかね(笑い)。無礼を承知の上で言わないと、やりたいこともできないですから。こんなことを疑問に思っちゃいけないのかな?となることも、なるべく聞こうとしました。現場では私が経歴、年齢が一番下でしたが、皆さんがお互いを尊敬、尊重し合う方ばかりで、助けていただきました。かけがえのない経験になりました」
“かけがえのない経験”をしたイム副監督の今後の活躍も期待される。
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2024年11月22日 10:00時点
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