Gのレコンギスタ:G-セルフの目で表情を表現 富野由悠季監督のすごさ 撮影監督・脇顯太朗が熱弁

「Gのレコンギスタ」の第5部「死線を越えて」のスタッフトーク付き上映会の様子(C)創通・サンライズ
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「Gのレコンギスタ」の第5部「死線を越えて」のスタッフトーク付き上映会の様子(C)創通・サンライズ

 テレビアニメ「ガンダム Gのレコンギスタ(G-レコ)」の劇場版「Gのレコンギスタ」(富野由悠季総監督)の第5部「死線を越えて」のスタッフトーク付き上映会が8月5日、新宿ピカデリー(東京都新宿区)で開催され、撮影監督の脇顯太朗さん、仲寿和プロデューサーが登場した。撮影監督は、デジタル上で原画や美術を重ね合わせ、照明や効果線などのエフェクトを施し、全体の色調や彩度を調整する。脇さんは「僕はめちゃくちゃ怒っているわけです! 怒っているのにはちゃんと理由がある。まずはコイツです。この目ですよ、目!」とG-セルフの目について語ったほか、富野監督の“すごさ”を熱弁した。

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 ◇1枚ずつ目を張り込む 315セルフ!

 劇場版ではG-セルフの目が描かれるようになり、目を張り込む作業は撮影班が担当した。脇さんは、作画監督の桑名郁朗さんがベースデザインした目を張り込んでいったという。

 「原画1枚1枚に目を当て込んでいるんです。止め絵の一枚絵ならまだいいんですけど、両目ありますからね。しかも動くんです(笑い)。G-セルフは目線で演技もしているので、作画監督さんからの指示に合わせて1枚1枚、調整しながら目線の方向を変えています。目を一つ張るのに大体40~60分かかります。今回、目をいくつ張ったんだろう?と思って計算をしてみました。『I』が42セルフ(体)。『II』が56セルフ、『III』が62セルフ、『IV』が75セルフ、そして『V』が45セルフです。ところがですね、このほかにも版権物の処理なども担当していまして、これが大体35セルフもあった。つまり、合計約315セルフ!  あれ? はじめの10カットって話は何だったの? だから私は怒り心頭なんですよ(笑い)」

 大量の目を張ったようだが「それでもね、最終的に富野さんが喜んでくれればOKなんです! 実際、G-セルフに目が張り込まれたおかげで表情が出ましたし、それは富野さんの意向でもあったわけですから。それに『III』以降はもう一人の撮影監督・田中直子が作業をやってくれています。『こうやって張れるよ』って教えたら、嬉々として張ってくれるようになりまして。全て脇がやったと思われたら田中に怒られそうなので一応言及しておきます(笑い)」とも話した。

 ◇富野監督が叫ぶ 慌てるスタッフ

 第4部のエンディングテーマ「カラーリング バイ G-レコ」が流れるシーンに登場するビクローバー(キャピタル・タワー基部の地上施設)が話題になると「富野さんが、『第4部のエンディングにテレビ版のビクローバーの絵を使いたいんだけど、目新しい感じにしたい』と言ったんですね。だったらカメラワークを左右に振ったりしないと新鮮味が出ないのでは?と提案したら、『ビクローバーをズームしているところから引く(全体を見せる)ようにしよう』となった。そこで試しに当てずっぽうに画像をズームして動かしていたら、突然、富野さんが『待て!』と叫んだ。何か、しでかしてしまったんじゃないか?と場が凍り付きましたよ。そうしたら監督が『今のこの絵を最初のフレームでいく』と。そこでスタッフたちは慌てましたよ。動かすな! 誰も触るな! フレームがズレる!って(笑い)」と明かした。

 富野監督とのやりとりについて「富野さんがビクローバーに『もっと寄れ、もっと寄れ』(ズームしろ、の意味)って言うんです。これ以上やったら画像の解像度が低くなるので無理だってところまで。仕方がないのでやりましたよ。そしたら『ほら、言ったとおりにできるじゃないの』とニコニコしてらっしゃって。いや、それ、細部を見ても遜色がないように私が処理(画像の追加)をしていますから、っていう(笑い)。でもね、富野さんが笑顔であればそれでいいんです!」と語った。

