ガンダム:宇宙世紀作品を“日5”で放送する狙い 「劇場版SEED」、「閃光のハサウェイ」第2部、ハリウッド版はどうなる?

「ガンダム」シリーズの(左から)「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」「機動戦士ガンダム サンダーボルト」「機動戦士ガンダムNT」のビジュアル(C)創通・サンライズ
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「ガンダム」シリーズの(左から)「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」「機動戦士ガンダム サンダーボルト」「機動戦士ガンダムNT」のビジュアル(C)創通・サンライズ

 人気アニメ「ガンダム」シリーズの劇場作品「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)「機動戦士ガンダム サンダーボルト」、劇場作品「機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)」がテレビエディションとして、1月15日からMBS・TBS系の日曜午後5時のアニメ枠“日5”で放送される。3作品はいずれも宇宙世紀を舞台としたアニメだ。2022年10月に同枠でスタートした「機動戦士ガンダム 水星の魔女」は、女性主人公、学園を舞台とするなど新機軸を打ち出し、これまでガンダムシリーズを見てこなかった新たなファンを開拓した。「機動戦士ガンダムSEED」の劇場版、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の第2部、ハリウッド実写映画版などの制作も発表されており、今後のシリーズの展開が注目されている。「ガンダム」シリーズを手掛けるバンダイナムコフィルムワークスの小形尚弘プロデューサーに“日5”で宇宙世紀作品を放送する狙い、今後のシリーズの展開について聞いた。

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 ◇宇宙世紀という大きな沼

 富野由悠季監督が手掛けた「ガンダム」シリーズの第1作「機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)」が放送されたのは1979年4月~1980年1月で、2019年に40周年を迎えた。ガンダムシリーズは、40年以上かけて広がり、進化しながら、幅広い世代に愛されている。一方で、歴史の長さがネックとなり、初心者には敷居が高く見えてしまうところもある。「水星の魔女」は、新機軸によって、従来のシリーズのファンだけでなく、新規ファンの開拓に成功した。

 「シリーズが45周年に向かう中で、映像としては『水星の魔女』をフックに、さまざまな世代にアピールすることで、2世代、3世代で楽しめるコンテンツとして広げていきたい。『水星の魔女』は、日5が復活したタイミングで放送できましたし、一番大きな入り口になるようにチャレンジしてきました。大きな反響をいただいた中で、ほかにもさまざまな作品を見ていただくために、3作品を放送することになりました」

 「ガンダム」シリーズは、「機動戦士ガンダム」から続く宇宙世紀を舞台とした作品、「機動戦士ガンダムSEED」などの宇宙世紀以外が舞台の作品がある。「水星の魔女」も巨大な経済圏を構築した時代のA.S.(アド・ステラ)が舞台で、宇宙世紀作品ではない。

 「『SEED』以降、新しいファンを開拓し、若い世代の方に見ていただいてきた歴史があります。『ガンダム』シリーズには『SEED』のような宇宙世紀以外の作品、ファーストガンダムからファンの方に支えてきていただいた宇宙世紀の作品の両軸があります。『ガンダム』シリーズとして、どっちが主軸、本流というわけではないですが、新しく入ってきてくださった方に向けて、もう一つの軸である宇宙世紀の魅力も伝えていきたいという思いがあります。テレビアニメ、ゲームなどさまざまなきっかけで『ガンダム』シリーズに触れる機会があっても、継続して見続けていただくのは難しいところがあります。さまざまなきっかけを作っていこうとしました」

 「水星の魔女」で「ガンダム」シリーズに興味を持っても、膨大な作品群の中からどれを見たらいいのか? と悩む人もいるはず。小形さんは「難しく考えないでください」と語る。

 「ファーストガンダムの劇場版3部作から順番に見ていかなければならない、というわけではありません。例えば『閃光のハサウェイ』でしたら、『ガンダム』を知らない方でも映像美から入ってもらえればと考えていますし、これを機に『ガンダム』に対して興味を持っていただいた方は、宇宙世紀という大きい沼が広がっているので、どの作品からでも構わないので少しでも足を踏み入れていただけると、うれしいです」

