ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー:求めていたものをくれた圧倒的ホスピタリティー

人々の「これが見たかった!」を引き出し、「これが欲しかった!」にも応えながらファンを満足させています
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人々の「これが見たかった!」を引き出し、「これが欲しかった!」にも応えながらファンを満足させています

 人気ゲーム「スーパーマリオ」の劇場版アニメ「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が、日本国内での興行収入が100億円を突破。ヒット作の映像化は必ずしもファンに受け入れられるわけではありませんが、本作は空前の大ヒットを記録しています。アニメコラムニストの小新井涼さんが、その理由を解説します。

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 世界中で好評を博し、ついにはアニメーション作品の全世界興行成績歴代第3位にまでなったことも話題の「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」。日本でも4月末に公開され、国内では海外アニメ史上最速で興行収入が100億円を突破するほどの盛り上がりをみせています。

 実際に鑑賞した人々の間でも、ゲームファンであるなしを問わず、幅広い年齢層から支持を集めている本作ですが、一体どういった点が鑑賞者のツボに刺さっているのでしょうか。

 真っ先に思い浮かぶのは、本作があらゆる層が楽しめる“まるでゲームのような映画”である点です。

 本作の軸となっているオリジナルのストーリーは、世界観や設定、次にクリアすべき目的が明快で、ゲーム自体はあまり遊んだことがないという人たちや、小さな子供たちも置いてきぼり感なく楽しめるものとなっています。そしてゲームを遊んだことのある人々に向けては、そうしたオリジナルの物語をベースに、幅広い層に刺さる小ネタがふんだんに散りばめられているのもポイントです。

 アーケードやファミコン世代から最新のニンテンドースイッチ世代まで、一度でもマリオ関連のゲームを遊んだことがあるなら『これは!』となる瞬間には、本編とは別に隠し通路や隠しシナリオをみつけて遊んでいるかのような楽しさがあります。実際に、スーファミからニンテンドウ64あたりが直球世代の筆者でも懐かしい発見がたくさんできてうれしくなりましたし、皆が「来るぞ……」と思っていたであろうスーパースターゲット時に“あのBGM”が流れた瞬間は、分かっていても「待ってました!」と鳥肌が立ちました。

 そうして、映画でありながらまるでゲームのようにおのおの自身に合った難易度で挑めて夢中になれる本作だからこそ、マリオビギナーから人生をマリオと歩んできたぐらいのゲーム好きにまで、幅広い層に刺さっているのでしょう。

 本作の“まるでゲーム”のような点は、なにもストーリーだけにとどまりません。本編中に散りばめられた小ネタをいくつ発見できるか挑戦したり、鑑賞後にYouTubeなどでそうした小ネタの解説動画を見て、それを確認するために何度も本作を鑑賞したくなる感覚などは、攻略本片手に繰り返しゲームに挑む楽しさとも似ています。

また、映画を見て「あのゲームでまた遊びたいな」と懐かしく思った人や「ゲームでも遊んでみたいな」と思ったマリオビギナーの想いに応えるべく、多くの関連ゲームが新旧問わずニンテンドースイッチに集約されていて、いつでも遊べるところもポイントです。そうして映画鑑賞の延長でゲームをプレーして改めて両者の繋がりを強く感じることで、映画であるはずの本作がまるでシリーズの1タイトルのようにも思えて、ゲームの映像化作品に抱かれがちな異物感や別物感もなく、ファンにこれだけ受け入れられているのだと思います。

 誰もが知るヒット作の映画化は、話題になりやすい一方で、それぞれが抱く作品イメージや期待値の高さから、観客の評価も自然と厳しめになり、盛り上がりのハードルも高くなります。例えばキャラクターデザインが原作から著しくかけ離れていたり、原作ファンががっかりするようなオリジナル要素で世界観が大きく変わってしまったりしては、新規のファンは獲得できても、失望したファンの声はヒットへの逆風にもなってしまうからです。

 その点本作は、映画としてのオリジナル要素と原作への忠実さやリスペクトが絶妙な案配で組み合わさることで、人々の「これが見たかった!」を引き出し、さらには映画を見て原作ゲームを遊びたくなった時の「これが欲しかった!」にも応えながら、マリオを知る幅広い観客層を大いに満足させています。

 そうした、人々の「これぞマリオのアニメーション映画化に求めていたことだ!」に手厚く応えたある種の“圧倒的なホスピタリティー”が、これだけ多くの人々に支持され、日本をはじめ世界中でヒットしている要因となっているのでしょう。

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 こあらい・りょう=KDエンタテインメント所属、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約10年前から継続しつつ、学術的な観点からもアニメについて考察・研究し、大学や専門学校の教壇にも立つ。アニメコラムの連載をする傍ら、番組コメンテーターやアニメ情報の監修で番組制作にも参加している。

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