解説:安彦良和“幻”のアニメ「ヴイナス戦記」 “封印解除”への思い

「ヴイナス戦記」のビジュアル(c)1989学研・松竹・バンダイ
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「ヴイナス戦記」のビジュアル(c)1989学研・松竹・バンダイ

 「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを担当したことでも知られる安彦良和さんのマンガが原作の劇場版アニメ「ヴイナス戦記」が、BS12 トゥエルビの「日曜アニメ劇場」枠で7月30日午後7時に放送されることが話題になっている。。同作は、1989年に公開されたが、安彦さんが“封印宣言”したこともあって、“幻のアニメ”とも呼ばれていた。公開30周年を迎え、安彦さんが“封印解除宣言”したことによって、ネガフィルムが開封された。“幻”の「ヴイナス戦記」を解説する。

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 ◇超豪華スタッフによる高密度作画

 「ヴイナス戦記」は、「クラッシャージョウ」(1983年)、「アリオン」(1986年)に続く安彦さんの3作目の劇場版アニメとして1989年に公開された。アフロディアとイシュタルという自治州同士によって戦争状態となった金星ヴイナスを舞台に、アフロディアに住む少年・ヒロが戦争に巻き込まれていく……というストーリー。植草克秀さんが主人公・ヒロを演じたほか、声優として水谷優子さん、原えりこさん、佐々木優子さん、納谷悟朗さん、大塚芳忠さんらが出演した。

 SF作家の笹本祐一さんが脚本を担当し、“安彦作品”に参加してきた神村幸子さんが作画監督を務めた。メカニック作画監督は佐野浩敏さんで、メカデザインとして横山宏さん、小林誠さんが参加。久石譲さんが音楽監督を務めた。作画スタッフも豪華だ。若き日の川元利浩さん、沖浦啓之さん、山下将仁さん、仲盛文さん、井上俊之さん、大貫健一さん、大橋誉志光さん、大森貴弘さんらが参加した。

 「1980年代にアニメの技術が一つの頂点を迎えた」という声もある。同作が公開された1980年代後半、“高密度作画”が注目を集めていた。「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(1987年)、「AKIRA」(1988年)などが誕生し、その後のアニメに多大な影響を与えた。「ヴイナス戦記」もまたハイクオリティーな映像が魅力の一つになっている。

 ◇“封印解除”の理由

 「ヴイナス戦記」には豪華スタッフ、キャストが参加したがヒットしなかった。安彦さんは同作をきっかけにアニメ制作の現場から一度引退した。安彦さんが「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」(2015年)で、アニメの現場に本格的に復帰するのは「ヴイナス戦記」の公開から四半世紀ぶりのことだった。

 同作は、ビデオやレーザーディスクが発売され、海外でも映像ソフトが流通していたため、完全に“封印”されていたわけではない。「伝説」「幻のアニメ」として語り継がれていた。

 公開30周年を迎えた2019年、安彦さんは“封印解除”を宣言する。ネガフィルムが開封され、HDデジタルリマスター版が上映、配信され、ブルーレイディスクが販売されることになった。“封印”されていたこともあり、ネガフィルムは最高に近い状態で保存されていたという。

 “封印解除”にあたり、安彦さんは「30年ぶりの『ヴィナス戦記』。30年前、僕は敗者でした。その屈辱と自分へのいら立ちで、僕は本作を封印したのです。それは、昭和が終わる、さまざまな意味での節目の年でした」と振り返った。

 “封印解除”への思いを「30年が経ち、今、平成という次の時代も終ろうとしています。デジタル配信の時代になり、“封印”という古びた手法ではもう作品を隠せないことを教えられ、僕は本作と再会しました。懐かしかったです。どの画面も、そして、字幕で見るスタッフの、あの名前も、この名前も。今は、作品と、皆さんにわびたい気持ちです。そして、見てやってほしいと切に思っています。タイムカプセルから出た本作を、現在(いま)の時代の目で」と明かした。

 公開当時、安彦さんは「若い人たちへの精いっぱいのメッセージの気分」を込めて原作を描いたと語っていた。「現在(いま)の時代の目」に「ヴイナス戦記」はどのように映るのだろうか? ぜひ、その目で確認してほしい。

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