 第4部のクライマックスシーンのベルリとマスクの戦いの効果線や発光処理が話題も話題になっている。

 「戦闘シーンに迫力を出そうと思って線を足しました。富野監督作品で言うと『無敵超人ザンボット3』で伝説のアニメーター・金田伊功さんが描いたカットなど、緊迫したシーンでキャラクターの気持ちが出ているときは、激しく効果線や影が描かれている。同じことを『G-レコ』でやってもいいんじゃないかと思ったんです。ビームやバーニアの発光にもこだわっています。最近のアニメではビームやバーニアの発光を表現する時に、文字通り光らせてしまう。でも、セル時代のアニメを見てると光っているというよりも、『光っていることを絵として表現するにはどうしたらいいか?』という試行錯誤が見える。その手触りを再現してみたかった」

 「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」も参考にしたようで「同作のエフェクトは品があってやりすぎていない。しかも緊迫した戦闘シーンのドラマとして成立していますからね。その後の『機動戦士ガンダム F91』なんかは、『逆襲のシャア』でスタッフさんが頑張り過ぎて、さらにオーバースペックな動きや処理をしています。ビームがあったとしたら、その周囲に散らばるビーム粒子だけが発光していたりする(笑い)。この辺りも参考として拾いました」という。

 ◇つまんないコンテですよ!?

 「G-レコ」に参加する中で感じることがあった。

 「『G-レコ』は8年も続いている作品じゃないですか。そうすると良い意味でも悪い意味でも“慣れ”が出てくる。スタッフ全員がオーダーに応えられる能力があるがゆえ、仕事がルーティンになっていく部分があった。現場的には仕事が進めやすいんですが、富野さんと仕事をすることに慣れてしまうのはマズイんじゃないか?と思いました。だって相手はあの富野さんですよ? 俺たちの『レコンギスタ』はそんなもんだったのか?と」

 「そんな気持ちにトドメを刺されたのが、『IV』の絵コンテが出来上がった時のことです」と振り返った。

 『IV』の戦闘シーンってすごいじゃないですか。2Dであんな計算されたコンテを切れるのは今の日本には富野さん以外いません。なのに、その富野さんが打ち合わせでチラっとこう言うんです。『まあ、何のことはない、つまんないコンテですよ』と。その言葉を聞いた瞬間に怒りと同時に悲しくなっちゃって。きっと富野さんのことだから言葉通りの意味ではないと思いますけど、僕にはその言葉が『コンテ通りにやれば富野作品っぽくなりますから』みたいなニュアンスに聞こえたんです。その時、僕は思いました『そんなことを言うんなら、(監督が)本当に想定してる以上の画面を出してやる。だから富野さん、ヤル気出してよ!』って」

 最後に富野監督への熱い思いも語った。

 「そういう経緯があったんです。おかげさまで時間と命を削りましたが(笑い)。テレビシリーズスタートの8年前、僕は24歳でした。当時、キャラクターデザインの吉田健一さんと『デジタルだとキャラクターの線に抑揚がない。アナログ時代のような人間味のある線を描きたいよね』と話していたんですが、当時の技術では全然実現できなかった。でも今の俺ならできる! やるんだったら今、俺がやるしかない!って。つまりは富野さんが喜んでくれればいいんです! それで本当に長生きしていただいて、たくさん作品を作っていただければと思っています。やっぱり富野さんはスゴすぎるから、スタッフ全員が富野さんのコンテ、演出に乗っかっちゃうんですよね。そこにあぐらをかいて、頑張らなくてもいいと思ってしまうのは『違う!』と。富野演出にしっかり向き合って、想像を働かせて、俺たちは新しいレコンギスタをしなければならない! そう思っています。以上です!」

 「G-レコ」は、「機動戦士ガンダム」誕生35周年記念作品の一つとしてテレビアニメ版が2014年10月~2015年3月に放送。地球のエネルギー源を宇宙からもたらすキャピタル・タワーを守るキャピタル・ガード候補生のベルリ・ゼナムの冒険を描いた。劇場版は、テレビアニメ全26話に新たなカットを追加。全5部作として上映される。完結編となる第5部「死線を越えて」が8月5日に公開された。

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