解説:水川あさみ、不惑の新境地 「ブギウギ」“大阪のお母ちゃん”ツヤ好演 「陽」と「陰」を繊細に表現

NHK連続テレビ小説「ブギウギ」でヒロインの母、ツヤを演じた水川あさみさん (C)NHK
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NHK連続テレビ小説「ブギウギ」でヒロインの母、ツヤを演じた水川あさみさん (C)NHK

 俳優の趣里さんがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「ブギウギ」(月~土曜午前8時ほか)に、ヒロイン・スズ子(趣里さん)の母・ツヤ役で出演した水川あさみさん。愛情と懐の深さをにじませるユーモアあふれる母親を、存在感たっぷりに演じ切った。ツヤは、第39回(11月23日放送)でこの世を去ったが、水川さんは“大阪のお母ちゃん役”で俳優としての新たな扉を開き、視聴者から「ハマり役」と称賛の声を集めた。ここでは、劇中で見せた水川さんの好演ぶりを解説する。

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 ◇ただ明るいだけのお母ちゃんではなかったツヤ

 「ブギウギ」は、「東京ブギウギ」や「買物ブギー」などの名曲を歌った戦後の大スター・笠置シヅ子さん(1914~85年)が主人公のモデル。激動の時代、ひたむきに歌と踊りに向き合い続けた歌手の波瀾(はらん)万丈の物語で、登場人物名や団体名などは一部改称し、フィクションとして描く。

 水川さんは1983年生まれ、大阪府出身。今年40歳となった水川さんは、33歳の趣里さんと実際の年齢差は7歳だが、それを感じさせない自然な演技を見せ「親子役に全く違和感がない」と話題に。水川さんのネーティブな大阪弁のせりふ回しにも注目が集まった。

 第5話(10月6日放送)では、梅丸少女歌劇団(USK)の入団試験の日程を間違えた鈴子(澤井梨丘さん)のために、ツヤがUSKに駆け込み、「1曲だけでも聴いたってくれまへんやろか」と手土産のおかきを差し出して猛アピールするシーンがあった。この場面では、USKの音楽部長・林(橋本じゅんさん)から「ようしゃべる親子やなぁ」と驚かれるほどのテンポのいいしゃべりを披露。コミカルさで視聴者を魅了した。

 そんなはつらつとしたイメージのツヤだが、ただ明るいだけのお母ちゃんではなかった。第5週「ほんまの家族や」(10月30日~11月3日放送)では、ツヤの故郷・香川で法事に出席したことをきっかけに、スズ子が、ツヤと梅吉(柳葉敏郎さん)の実の子ではないことを知ってしまうが、このエピソード以降、ツヤのキャラクターに深みが増していく。

 第24回(11月2日放送)では、東京に新しくできた梅丸楽劇団に行くことを決意したスズ子が、ツヤに「東京に行きたい」と告げるシーンがあった。これまでスズ子のやりたいことを優先し、背中を押してきたツヤだったが、「あかんもんはあかん!」と声を荒らげ猛反対。ツヤは、スズ子を香川の法事に行かせて以来、スズ子が出生の秘密を知ってしまったのではないかと不安を抱えており、スズ子が自分の元から離れてしまうことを恐れていたのだ。

 最終的には、「東京で思いっきり歌って、踊って来なはれ!」と笑顔でスズ子を送り出したが、ツヤが持つ「陽」と「陰」の部分を、水川さんは繊細な演技で表現。ずるさや弱さをのぞかせた演技に、視聴者から「感情がすごく伝わる」と称賛の声が上がった。

 ◇大きな愛情で子供たちを包み込む偉大な母を、最後まで生き生きと

 スズ子が東京で歌手として成長し「スウィングの女王」と呼ばれるようになった頃、ツヤの体に異変が。いつも銭湯「はな湯」の番台に座り、明るい笑顔を振りまいていたツヤが、病に冒され、床に伏すようになっていた。

 そんな折、六郎(黒崎煌代さん)のもとに赤紙が届く(第36回、11月20日放送)。出征前夜、軍隊では鈍臭いのを卒業すると意気込む六郎に、ツヤは「ほんまはみんなあんたみたいに素直で正直な人間になりたい思ってんねんで」と語りかけた。そして、「あんたが帰って来るの、首なご~うして待ってるからな」と涙を浮かべ、いとおしそうに六郎を抱きしめた(第37回、11月21日放送)。自身の病状も悪化し、愛する息子が戦地に赴くというつらい局面でも気丈に振る舞う姿に、母としての強さと慈愛を感じさせた。

 一方、第38回(11月22日放送)では、ツヤの業の深さやエゴが垣間見える場面も。ツヤは梅吉に、自分が死んだ後、何があってもスズ子を生みの親であるキヌ(中越典子さん)に会わせないでほしいとお願いする。ツヤは「これから生きていく、ワテの知らんスズ子を、キヌが知るんは耐えられへん」と吐露し、「性格悪いやろ。醜いやろ」と自嘲した。スズ子への愛情の深さゆえに自分勝手になるツヤの切ない心情を、水川さんが見事に表現した。

 そして、第39回では、ツヤ危篤の知らせを受け、スズ子が大阪に戻ってくる展開に。ツヤはスズ子の前で最後の気力を振り絞り、以前のように番台に座るが、すぐに倒れてしまう。ツヤはスズ子に「あんたともっともっとおりたかったわ。あんたと少しでも長く」とあふれる思いを告げた。スズ子はツヤとの思い出の曲「恋はやさし野辺の花よ」を歌い、それを聴いたツヤは涙を流しながらも笑顔で拍手を送った。そして、ツヤはその日のうちに息を引き取った。死の間際の母と娘の表情からは、血のつながりを超えた強い絆が感じられた。水川さんが、大きな愛情で子供たちを包み込む偉大な母を、最後まで生き生きと演じきった証だ。

 家族の中で一足先にドラマから退場してしまったツヤだが、水川さんが演じた数々の名場面は、視聴者にとって忘れられないものになったはずだ。

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