 “日5”で放送されることになった3作品は、豪華クリエーターが生み出した名作ばかりだ。「閃光のハサウェイ」は、1989~90年に富野監督が発表した小説をアニメ化、劇場版アニメ「虐殺器官」の村瀬修功さんが監督を務めた。2021年に公開され、興行収入が22億円を突破するなどヒットした。「NT」は、「機動戦士ガンダムUC」などの福井晴敏さんが脚本を担当した作品で、2018年に公開された。「サンダーボルト」は、「MOONLIGHT MILE」などで知られる太田垣康男さんのマンガをアニメ化。それぞれ新たにテレビエディションとして放送される。

 放送作品は「近年、最新技術で作られた作品」を選んだという。中でも「サンダーボルト」は“重い”作品だ。コアなファンが多い傑作ではあるが、“日5”で放送するには「重すぎるのでは?」という声もある。太田垣さんに取材した際も“日5”で放送されることを「想像していませんでした」と驚いていた。

 「重さで選んだわけではないですよ(笑)。そこは『ガンダム』の一面でもあって『水星の魔女』も重い部分がありますし。確かに『サンダーボルト』はテーマ的には重い部分もありますが、マンガは連載10周年を迎えたタイミングでもありますし、映像的には今見ても、よく手描きで作ったな……となるくらいクオリティーの高い作品です。マンガの連載は続いていますし、アニメの続きを作らないとは誰も言っていないので、今後につなげていきたいところもあります」

 ◇アニメ変革期の戦略

 2021年には「機動戦士ガンダムSEED」の劇場版が再始動することが発表されたが、それ以降は続報がない。テレビシリーズの続編で、福田己津央監督の下、「鋭意制作中」ということだが……。

 「公開時期などは今後、発表していきます。『SEED』は2022年に20周年を迎え、20年前から応援してくださるファンの方、一度離れてしまった方もいらっしゃいます。みんなでお祭りのように盛り上げていきたいと考えています。20周年の集大成としてすごくよいものになるという手応えを感じています」

 「閃光のハサウェイ」は第2部のタイトルが「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ『サン オブ ブライト』(仮題)」となることが発表されている。第1部が日5で放送されることもあって、第2部以降の展開が気になるところだ。

 「こちらも鋭意制作中です。村瀬監督の中で形が見えてきていて、デザインなどは固まりつつあります。今の時点で言えるのは、小説の中巻がメインの話になりますが、小説の印象を大事にしつつ、また違うものになっていきそうです。戦闘シーンが少し増えて、手触りもこれまでとは違ったものになるはずです。富野監督にも『中巻だけではもたない!』と言われたのですが、映像化にあたってプラスアルファを入れていきます」

 ハリウッド実写映画版の「機動戦士ガンダム」にも期待が高まる。映画「キングコング:髑髏島の巨神」のジョーダン・ヴォート=ロバーツさんが監督を務め、バンダイナムコフィルムワークスと映画「パシフィック・リム:アップライジング」などのレジェンダリー・ピクチャーズで共同開発している。

 「シナリオ、デザインを詰めています。プロダクションはレジェンダリーさんですが、我々もシナリオ、全体を見ています。レジェンダリーさんなので、クオリティーは素晴らしい。皆さんが望んでる“実写版ガンダム”になれるように制作しています。米国ではガンプラを含めて『ガンダム』の認知度が広がっていますが、まだまだ広げていきたい。そのための起爆剤としたい。『ガンダム』に限らず日本のアニメは、ニッチな部分がある種の強みとなっています。ただ、ハリウッド版の規模だと、ニッチな部分だけではなく、マスにも開いていかないといけない。文化の違いもあります。そこのバランス、落としどころを監督含め議論しています」

 「水星の魔女」で新規ファンを開拓するなど「ガンダム」シリーズがさらに注目が集まる中、「今が攻めどきなのでは?」とも感じるが、小形さんは冷静だ。広い視野で、シリーズのさらなる発展を目指している。

 「作り方、海外戦略などが変わっています。日本のアニメ自体が変革の時期です。私がサンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)に入ってから25年くらいたちますが、セル時代からやっていて、これまでも作り方が変わってきました。ここ数年でさらに大きく変化しています。どの作品も海外への配信が切り離せなくなっています。世界に向けた作品を発信していかなければいけません。富野監督の新しい作品も作っていきたいですし、『SEED』のようにお待たせしてしまっている作品もあります。皆さんに早くたくさんの作品を見ていただけるようにしていきます」

 4月からは「水星の魔女」の第2クールがスタートする。45、50周年、さらにその先へ……とガンダムシリーズはさらなる広がりを見せてくれそうだ。

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